SKY-HIが主宰するBMSG所属のソロアーティストとして音楽活動を開始したのが2022年1月。SKY-HIの、そしてBMSGのイズムに共鳴したAile The Shotaはヒップホップシーンとポップのメインストリームとをシームレスに横断できる稀有なアーティストとして、その存在を濃くしていった。そういう自身のアイデンティティを明確に打ち出したのが昨年リリースした“J-POPSTAR”という楽曲。「本質的」に構築された先鋭的なトラックに「大衆的」なメロディと歌を乗せ「ポップソング」としてアプローチするという、Aile The Shotaならではの音楽世界がそこに立ち現れた。
そのモードが極まって、今年はさらに“踊りませんか?”というキャッチーでセンスフルな楽曲が生まれ、それが今作への軸となっている。Aile The Shotaはなぜヒップホップやブラックミュージックのカルチャーと、ポップスの大衆性とを、自身の音楽の中で同時に確立させたいと思うのか。なぜそれをポップシーンのど真ん中で鳴らしたいと願うのか。その答えがこのアルバムには詰まっているように思う。
Aile The Shotaの壮大なる野望、その思いが生まれた背景を、「THE FIRST」参加以前の音楽活動から遡ってひもといていく。
インタビュー=杉浦美恵 撮影=畑 聡
──記念すべき1stアルバム『REAL POP』。そこに至るまでの道として、今一度、Aile The Shotaの歩みを辿っておきたいのですが、まず「THE FIRST」のオーディションを受ける前のShotaさんはどんな音楽活動をされていたんですか?「大衆的で本質的な存在でありたい」という概念は、この2〜3年で固まってきたものだけど、大きな目標は「THE FIRST」に参加する前から変わっていない
高校生の頃にワタナベエンターテインメントの養成所に1年間ぐらい通っていました。シンガーソングライターコースの1期生で。大学に入ってからは、ダンスを始めたのをきっかけに洋楽やヒップホップを聴くようになって。そこから自分の作りたい音楽が見えてきたという感じでしたね。当時は音楽に「チル」という表現が使われ始めて、それがトレンドになるような時代で、それとは別に「フリースタイルダンジョン」が盛り上がっていて。日本でもヒップホップ、R&Bがまた盛り上がっているのを肌で感じながら、「俺、こっち系かも」と思ったんです。で、大学を出てから1年間くらいはフリーターしながら音楽を続けていました。昔から自分が作るメロディラインには自信があって、いつか必ず(世に出る)という根拠のない自信だけはありましたね。そんな時期に「THE FIRST」のオーディションがあって、迷わず飛び込んだという感じでした。
──その流れとボーイズグループのメンバーになるという道は、似て非なるもののような気もしますが、参加に迷いはなかったですか?
実は僕がいちばんはじめにハマったアーティストはKAT-TUNさんだったんです。小さい頃には事務所に履歴書を送ろうとしてたぐらい(笑)。そのあとK-POPのトレンドも来て。自分もダンスを始めてたこともあって、ダンス&ボーカルのグループというのはずっと好きなものだったんですよね。でも日本で本質的なダンス&ボーカルをやっているグループって僕は見たことがなくて、それをSKY-HIが作ろうとしていると。SKY-HIはいわゆるアンダーグラウンドカルチャーに傾倒しながらもAAAとしても活動していて──僕、AAAもすごく好きだったし──この人のところなら、いろんな角度で夢を叶えられるかもしれないと思って参加を決めました。
──結果的にはSKY-HIさんは、ShotaさんはBE:FIRSTのメンバーになるよりもソロで光るアーティストであるというふうに見抜いたわけですよね。そこからソロデビューの準備を進める過程で、当初はどういうアーティストになろうと思っていましたか?
BMSGからAile The Shotaとして動き出すなら、迷わず「かましてやろう」みたいなマインドはずっとありましたね。最近はそれがより具体的になってきている感じ。「大衆的で本質的な存在でありたい」という概念は、この2〜3年で固まってきたものだけど、そもそも自分はポップシーンに憧れて音楽を始めたわけだし、大きな目標は「THE FIRST」に参加する前から変わっていないです。
──デビュー前のShotaさんは日本のポップシーンとヒップホップカルチャーをどう捉えていましたか?
デビュー前からダンスがきっかけでヒップホップのシーンにいたんですけど、ラッパーの隣でメロウなメロディのものを歌うというライブを何度か経験したことがあったんです。その中で「自分は意外と新しい存在なのかもな」ということを自覚していました。ヒップホップの独自のカルチャーが好きだし、自分ならポップシーンでそれを鳴らすことができるんじゃないかって。自分が好きな音楽のまま、メインストリームのど真ん中に行けるんじゃないかと思っていました。
──それがはっきりと提示されていたのが昨年の“J-POPSTAR”だったと思います。
そうですね。“J-POPSTAR”は自分の中で重要な曲で、日本のヒップホップシーンにおける超キーマンのVLOTさんのビートで“J-POPSTAR”を歌うことの、ある種の皮肉というか。「それを言えるのは俺しかいない」と思ったし、その中で「ドリカム」というネームドロップを入れられるのも自分にしかできないことだと感じてました。この曲はまさにAile The Shotaの存在証明だと思える曲で、日本でも徐々にヒップホップとポップの距離が近づいてきてる気がするんですよ。でも、もっと日本のヒップホップ、R&B、レゲエとかもそうですけど、そういうカルチャーがポップシーンでも表現されていいと思うし、まだまだできることがいっぱいあると思っていて。僕が「ポップだ」と思うのはメロディの部分が大きいですけど、J-POPにしかないメロディラインって絶対あると思うので、それを掲げながら、自分が他のカルチャーごとフックアップできるように、デビュー当時から頑張っているという感じですね。
──“踊りませんか?”はまさにその思いを象徴するような曲でした。ただポップなだけではないのが僕だから、Aile The Shotaを説明するには「本質的で大衆的であること」というのと、「リアルであること」というのが、いちばん腑に落ちた。だから『REAL POP』
Chaki Zuluさんのトラックの鳴りが、メインストリームでどんどん受け入れられていくのがとても嬉しくて。もっと踊れる国にしたいんですよね。「踊る」ということからはなかなか遠い国民性だとも思うので。そこにもっとアプローチしたいなっていうのがあります。でも“踊りませんか?”はChakiさんから「Aile The Shotaは絶対ポップをやったほうがいい」って言われたから生まれた曲でもあるんです。「どこまでもポップに、上に上に上って行った先で、その時こそ好きなラッパーを呼べばいいじゃん」って言われて、すごく気づかされたというか。それ以前の僕の4枚のEPでは、すべて自分のことしか歌っていなかったんです。それがAile The Shotaの序章としてのこだわりでもあって。だからこそ“踊りませんか?”を書いてる時はちょっと違和感もあったんですけど、セッションしてるうちに僕も「ポップスを作るとは?」みたいなことを考え始めて、どんどん自分の中の「今後はなくしていってもいいこだわり」みたいなものを削ぎ落としていくことができたんです。そこで削ぎ落とせなかったものに説明がついたのが今回の『REAL POP』です。
──「ポップとは?」ということを突き詰めた結果、今作が完成したんですね。
そうですね。僕は昔から、1stアルバムのタイトルは『○○POP』にしようと決めていたんですけど、そこに当てはまる言葉をずっと探していたんです。ただポップなだけではないのが僕だから、Aile The Shotaを説明するには「本質的で大衆的であること」というのと、「リアルであること」というのがいちばん腑に落ちたので、だから『REAL POP』というタイトルにしました。
── “さよならシティライト”は、これまででいちばんJ-POP的で普遍的な物語を描いている曲だと思うのですが、それをあのトラックに乗せて歌うというのはどういう想いだったのでしょうか。
あれは、“踊りませんか?”のセッションでChakiさんとAile The Shotaが出した正解みたいなものがあって、「これだよね」っていうバランスが整った状態でセッションに入っていけたのが大きかったですね。サウンドはいわゆるシティポップ調にするとかガラージっぽくするとか、よりハウスっぽくするとか、いろいろ悩んだ中で決まっていったんですけど、歌詞に関しては僕のメモに「酔った時にだけ電話する」っていうのがあって(笑)。それで《酔ったときだけ 電話しないで》っていう歌詞が生まれました。Chakiさんにも「めっちゃいいじゃん!」って言っていただけて。
──Aile The Shotaとしてはすごく画期的なポップソングになりましたよね。
そうなんですよね。ただファンタジーを描くだけの歌詞が昔から嫌だったんですけど、“踊りませんか?”でAile The Shotaが書く「物語」のバランスが見えたからこそできたんだと思います。“踊りませんか?”は僕のマインド的にもすごく大事な曲だったと思うし、掲げてるものは今後のAile The Shotaにとって永遠のテーマなんですよね。日本中を踊らせる、いろんな意味で踊らせるっていう。なので、このアルバムを通してまた“踊りませんか?”がフィーチャーされると嬉しいです。