TV アニメ『アイカツフレンズ!』の日向エマ役などで大人気の声優「二ノ宮ゆい」は、今年の1月に「ニノミヤユイ」としてアーティストデビュー。8月にリリースしたシングルの表題曲“つらぬいて憂鬱”は、自身もルヴェリア・サンクトゥス役を演じているTVアニメ『ピーター・グリルと賢者の時間』のOP主題歌となった。作曲を手掛けたのはTom-H@ck。彼は作編曲家として様々な作品を世に送り出し、音楽ユニット「OxT」や「MYTH & ROID」でも活躍している。両者に“つらぬいて憂鬱”の制作エピソード、互いの音楽のルーツ、表現活動に対する姿勢などについて話し合ってもらった。心の翳を包み隠さず歌い、「陰キャのカリスマ」と称されているニノミヤの意外な一面も垣間見える対談だと思う。
インタビュー=田中大
私も自分のできなさとか弱さがだんだん怒りに変わっていくところがあるんです。それをそのままラップで出しました(ニノミヤ)
――おふたりが初めて会ったのは、“つらぬいて憂鬱”の制作の際の打ち合わせですか?ニノミヤ そうです。私は楽曲を作家さんに作っていただく時に、「こういうことを考えてて、こういう性格なんです」と、必ず内面のことをお話しするんですけど、「自信がないんです」とか「クラスにいる垢抜けてる人のほうへは行けない」というようなお話をしました。
Tom-H@ck 打ち合わせの時、30分くらいお話をして、「『ネオ“もってけ!セーラーふく”』みたいな感じは、どうですか?」という提案をさせていただいたのを覚えています。流行が一周りした今のタイミングで、過去に大ヒットした“もってけ!セーラーふく”のイメージのことをやるのは面白いと思ったので。あと、「ダークなものをそのままダークにやっても面白くないな。ユイちゃんのネガティブな、いい意味での強いパワーみたいなのをそこに合わせたら面白いんじゃないかな」というのも思っていましたね。
――この曲はBメロのラップパートがすごく印象に残ります。セリフ的なニュアンスもあるので、ニノミヤさんの声優としての感情表現の豊かさも発揮されていますよね。
ニノミヤ やってみたら意外とできたというか。ラップにしたら歌詞も言いやすくて、気持ちも込めやすくなったんです。私も自分のできなさとか弱さがだんだん怒りに変わっていくところがあるんです。それをそのままラップで出しました。
Tom-H@ck いつもそういう精神状態になったらどうするの?
ニノミヤ 発散するのが苦手で、感情を溜めて溜めて爆発するんですけど。
Tom-H@ck 爆発するとどうなるの?
ニノミヤ めちゃくちゃ落ちますし、もろに体調に出ます。
Tom-H@ck でも、ハッピーなこともあるんでしょ? 最近ハッピーだったことは?
ニノミヤ シャインマスカットを1房、全部ひとりで食べました。
Tom-H@ck それは贅沢だね(笑)。小さな幸せは大事。
ニノミヤ あっ、もうひとつありました。もともと睡眠の質が悪いんですけど、おでこに冷えピタをして夜の11時くらいに寝たら、朝の6時半に自然に目が覚めました。
Tom-H@ck 今度、5箱くらい冷えピタを事務所に送っておくよ……って、なんの話ですか(笑)。
――(笑)。この曲の起伏に富んだサウンドを、ニノミヤさんは見事に歌いこなしていますね。
Tom-H@ck めちゃめちゃ上手いですよ。
ニノミヤ そんなことないです。
Tom-H@ck リズムも良い。ピッチが良くてもリズムが悪い人が結構いるけど、ユイちゃんはどっちもすごいから。珍しいと思う。
ニノミヤ いやいや、とんでもないです。すみません……褒められるのに慣れていないので、なんと言ったらいいいのか(笑)。ネガティブな性格なので、疑いから入っちゃうんですよ。
Tom-H@ck 「ほんとにそう思ってるの?」って?
ニノミヤ はい(笑)。
Tom-H@ck でもその気持ちわかる。俺も褒められるの苦手だから。
ニノミヤ そうなんですね。私も「大丈夫ですか? 気を使わせてませんか?」ってなるので。
Tom-H@ck 今の俺が言ったのは正直な気持ちなので、疑わずに受け取ってください。
ニノミヤ はい(笑)。
成長過程で初めて自分から魅力を感じて、「このジャンルを聴きたい」と思ったのはボカロでした(ニノミヤ)
――ニノミヤさんは、どういう音楽を聴いて育ったんですか?ニノミヤ 両親が吹奏楽をやっていたので、小っちゃい頃から家でかかっていたのは吹奏楽、クラシックです。J-POPとかロックを聴く機会は少なくて、あまり興味を持たないまま成長していったんですよね。でも、成長過程で初めて自分から魅力を感じて、「このジャンルを聴きたい」と思ったのはボカロでした。小4くらいの時に友だちに薦められて聴いたんですけど、物語があって、その物語に音楽がついていて、機械が歌っているっていうのが、私の中で新しい感覚だったんです。
――Tom-H@ckさんの音楽のルーツは?
Tom-H@ck ジャズとオーケストラとロックが並行していた感じですね。ハリウッド映画が大好きで、流れている音楽からオーケストラに興味を持って、そういうのを聴いている最中にラウドロックにも出会ったんです。リンキン・パーク、リンプ・ビズキット、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンとかが流行った時期だったので。あと、「音楽で何かやりたい」って思った時に「全ジャンルできないといけない」と考えてジャズも聴いて、ウェス・モンゴメリーとかをコピーして練習していました。
ニノミヤ 私は「このアーティストさんを聴く」っていうのがなくて、「この曲が好き」っていう感じだったんです。でも、高3の時に軽音部の友だちとかとバンドを組むことになって、みんなが好きなバンドのことを話しているのを聞いて、「私、全然音楽のこと知らないな。聴かなきゃ」って思ったんです。いろいろ聴いて、ハマったのはTHE ORAL CIGARETTESさんでした。
――高3の時のバンドは、どんな曲をやったんですか?
ニノミヤ 文化祭でコピーバンドをやる感じだったんですけど、全曲ボカロ、アニソンでしたね。LiSAさんの“Catch the Moment”とか、ボカロ曲の“ロキ”とか。私のパートは、ボーカルでした。
――学生時代は吹奏楽部でフルートを吹いていたそうですが、それ以外の楽器をやってみようと思ったことは?
ニノミヤ 今、ピアノをちょっとやっています。前から「できたらいいな」って思っていたので。あと最近、ギターへの興味も芽生えてきています。でも、何から始めたらいいのかわからず、「ギター 初心者」とかネットで調べるところで止まっているんですけど(笑)。
Tom-H@ck 音楽の基礎があるから、すぐできちゃうと思うよ。
ニノミヤ いやいや、とんでもないです。私、楽器の上達がすごく遅いので、ギターを始めてもファンのみなさんには言いたくないです(笑)。
Tom-H@ck そうなんだ(笑)。
ニノミヤ ピアノを始めたことはみなさんも知っていて、ピアノの成長過程はランティスさんのYouTubeチャンネルで動画を公開していただいているんですけど、「弾き語りとか楽しみにしてます」って言われると、「まだそんな……違うよ」って恐縮しちゃうんですよね。