打首獄門同好会の近況は、最新のアーティスト写真を見れば手に取るようにわかるはずだ。レキシとのコラボレーション“鬼の副長HIZIKATA feat. ぼく、獄門くん”、氣志團トリビュートアルバムへの参加、2週連続で配信されたデジタルシングル“死亡フラグを立てないで”“地味な生活”……2022年にリリースされた音源は、サンバダンサーの衣装、新撰組の隊服、特攻服、木刀によって端的に表現されている。その他にも“死亡フラグを立てないで”のミュージックビデオメイキング映像を公開したYouTube番組『10獄放送局』、総合筆記具メーカー・株式会社パイロットコーポレーションのWEBコンテンツ『じぶんの字がキライな人のための文具店』のために書き下ろされた“PILOT STORY”、各地の音楽フェスティバルへの出演、「新型コロナウイルスが憎いツアー2022」など、目を引く動きは尽きない。最近の活動について大澤敦史(G・Vo)に語ってもらった。
インタビュー=田中大
「伝統工芸の職人さんが趣味でやってるガンプラのものすごさ」みたいな感じかも。半端なものじゃ気が済まないんです
――“死亡フラグを立てないで”の配信スタート前にMVの撮影過程をYouTube上のインターネット番組『10獄放送局』で公開するというユニークな動きをしていましたよね?「はい。『10獄放送局』を観てくれた人と、公開されたMVから入った人それぞれの反応になるのは予想通りでした。『あれがこうなるんだ?』って答え合わせをする人がいる一方で、『MV面白かった!』っていう人が『メイキングもあるよ』って教えてもらって『メイキングも面白かった!』ってなってたので、やったかいがあったなと思っています」
――前からずっとやっている『10獄放送局』の面白さが、より広まるきっかけにもなると思います。
「広まってほしいですね。知る人ぞ知る隠しコンテンツみたいな感じになってるところもあるので。あれはバンドの作るサブコンテンツとしては、まあまあ群を抜いてると思うので。まあ、ミュージシャンがサブコンテンツにそういう願望を持ってもアレなんですけど」
――音楽活動と同等の情熱を注いでいますよね?
「どうなんでしょうね? 音楽に対してはプロ意識があるんですけど、番組に関してはそういうのが一切ないんですよ」
――音楽活動の根本にもある「こういうことをしたい!」っていうピュアな衝動がすごく表れているのが『10獄放送局』だという印象です。
「そうかもしれないですね。『伝統工芸の職人さんが趣味でやってるガンプラのものすごさ』みたいな感じかも。そこにも職人さんのこだわりはものすごく注がれていますからね。まあ『10獄放送局』は『水曜どうでしょう』リスペクトなので。『水曜どうでしょう』ごっこに本気を出しているんです。好きなもののごっこなので、半端なものじゃ気が済まないんです」
――ごっこに本気になるのって、あらゆる創作の原点だと思いますよ。バンドを始めるのだって、誰かに憧れるのが出発点ですから。
「そうですよね。そういう『10獄放送局』がどこまで続くのかわからないですけど。もう8年間やってるんですよ。会社に止められないどころか、社員も巻き込まれてます(笑)」
キャッチーに聴かせて、「実はそうなってるんだぜ」みたいなのがいちばんいい。「自然と変なことができた」という満足感があります
――“死亡フラグを立てないで”はミステリー作品などでお馴染みの死亡フラグがテーマですが、サウンドも猛烈にかっこいいです。「やはりそこは最優先なので。これでサウンドがおちゃらけてたら、『ふざけた奴らだな』で終わっちゃうので。こんな曲ですけど、レコーディング現場ではピリッとしますからね。ライブ会場の音作りも、いつも気合いが入ってますよ」
――「サンバミクスチャーロック〜レゲエを添えて〜」と説明していらっしゃる“地味な生活”は、華やかなサンバサウンドが緻密に作り込まれているからこそ、《地味》と連呼するギャップが面白いんですよね。
「グッズやMVも全部ギャップを詰め込んでますよ。サンバは楽しいです」
――サンパウロの日本人学校に通っていたんですか?
「はい。幼稚園から小学校低学年くらいにかけての時期です。そんなにブラジル文化に触れたとかはなかったんですけどね。でも、家族はブラジルの空気を吸ったことによって自由な気質になったみたいで、間接的な影響はあったのかもしれないです」
――“なつのうた”もボサノバですし、会長の中に無意識の内にブラジルの音楽のノリが染み込んでいたのかもしれないですよ。
「そうですね。リオのカーニバルも行ったことはないんですけど、家にあった言葉がわからない雑誌の写真は見てたので、なんとなく親近感は芽生えてたのかもしれないです。バンド編成でサンバをやるって大変だから、できるとはあんまり思ってなかったんですけど」
――“地味な生活”で具現化できてしまいましたね。
「はい。『このアレンジだったら、ブラジルっぽくなるなあ』っていうことができた“地味な生活”は満足度が高いです。『この流れでレゲエをクッションにサンバに行くなんて!』って評価してくれる人がいると、めちゃくちゃ嬉しいんですよ。ジャズのクロスオーバー、フュージョン、ロックのプログレ、ミクスチャーとか、ジャンルを混ぜるというのは、それまでの音楽の流れに退屈した人が始めるものだと思うんですけど、自己満足の訳のわからないものになってしまうと、もやっとしてしまうわけです。キャッチーに聴かせて、『実はそうなってるんだぜ』みたいなのがいちばんいいと思うんですよ。そういうことができたんじゃないかなって思ってます。『自然と変なことができた』という満足感がありますね」