【インタビュー】新アルバム『遺伝子レベルのNO!!!』完成! 若き3ピースバンド・板歯目に問う、今なぜ、《バンドをなめるな》と歌うのか?

怒りを込めたり、どういう人に届けたいかを考えたり、真剣に、ちゃんと歌詞を書いてきたなと思うんですけど。でも1回、考えるのをやめようかなと思って(笑)(千乂)

――3rdアルバムは、『遺伝子レベルのNO!!!』というタイトルからして強烈ですね。根っからの否定の意志を感じます。

庵原大和(Dr) 今回のアルバムは、3人それぞれに「もっとこういうことができるんじゃないか」とか、「こういうことを試してみたい」というものがあって。それはサウンド面でもそうだし、普段使っていなかった楽器を使ったところにも表れているんですけど。そういう面で、今までやってきたことのいい意味での反対のことをやっている。そういうところから出てきた『遺伝子レベルのNO!!!』です。

千乂詞音(Vo・G) 今回は、「ジャンルとかは決めずに、3人のルーツとか、やってみたいことを、好きなように出してみよう」というのが、まずあったんです。2枚目のアルバム(『鄙、天国』)はロックバンド感を重視してレコーディングしたんですけど、3枚目はもっとグチャっとしたアルバムでいいんじゃないか?という話になって。「まとまっていなくてもいいんじゃない?」って。それで、曲によってはテルミンを入れてみたり、フレットレスベースを使ってみたり、変なコーラスを入れてみたり。言ってしまえば、遊びながら作った曲たちです(笑)。

――「NO」というのは、これまでの板歯目のスタイルに対してのNOなんですね。

千乂 あと、「NO」は、「脳」とも掛かっています。

庵原 今回は、あえて、頭を使わずに作った感じがします(笑)。

――「3人それぞれが好きなことをやる」というのは、今回のアルバムの制作においてそれぞれが「今やりたいこと」に向き合ったということですよね。どのようなことを考えながら制作に臨まれたのか、おひとりずつ伺いたいです。

千乂 私は、「とにかく遊ぶ!」って感じでした(笑)。私は今まで結構真剣にバンドをやってきたと思うんです。意味を持ちながらやってきたというか。特に歌詞の面で、怒りを込めたり、どういう人に届けたいかを考えたり、真剣に、ちゃんと歌詞を書いてきたなと思うんですけど。でも1回、考えるのをやめようかなと思って(笑)。「もっと遊んでもいいかな」と思ったんですよね。音楽が好きだからやっているだけだし、その「楽しいからやっている」という部分を、もっと前に出してもいいのかなって。そういうことを考えていました。なので、今回、私が歌詞を書いた曲は、歌詞めちゃくちゃ適当です(笑)。パッとその場で浮かんだフレーズを書いて終わり(笑)。前までの真剣さとは違う、真剣に楽しんでみた感じがします。

ゆーへー(B) 僕はベーシストとして、「ベースとどう向き合うか?」みたいなことを考えていて。自分がベースを好きになったルーツを考えてみると、「やっぱり、スラップが好きだな」と思ったんです。レッチリのフリーやKenKenハマ・オカモト、そういう人たちのスラップを見て、ベースのヤバさを全開に感じてきたので。なので、今回は結構、スラップを多用しています。

バンドをやりたい気持ちがあれば、どんな曲をやってもバンドになるんじゃないか?と思ったところがあって(庵原)

――庵原さんは今回、最も多く作詞作曲を担当されていますが、今作には個人としてどのように向き合いましたか?

庵原 さっき千乂さんが言ったように、前作はロックバンド然としたアルバムだったけど、今回は作り出す段階で、いわゆるジャンルとしての「ロック」だけがバンドの音楽ではないよなと思ったんです。ジャンルがどうこうというより、気持ち。バンドをやりたい気持ちがあれば、どんな曲をやってもバンドになるんじゃないか?と思ったところがあって。なので、これまでは「これは合わないかも」と思ってナシにしてしまってたところも、「いや、これもアリだろ」としていく。そうやってアリな部分を増やしていければ、今後の板歯目はもっとよくなるんじゃないか。そういうことを考えていました。

――庵原さん的に今作の中で、これまでナシだったものがアリになっているという点で顕著な曲というと?

庵原 2曲目の“ピアノロール”は特にそうかもしれないです。前作までは、ライブの感じのままで音源を作っていたんです。でも、“ピアノロール”にはまさにピアノも入れているし、ライブではやらないであろうハモりも入っているし。1曲目の“オルゴール”もそうなんですよね。ハモりを3つくらい入れている。タンバリンの音も入っているし。こういう曲たちは特に、「これもアリだろ」感は出ている気がします。

――そもそもの曲作りの感じも、これまでと変化はありましたか?

庵原 前までは3人で一緒に合わせながら作る曲が多かったんですけど、今回はそれぞれで作る曲が増えた気がします。録る前の音作りもじっくりやるようになりました。いろいろ試しながら、「これは違うな」とか、試行錯誤を繰り返して。ワンコーラスを何回も録り直したり。

千乂 そのぶん、その場のアイデアでやってみることも増えたよね。「ここに他の音、いろいろ入れてみようよ」とか、そういうことを事前に考えないで、その場でやってみる。それは、今回のアルバムだからこそ多かったかもしれないです。

――ちなみに昨日(取材日前日)、アルバムの曲順が変わったんですよね。最初に僕がもらった資料では、“オルゴール”は最後の13曲目だったんですけど、結果的に、“オルゴール”は1曲目に収録されることになったようで。他の曲順に変化はなかったですけど、“オルゴール”が1曲目にあるか最後にあるかでは、アルバムの印象はかなり違いますね。

庵原 そこは、めちゃくちゃ悩みました。“オルゴール”は、このアルバムの中でも特に大事な、このアルバムの雰囲気を決める曲だなと作っている時から思っていて。当初は最後に入れる予定だったんですけど、一昨日の夜に僕からふたりに電話して、「1曲目にしていいですか」と相談しました。やっぱり、この大事な曲でアルバムが始まったほうがいいなと思ったんです。

――庵原さん的に、“オルゴール”がこのアルバムにおいて大事な曲であるポイントはどこにあるんですか?

庵原 アルバムの「あらすじ」みたいな曲だなと思ったんです。「このアルバムを1曲にしたら、こうなるよね」という曲なんですよね、“オルゴール”は。コーラスも新しい感じだし、BPMも途中で3回も変わる(笑)。そういう、自分たちにとっての新しい要素が1曲に詰まっている曲なんです。

《私をなめるな》は、僕の中の「千乂詞音に言ってほしい言葉」ランキング第1位(笑)(庵原)

――今回のアルバムは、先ほど庵原さんがおっしゃっていた「ロックだけがバンドじゃない」という気概を強く感じるし、様々な音楽的エッセンスを消化しているがゆえに、今まで以上に「バンド」という表現形態の器量と力強さを感じる作品だと思います。で、まさに《バンドをなめるな》と歌う“Cコードしか知らない”という曲もあって。

庵原 “Cコードしか知らない”は、曲自体は好きなバンドの曲を元にしていて。ネクライトーキーさんの“はよファズ踏めや”という曲なんですけど。去年、「SAKAE SP-RING」で初めてネクライトーキーさんのライブを観たんです。ずっと好きだったけど、初めてライブを観ることができて。その時に演奏していた“はよファズ踏めや”が、めちゃくちゃかっこよかったんです。それで「曲を作りたい!」と思って作ったのが、“Cコードしか知らない”なんです。

――《バンドをなめるな》と歌う歌詞に関してはどうですか?

庵原 歌詞は……いろんなことが混じっていて、ひと言で言うのは難しいんですよね。歌詞のまんまのことを思っていた、ということなんですけど。ただ、僕の言いたいことを書いたのはサビの《バンドをなめるな 野性をなめるな 社会をなめるな ライブをなめるな》というところなんですけど、他の部分はどちらかというと僕が千乂さんに歌ってほしいことなんです。千乂さんは普段から「コードを知らない」と自分で言っているんですけど、それをライブで言わせたいなと思って(笑)。

千乂 (笑)。

庵原 《一切のコードを知らないけど、単純なCコードは知ってる》という部分は、僕が想像する「千乂詞音が言っていそうな言葉」ランキングトップ5(笑)。他にも《Rmが好きなのよでもマイナーなんて知らない》という部分、「Rm」なんてコードは、実際はないんですよ。でも知らないがゆえに、造語ができている。こういうのは、僕が千乂さんに言ってほしい言葉なんです。最後の最後、《私はそれでいい/私をなめるな》という部分は、僕の中の「千乂詞音に言ってほしい言葉」ランキング第1位(笑)。

千乂 きゃはははは!(笑)

庵原 「これ、千乂詞音が言ったらかっこいいなぁ!」と思いながら書きました(笑)。

千乂 大和はちゃんとコードを知っている人だから、最初に歌詞を見た時は「何を書いているんだろう?」と思ったけど、「そういうことだったんだ」と今、思いました。《私をなめるな》とは、私は思っていないですけど(笑)、大和が書いてくれたから、この曲を歌う時だけは全力で《私をなめるな》という気持ちで歌いました。

――庵原さんが歌詞を書く時、千乂さんが歌う姿を想像しながら書くことは多いですか?

庵原 多いと思います。どの曲も、自分の想いと、「千乂さんが歌ったらかっこいい」と思うことを織り交ぜながら書いている気がします。

――ゆーへーさんはどうですか?

ゆーへー 僕は自分の世界のことだけ、ですかね(笑)。

千乂 ゆーへーの歌詞ってホント、めっちゃ面白い。“SPANKY ALIEN”とか、最初に見た時、爆笑したんですよね。最初は「これが俺の頭の中だぜ」みたいな感じでかっこよく書いているのに、途中で急に《サイバーパンクの世界で暮らしたい》って、ただの欲望になってる(笑)。「何を書いとるんだ?」って(笑)。ただ住みたい場所を言ってるだけじゃん!(笑)

ゆーへー (笑)。

千乂 ふたりが覚えているかわからないけど、去年、ツアー中にハイエースでトンネルを通っている時、ゆーへーが急に「ここは宇宙みたいだ」と言い始めて(笑)。「俺、歌詞書く」と言い出して、“SPANKY ALIEN”の歌詞が出てきたんです。誰もトンネルの中を宇宙だなんて思わないから(笑)。やっぱり、面白い。

庵原 ゆーへーの歌詞って、意味なさそうだけど、ちょっとある感じもするんだよね。解釈できちゃう感じというか。

千乂 きっと、ゆーへーの中では意味があるんだよ。いい歌詞だよね。

千乂詞音は切断武器で、庵原大和は打撃武器(ゆーへー)

――本作『遺伝子レベルのNO!!!』は庵原さんが作詞を手掛けている曲が多いので、アルバム全体を通して庵原さんのエッセンスが強い印象もあって。ちょっと乱暴な質問ですけど、庵原さんは、ご自分をどんな人間だと思いますか?

庵原 えー……コミュニケーションが下手だなと思います。自分が思っていることをそのまま相手に伝えるのが苦手な人です。

――そんな庵原さんにとって、曲作りとはどのような意味を持つ行為なんですか?

庵原 演奏する時もそうなんですけど、爆発力は大事にしていて。千乂さんの歌詞も爆発力があると思うんですけど、そういうところは僕も大事にしていると思います。爆発している歌詞というか。

――でも、千乂さんが持つ爆発力と、庵原さんが持つ爆発力の間には違いがあるような気がするんです。ふたりの間にある違い、ご自分ではどう思いますか?

庵原 ……今パッと思うのは、千乂さんは、1のインプットが一気に100のアウトプットになるタイプの人のような気がします。でも僕は、1のインプットが0になることはないけど、一気に100になることもない。1は1のままずっと溜まっていって、100になった時に、外に出ていく。溜めるタイプというか。そういう感じなのかな……。どう思う?

ゆーへー 僕が思うのは、(千乂は)切断武器で、(庵原は)打撃武器。

――おおっ。

ゆーへー (千乂は)ひとりに対して、刺さる。(庵原は)みんなに対して、刺さる。

――すごい、めちゃくちゃ腑に落ちますね。

庵原 なるほど……。自分では「多くの人に刺さってほしい」なんて思って歌詞は書いていないから、そういう話を聞くと、なるほどなと思う。

千乂 私は、ただ仲間がほしいだけだから。

庵原 仲間? 仲間がほしい?

千乂 自分が「私は今こう思っているんだ!」と思って歌詞を書いている時に、それを思っているのが私だけなのは、孤独で嫌だから。だから、「この歌詞のこの部分、私と一緒だ」と言ってくれる人を見つけることができればできるほど、嬉しい。それは「届いてほしい」というのともちょっと違って。ただ、仲間を見つけたいだけ。私が思っていることを、同じように思っている人が他にもいたらいいなって。「みんなのことを救いたい」とか「全員に届いてほしい」とか、そういうことは無理だから、もう諦めていて。でも、ひとりでもいれば、仲間になれるし、私は友達が少ないからそれだけで嬉しくなる(笑)。

――庵原さんはどうですか?

庵原 僕は……僕にとっての歌詞とか爆発というのは、「思わず出てしまうもの」という感じなんですよね。僕は、「仲間はできないだろうな」と思いながら歌詞を書いていると思います。でも、思わず出てしまうもの。そういう部分は、僕と千乂さんの爆発の仕方の違いとして大きいのかもしれないです。

千乂 ゆーへーも全く違う爆発の仕方するよね?

庵原 ゆーへーは、ひとりごとをそのまま大きい声で言っている感じじゃない?(笑)

千乂 ゆーへーの頭の中の世界を全員で覗いて、「結局、意味わかんないね」と言って終わっていく、みたいな(笑)。だって毎回、ゆーへーの歌詞を見て、「なんや、こいつ?」って思うもん(笑)。

ゆーへー ……(笑)。

千乂 ゆーへーワールド(笑)。めっちゃいいよ。

“SPANKY ALIEN”MV


●リリース情報

3rd Digital Album『遺伝子レベルのNO!!!』

配信中
【収録曲】
M1.オルゴール
M2.ピアノロール 
M3.イルカ is here
M4.鬼退治おじいさんおばあさん
M5.人生はサーキットレース
M6.Cコードしか知らない
M7.POLICEMAN
M8.前衛的なポジション
M9.western
M10.雪だるま
M11.セツナグル
M12.SPANKY ALIEN
M13.わたしたちのストレージ

Mastered by John Davis(UK METROPOLIS STUDIO)
(Ex. Led Zeppelin/U2/Primal Scream)

●ツアー情報

「板歯目2023夏全国TOUR “NO MORE!!!脳TOUR”」

2023年7月18日(火)横浜F.A.D(w:Arakezuri/ブランデー戦記)
2023年7月19日(水)埼玉HEAVEN’S ROCK 熊谷VJ-1
2023年7月25日(火)新潟CLUB RIVERST(w:Hakubi)
2023年7月26日(水)仙台enn 3rd
2023年8月1日(火)福岡LIVE HOUSE Queblick(w:ネクライトーキー)
2023年8月3日(木)広島CAVE-BE(w:Hello Sleepwalkers)
2023年8月4日(金)香川sound space RIZIN’ (w:シンガーズハイ
2023年8月20日(日)名古屋ell.SIZE(w:ルサンチマン
2023年8月22日(火)大阪OSAKA MUSE
2023年8月28日(月)渋谷WWW 

*大阪&東京FINALのみワンマン公演
*他公演は対バン有り(後日発表)
*全会場チケット価格¥3,800(税込:D代別)

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提供:Yamaha Music Entertainment Holdings, Inc.
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部