社会現象を巻き起こしている人気アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』の結束バンドのシングル曲“光の中へ”の作詞作曲を手掛けたSAKANAMONの藤森元生(Vo・G)。SAKANAMONの「PLUS ONE」をテーマにした配信シングル三部作の第1弾はそのセルフカバー“光の中へ feat. 田辺由明(マカロニえんぴつ)”である。結束バンドのオリジナル版と比べ、ゴリゴリでパワフルなギターロック曲になっていて、SAKANAMONのルーツである00年代ギターロックのうまみが凝縮されている。そして、歌詞からはギターを愛する孤独な高校生である後藤ひとりがライブという《絵空事》であり《奇跡》でもある出来事を通し、躍動していく姿が鮮明に伝わってくる。後藤ひとりのキャラクターに対し「共感しかなかった」という藤森に話を聞いた。さらに、『ROCKIN’ON JAPAN』9月号(7月28日発売)のインタビューでは、アレンジや歌詞へのこだわりなどをさらに深掘りしているので、あわせてチェックしてほしい。
インタビュー=小松香里
僕らの得意なギターロックの集大成みたいなものをぶつけようって思いました
――アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』のシングル曲“光の中へ”を書き下ろすことになったのはどういう経緯があったんですか?「ちょうどアニメを観て、主人公の後藤ひとりのキャラクターに対してことごとく共感しかないなって思っていた頃に、SAKANAMONに曲を書き下ろしてほしいっていうオファーが来たんですよ。『やりますか?』と言われたので食い気味で『やる!』って答えてそこから始まった感じですね」
――そこからどういうふうに曲制作に取り組んだんですか?
「既にリリースされている結束バンドのアルバムが結構統一感があるんですよね。後藤ひとりって子が詞を書いて、ベースの山田リョウって子が曲を書いているっていう前提があるので、ひとりの『私なんて』っていう自分を卑下しがちなところを応援するような楽曲がたくさん収録されていて。それが正しい形だと思ったんですが、それだけじゃない曲を作らなきゃいけないなって思いました。今回のシングル曲は結束バンドが実際にZepp Hanedaで演奏する場で初めてお披露目されることが決まっていたこともあって、ライブにスポットを当てるしかないなと思って曲を書いていきました」
――サウンドとしては直球のギターロックから入りますが、それはライブが頭にあったのが大きかったんでしょうか?
「盛り上がる曲にしないといけないってことは意識したんですが、結束バンドはアジカンとか僕らが高校生のときに聴いていたギターロックがバチッとはまるような方向性だったんで、僕らの得意なギターロックの集大成みたいなものをぶつけようって思いましたね。その頃を思い出しながら作りました」
――2番でぐっとテンポが落ちて、ダブっぽいアプローチになるのが藤森さんらしいなと思いました。
「そうそう。僕っぽいことを全部やりましたね。結束バンドの他の曲も手掛けているギタリストの三井(律郎)さんがガンガンにアレンジしてくれたので、もう三井さんに乗っかるつもりで好き勝手やらせてもらいました。あとはプロがなんとかしてくれるだろうって気持ちで伸び伸びと書かせていただいたというか。後藤ひとりが演奏するリードギターとかは特に素敵なアレンジをしていただいて、結構細かい修正を入れてくださったおかげでよくなったと思ってます。他のアーティストに提供する曲だからSAKANAMONのオンパレードをやってやろうと思って作ったんですけど、今回セルフカバーすることになって『SAKANAMONすぎないかな、大丈夫かな?』って心配になりました。ブーメランとして返ってきたというか(笑)」
――なるほど(笑)。 実際に結束バンドの“光の中へ”を聴いたときはどんなふうに思いましたか?
「素直に本当かっこいいと思いましたね。ちゃんとコピーしやすいように三井さんがアレンジしてくれてるし、音のすみ分けもきれいだし歌も上手いしギターもかっこいい。『これがプロか!』と思いながら聴いてました」
――藤森さんもプロじゃないですか。
「いやいや(笑)、僕とはまた全然違うプロフェッショナルなので面白かったです」
――自分の曲がアレンジで変わることも初めてだと思うんですけど、抵抗感はなかったんですか?
「全然ないですね。ギターアレンジとかに関しては本当に好きにしてほしかったですし。かっこ悪くなってたらもちろん嫌ですけど、全くなってなかったので全然抵抗はなかったです」
評価してくれる感想はもちろん、酷評だとしても、とにかく感想を見るのが楽しい
――結束バンドの“光の中へ”は、YouTubeでのリリックビデオ公開から1ヶ月で400万回以上再生されていますけど、反響をどんなふうに感じていますか?「いやあ、アニメの力ってすごいなって思いました(笑)。SAKANAMONにとってかつてないレベルのリアクションだったので、たくさんの人たちにSAKANAMONのことを認知してもらえた気がしました。そこからSAKANAMONの曲を聴いてくれてる人たちもいるみたいなので嬉しいですね」
――SAKANAMONは藤森さんの楽曲の良さを最大限活かす形で結成から15年間サバイブしてきているわけですが、曲の強さを実感したところはありますか?
「そうだといいなって感じですね。ただただアニメにおんぶにだっこだったら嫌だなと思いつつ。もちろんいい曲が書けたとは思ってます。僕はガンガン曲のエゴサをするんですよ。そこでやっと僕の気持ちが消化されるんです。評価してくれる感想はもちろんですし、酷評だとしても、とにかく感想を見るのが楽しくて。“光の中へ”は曲としてちゃんと褒めてくれてる人がたくさんいらっしゃったので、アニメの力だけではないのかなって思えましたね」
――特に印象的だったコメントはありました?
「『サビの歌詞のここが好き』とか、『ここはこういう意味なのかな』とか、めちゃくちゃ考察してくれてるんです。コードの分析もしてくれるし、細かいところに目をつけて考えてくれるのが作詞作曲した立場としては嬉しいですね」
――元々藤森さんの曲は細かいこだわりが随所にちりばめられていて、考察しがいのある曲が多いと思うんですよね。
「そうですね。昔からそういうのが好きでよくやってたんですけど、今まではあまり考察するようなコメントがなくて(笑)。みんな考察していないのか、しててもわざわざ呟かないのかわからないんですけど。だからもっと他の曲でも考察を書きこんでほしいなって思いました(笑)」