【インタビュー】DISH//の4人が語る、新曲“プランA”に感じた大いなる手応え。バンドはなぜ今、最高の充実期を迎えているのか?


作品をリリースし、ライブを重ねるごとにDISH//は進化を続けてきた。今年4月から7月にかけて行われた「DISH// HALL TOUR 2024「GARDEN」」での進化は顕著で、「自分たちの楽曲に水をやり育てていく」というテーマを持って臨んだこのツアーは、DISH//というバンド自体の成長を見せるものでもあった。

そのツアーの東京ガーデンシアター公演でも披露された新曲“プランA”は、TVアニメ『逃げ上手の若君』のオープニング主題歌として書き下ろされたものだが、和のグルーヴを色濃く携えたDISH//ならではのロックチューンだ。面白いように転がるリズム、アグレッシブに楽曲を彩る合いの手、明確な「生きる」というメッセージに貫かれた歌詞とサウンド──この楽曲にこそ、DISH//の大いなる進化、成熟を感じる。今回は「GARDEN」ツアーを振り返りながら、この新曲に込めた思いや制作背景などをじっくり語ってもらう。

インタビュー=杉浦美恵 撮影=三川キミ


とにかくみんな自由に仕掛け合っちゃおうぜ、みたいな空気が生まれたり、ポジティブな事件性というか、あえて偶発性を楽しんだ感覚があります(北村)

──新曲“プランA”がリリースされて、前回のホールツアー「GARDEN」ではライブ初披露もされましたよね。そのツアーはすごく充実したものになったと思うのですが、新旧織り交ぜたセットリストで、過去曲も現在のDISH//でやることによってさらに楽曲を育てていくという、その意思を表現したツアーでした。「GARDEN」ツアー、いかがでしたか?

矢部昌暉(Cho・G) 無事に全公演完走できてよかったなと思っています。僕らにはこれまで作ってきた曲がたくさんあって、ライブでやりたくてもやれなかった曲もすごく多かったので、そこをフィーチャーできたのもよかったし、僕ら自身のスキル的な意味での成長も大きくて、とても充実したツアーでした。

北村匠海(Vo・G) 「GARDEN」は作品リリースに伴うツアーではなかったので、やりたいことを自由にやれる部分も多くて楽しかったです。ここ数年、いろんなフェスや対バンライブを通じて自分たちのライブでの勝ち方というか、どう会場を掌握して、どうお客さんと一体になるかということがつかめてきていて、さらにライブの構成とか曲とかも含め、もっと自分たちの武器がほしいという思いもあって。なので、みんなで一緒に曲を育てる庭=「GARDEN」にしようというのが、このツアーのそもそものメッセージでした。ツアーファイナルの東京ガーデンシアターでは最新の2曲もライブで育っていくというのをしっかり見せられたし、この先のDISH//もちゃんと示せて、すごく有意義でしたね。

──DISH//は、自作曲ではない過去曲も、自分たちの成長とともにアップデートしていきたいという思いが強いバンドですよね。

北村 今となっては、ものすごく得をしていたなと感じることもあって。当初は自分たちで曲を作っていなかったからこそ、今、それを自分たちが生で演奏する、自分たちの音で再現するという、そこに意味が生まれるんですよね。それはなんか得だなと思いました(笑)。過去曲、新曲問わず、今回のツアーでは特に後半、とにかくみんな自由に仕掛け合っちゃおうぜ、みたいな空気が生まれたり、そういうポジティブな事件性というか、あえて偶発性を狙いにいくみたいなこともあって、ライブでしか起こり得ないことを楽しんだという感覚があります。昌暉が繰り出すアドリブとか、大智のビートの刻み方の変化とか、柊生のピアノタッチのニュアンスとか、各々が繰り出す、一歩決まりごとから外れたようなことが、ライブを面白くするんだなと実感しました。

泉大智(Dr) 自分自身、かなり成長できたライブだったし、何せやりたい曲がめちゃくちゃあるので、埋もれていた曲を引っ張り出せたこともよかったし、すごく新たな一面が見えたツアーだったと思います。


“This Wonderful World”で全員で声を出せるというあの爆発力、あそこまでの一体感っていうのはこれまでになかった気がして、これは完全にライブを続けてきた結果(北村)

北村 このツアー、大智がいちばん成長した感があるかも。もちろんDISH//の中ではいちばん演奏スキルが高くて、これまでは俺らが大智に追いつくっていう感じでやってきたけど、ツアーの途中で「大智に追いついた」と思えるタイミングがなんとなくあったんですよ。そこからさらに大智がもう一歩先に行ったなと思えたのがこのツアーでした。

 確かにそれはあるかもしれない。やっぱりいろんな試行錯誤もしたし、テンプレート的なライブじゃなかった分、引き出しが増えたような感覚はありますね。

──柊生さん、どうでしたか?

橘柊生(DJ・Key) 楽曲に水をやって育てるという意味で「GARDEN」と名づけたツアーだったんですけど、ファンの人たちが、それぞれの呼び名で今回のツアーを呼んでいるのが面白かったです。「庭ツ」だったり、「水やり旅」だったり(笑)。これまできちんとコンセプトが伝わったうえでライブをやるというのはあまりしてこなかったので新鮮でした。これまでライブでやってなかった曲も、ツアーを通してかなり育ったという手応えがあって、それがきちんとみんなに届けられてるという実感もありました。

──特にどの曲に更新を感じましたか?

 個人的に、ですけど、“everyday life.”が今回セトリのすごくいいところに入っていて、わりと新しめの曲ではあるんですけど、新しい曲を育てるという意味でも、ちゃんと水やりできたなっていう感覚がすごくありましたね。今回のツアーでかなり育った感じがあります。

──大智さんは?

 “星をつかむ者達へ”はすごくよく育ったなと思います。ライブの後半セクションのいちばん盛り上がるところに入っていたんですけど、今まではセクションの最初とかに入ってた曲なんです。ここにきてライブの新しい鉄板を見つけられたような気がします。

北村 僕は“This Wonderful World”。今回この曲がツアーのセットリストに入ってなければ成立しなかったという瞬間がありました。今回はこの曲が会場をひとつにしてくれて。セトリとしては“ルーザー”と“ブラックコーヒー”が日替わりで、そこで負の感情を抱えていても、それでも前に進んでいるという自分たちの現在地を表現して、そこからの“No.1”では、「それでも僕らはまだNo.1と言い続ける」という強い思いを見せて、その流れからの後半セクション。重い2曲が続いたあとのこの“This Wonderful World”。ここで全員で声を出せるというあの爆発力、あそこまでの一体感っていうのはこれまでになかった気がして、これは完全にライブを続けてきた結果だなという感じがしました。

矢部 アッパーな曲で盛り上がるというよりは、落ち着いたバンドサウンドでみんなでひとつになるという、そういう新しい挑戦ができたのがよかったですね。個人的には各セクションの最後に入れていた“FLASH BACK”だったり、“everyday life.”“Brand new day”などは、新しい姿を見せてくれた曲だったと思います。



「別に今そこまでやんなくていいでしょ」ってことを作曲の段階からやるのがすごい好きで、ほんと音楽で遊んでる感じ(橘)

──“朝、月面も笑っている”のライブ初披露もありましたよね。

北村 柊生と大智がふたりで作曲する曲って、大智はギターで、柊生はピアノで曲を作るから、ふたりの個性が入り乱れてるミックス感みたいなものを感じるんですよね。ふたりの作るメロディが交互に来たりするから、通り一遍な曲ではないというか。この曲にもそういう多面的な立体感があるんですよね。ひとつの感情だけに寄り添うのではなくて、いろんな人の感情に寄り添う曲になるだろうという予感があって。DISH//のボーカルとして、僕はそれをすごく大事にしています。人それぞれが受け取ったままでいいんですよ。どう受け取ってもらっても構わないんです。“朝、月面〜”はほんとそういう曲で、ライブでこの曲を歌ったとき、最前で泣いてる子の横ですごい笑顔で聴いてる子もいて、「そうそう、そうだよね」って。

 僕らのこういうミディアムテンポのバラードって、意外とライブだと熱くなるんですよ。音源だと落ち着いたバラードっぽく聴こえるけど、ライブだとぐっと熱い感じになる。今回も4人だからこその熱さが出たと思います。


──そして、最新曲の“プランA”について訊いていきます。この曲、「まずは生きる」というメッセージがストレートに伝わってくる、とても明快なテーマを持つ楽曲ですよね。シャッフルのリズムに和の合いの手が入ったり、とてもDISH//らしい楽曲です。『逃げ上手の若君』のオープニング主題歌として、制作はどのように取り組んでいきましたか?

北村 作曲はまたこのふたり(橘・泉)が中心で、作詞は自分、そしてアレンジが古くからDISH//を知っていてくれる新井弘毅さんというスタイルで。DISH//には“勝手にMY SOUL”という、TVアニメ『銀魂 銀ノ魂篇』のオープニング主題歌だった曲があるんですが、それは新井さんが書いた曲だったんですね。今回、その曲が最初にリファレンスとして投げかけられていて、僕らとしてもどういう曲にするか、イメージするのは早かったんですよ。

──そうだったんですね。

北村 令和のアニメソングってまた毛色が変わってきていると思うんですけど、『逃げ上手〜』は、すごくいい意味で平成に取り残されてる感じがして、それがいいんですよね。オープニング映像もその空気感で、それでいて中身の作画はとても現代的。だから僕らもイメージするものは明確でした。でもふたりは“プランA”以外にも、候補曲をいろいろ作っていて、“プランA”とはまったく別の方向性とかも提示したり、楽曲制作はすごく面白かったですね。

──またテイストの違う曲ができていた?

 はい。まったく違う曲があって。僕はそっちの曲もかなりお気に入りなので、できればすぐに出したいくらいなんですけど(笑)。今後何かしら、アルバム曲なのか、シングルのカップリングなのか、もしかしたらシングルの表題曲になるのかわからないですけど、その曲を出すのもすごく楽しみにしています。


──和のテイストを持つ曲として、合いの手の入り方などは作曲の段階でイメージしていたんですか?

 そうですね。合いの手は入れたいねって。和楽器もどんどんギミック的に入れようという話をずっとしてました。

 最初の段階から太鼓とか和楽器系の音を入れまくっていて、デモの段階で入れる必要もないんですけど、面白がってやってました(笑)。4人で曲を作るときもそうだけど、「別に今そこまでやんなくていいでしょ」ってことを作曲の段階からやるのがすごい好きで、ほんと音楽で遊んでる感じなんです。この曲もそうでしたね。「太鼓のこういう感じよくない?」みたいな。

──匠海さんはそのデモを受け取って作詞を?

北村 ふたりからデモをもらったときから景色は見えていたんで、あとは『逃げ上手〜』から何を吸い上げて、何を大事に書いていくかということだけでした。歌詞の完成は結構早かったです。

──“プランA”というタイトルは、どのように決まったんですか?

北村 世の中、逃げたいような局面がいっぱいあっても、子どもの頃からどこか「逃げるのはNG」、「立ち向かえ」みたいな教えを受けるんですよね。それは漫画やアニメもそうで。主人公はどんなときも立ち上がるものだと思われているし、僕もお芝居でそういう演技をいっぱいしてきました。どれだけぶん殴られても、どれだけぶっ飛ばされても立ち上がる。でも、現実世界においては「逃げる」ことが最善な場合もタイミングとしてはあると思うし、僕は戦い方として「最善であることがいちばんかっこいい」という考えなので、今思う自分の最善が逃げることなら、逃げることこそ勝ちじゃない?っていう。だからそれが一番手のプランでいいんじゃないかという意味で“プランA”とつけました。これは(アニメの主人公の)北条時行から受け取ったメッセージでもあるし、「逃げ上手」というのは果たして弱いのかと考えてみると、それは第1話での時行の表情からわかると思うんですよ。鎌倉があんなに燃えているときに、時行の表情は思ったよりも悲しそうじゃなかった。決して弱い人間ではないというのが第1話でわかるんですよね。「逃げる」=「弱い」という考えは、僕はもうある意味古いものとして、捨て去るべきだとも思っています。


バンドに憧れていたバンドが、最近ではもう「これをバンドと呼ばずしてなんと呼ぶ」と思えるようになってる(北村)

──物語に寄り添う主題歌であり、匠海さんの思想もしっかり込められている曲ですね。

北村 ただ、僕らがオープニングで『逃げる』ということをまっすぐ題材にしたのと対照的に、エンディングにはぼっちぼろまるさんの“鎌倉STYLE”の遊びがあって。悔しかったですよ、俺。アニメを観終わったあと“鎌倉STYLE”を口ずさんでいる自分がいて(笑)

矢部 悔しいよね(笑)。僕もうわあって思いました。

──ところでこの曲、ライブで披露するにしても相当難易度高そうな気がするんです。特にこのシャッフルのリズムをタイトにキープするのは骨が折れるんじゃないかなと。

 基本的に新井さんのアレンジは忙しいというか(笑)。ドラムに関して常に決めとフィルとで進むみたいな。結構ライブ演奏はきつかったですけど、それこそこの曲はライブでめちゃくちゃ育ちそうだなと思いましたね。DISH//の新たなロック像を、今後“プランA”でまた作っていけそうだなと思っています。

 ライブはすごく高いテンションでできました。ライブ一発目のときからすでに、曲が育ちきった姿が想像できたりもして、それはなかなか珍しいことだなと。

矢部 ライブでは初披露でしたけど、すでにアニメで聴いてくれている人もいて、頑張って一緒に合いの手を入れてくれようとしたり、それが楽しかったですね。今後はそれこそフェスで演っても盛り上がると思うし、僕らの武器になるというのが、すごくイメージできる初披露でした。


──テレビですでに流れているとはいえ、リリース前の楽曲をライブでいきなり初披露できるというのは、バンドとしての自信の表れでもあると思うし、今、バンドはすごくいい状態なんじゃないかと思えます。

北村 ライブのMCでも喋ったことなんですけど、僕たちが本当に10代のときからやりたかったことができるようになってきて、バンドに憧れていたバンドが、最近ではもう「これをバンドと呼ばずしてなんと呼ぶ」と思えるようになってるんですよね。ただ、やりたいことをやるというのは、僕たちがすべて責任をとる覚悟を持って進むということでもあって、そこで生まれる壁も当然ある。その壁をどう壊すのか、乗り越えるのか、別の壁を探すのか、なんでもいいんですけど、これからまた僕たちは新しい道に進んでいくんだろうなと思います。いい状況だからこそ、今後またすごく悩むんだろうなというのも想像できる。でもそのほうがわくわくするし、楽しいですよね。

──ポジティブな悩みが増えるということですね。

北村 そうですね。楽しく音楽をやれているという状況なので、今のDISH//はすごくいいと思っているし、あとは今後、僕たち自身がどう成功体験を重ねていくか。そのためにはいろんな人との出会いだったり、いろんな作品との出会いだったり、その一つひとつを大切にしていきたいですね。メンバーそれぞれ個々に活動していることもあるし、そこで何かを得ていくチャンスもあるだろうし。DISH//は本当になんでもやれるバンド。だからこそ選択肢が多すぎて悩むバンドなんだろうっていう(笑)。でもそれがすごくいいと思えるので。

矢部 うん。今いちばんいい時期だと思うんですよ。DISH//のメンバーは4人ですけど、応援してくださるスラッシャー(ファンの呼称)のみなさん、そしてスタッフ──ライブに関わってくださるスタッフさんも含めて、みんな合わせてDISH//だと僕は思っているんですけど、チームDISH//が今、すごくひとつになっている感じがあって、ほんとにとてもいい状態だなって思っています。

●リリース情報

シングル『プランA』

配信中

●ツアー情報

DISH// ARENA TOUR 2024-2025

2024年11月30日(土) 有明アリーナ
2024年12月1日(日) 有明アリーナ
2025年1月8日(水) 大阪城ホール
2025年1月9日(木) 大阪城ホール

提供:株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部