──今はELAIZAさんが「この人に」と希望を出して、楽曲制作を依頼している感じなんですね。曲を提供してもらうっていうのは、役をひとつもらうみたいな感覚。自分で作ると自分が心地よいところにしか行かないから(ELAIZA)
ELAIZA はい。私は母親がシンガーだという影響から、R&Bやソウル、ジャズなんかはたくさん教えてもらってきたけど、あまり邦楽が聴ける環境にはなかったんですよね。邦楽の話になると急に弱くなっちゃうんです。聴いたりはするけど王道を知らないから、王道の邦楽が持つパワーみたいな話になると、ああどうしようってなっちゃう。であれば、誰かの力を借りればいいんだなと。今はそういう時期です。
雫 エラちゃんの歌にはR&Bの風を感じるよね。16分のリズムをちゃんと捉えている。だからBPMの速いロックを歌ったらどうなんだろうって思って、それを見てみたいと思ったんですよね。
ELAIZA 最初は焦ったんですよ。“FREAK”は速いしレイドバックもしちゃいけないし、余計なビブラートはストレスになるからいろいろ歌い方を考えないといけなくて。洋楽ばっかり歌って育ってきたから、日本語の歌詞もテンポが速いとかけっこしてるみたいな気持ちになって焦ってしまうんです。でもひとつ自分の中でキャラクターを作ってしまえば、あとは自由になれるというか。イメージとして、ちょっと肩パッド入ってる感じのアティテュードで歌うみたいな(笑)。
雫 己の肩幅を感じながら(笑)。言ってみれば演技だよね。
ELAIZA うん。曲を提供してもらうっていうのは、役をひとつもらうみたいな感覚。自分で作ると自分が心地よいところにしか行かないから、役をもらって台本もらってやるというのに近いかな。
雫 こういう役としてこういう表情、ふるまいで歌えばいいんやなっていうのを見つけてからはもう早いよね。
──ふたりには共通点が多いですよね。出身地もそうだけど、雫さんのそもそものコンポーザー気質みたいなところとELAIZAさんの映画制作へのスタンスとか、おふたりには、表現者としてだけではなくクリエイターとしての思いの強さを感じます。
雫 今回、中身のことをわかっている人に楽曲提供するという「やりやすさ」みたいなものはすごくあったかなと思います。なんでもわかっているから、たぶん私以外の関係者もすごい助かってるはず(笑)。
ELAIZA 私も雫も、別にめちゃくちゃ働きたいわけじゃないんですよ。でも気になることは無視できない。見て見ぬふりしたら自分がウジウジしちゃうんだよね。気になったらもう動いてる。けどほんとは休みたい(笑)。
雫 そうそう(笑)。休めるものならね。でも「この締め切りが終わったら」って考えても、すぐ次の締め切りが来るから、常に何がしかの火事場の馬鹿力が働いている状態なんだよね。
ELAIZA 休んでる時でも歌詞が急に出てきたりもするしね。すべてを放棄した瞬間に何か思いついたりするし。でも雫はどんなに忙しくてもフットワーク軽いよね。この前もカラオケ呼んだら来てくれた。
雫 私、カラオケってものすごい友達おる人のイベントやと思ってたんよ(笑)。
ELAIZA 急にカラオケ行きたくなっちゃって(笑)。で、雫に電話かけたら「行くよ」って。
雫 たまたま自宅作業してたから。「カ、カラオケ?」ってビクビクしながら行ったんだけど。
──ちなみに何を歌ったんですか?
ELAIZA “ゴーストダイブ”(ポルカドットスティングレイ)を歌ってほしくて。
雫 まさか自分が作った曲を歌わされるとは思わなかったです(笑)。
ELAIZA どうしても聴きたかったの。ポケモン好きっていうのもふたりの共通点で、ゲーム中とかも頻繁に連絡し合ってて。雫も私が“ゴーストダイブ”好きなの知ってくれてたから。
──ほんとにふたりの関係性には遠慮がなくて、だからこそ“FREAK”は安心してELAIZAさんの新機軸を表現する楽曲になったんでしょうね。作詞にしても、雫さんはELAIZAさんのことをよく理解しているから、遠慮なく強めのフレーズを入れ込めたのかな。
ELAIZA 歌詞はなんでこうなったの? 私の近況報告みたいなところから?
雫 そうそう。そこから着想を得て書き始めた。どういう言葉遣いにするか、なぜそのワードかということに関しては、単純にELAIZAに言ってほしい言葉を選んで(笑)。
ELAIZA なるほどね。《いつまでもそこで泣いてんの?》とか?
雫 そうそうそう。これELAIZAに言われたいなあって(笑)。
《あなたに、みんなにあって私に無いものは何?》のところが好き。ハッとする。焦ったり自問自答してる感じがすごく人間らしくて好きなんです(ELAIZA)
──ちなみにELAIZAさんは“FREAK”の歌詞の中で、どこがいちばん好きですか?この曲、実はそこから書き始めたんだよ(雫)
ELAIZA 《あなたに、みんなにあって私に無いものは何?》のところが好き。ハッとする。メロディは特にそこを粒立てているわけじゃないんだけど、何かガサガサと探している感じで、焦ったり自問自答してる感じがすごく人間らしくて好きなんです。
雫 え。この曲、実はそこから書き始めたんだよ。
ELAIZA マジ?
雫 そう。これをELAIZAに言ってほしいっていうところから。すごい。今初めて聞いた。感動。
ELAIZA イエーイ!(雫とハイタッチ)
──雫さんの中で、このラインはどういうふうに出てきたんですか?
雫 強い女のエラちゃんを書きたいと思いつつ、強い女の中にある、我々凡人にはわからない葛藤も描きたかったんですよ。こんな完璧に見えるエラちゃんが「みんなが持っているのに私が持ってないものがある」と語り出したら、「そんなことないやろ」っていうフックになって引き込まれるんじゃないかというのもあって。そのメロと歌詞を同時に思いついて、そこからサビとかも書き進めていった形です。
ELAIZA へえー、すごい。いや、普通に共感するよ。人間だから完璧じゃないし。こういう仕事をしていると、認めても炎上、謙遜しても炎上っていう肩身の狭さを感じてはいるので、自分で自分に問いかけるしかないし、でも謙遜しすぎると自分の成長の機会を奪ったりもするよね。だから「みんなにあって私に無いものは何?」っていうのはほんとに……人生のテーマってやつ?
雫 でかい!(笑)
ELAIZA でもほんとにそうで、ミュージックビデオでもかなりそこを表現していて、その2行からすべてを広げていったような映像になっています。「人の真似をすることに怯えて足踏みしてたらもったいなくね?」みたいな。私よく取材で「憧れてる人は誰?」って聞かれるんですけど、それに対しては答えないんですよ。いいなあと思ったらなんでも自分でやってみちゃうから。すげえって思ったら、『(週刊少年)ジャンプ』の主人公みたいになんでも吸収しちゃいたいし、いろんな人のことをすごいと思うけど「この人みたいになりたい」っていうのはなくて。だから、すごく私らしく感じたんですよ、この曲。言葉遊びかと思いきや、急に輪郭がはっきりした言葉が出てくるのがすごく痛快だった。ぎくっとする感じ。だからぎくっとするMVを作りました。
──でもこれ、ほんとにライブで聴きたい曲ですよね。
ELAIZA 実は“FREAK”はすでにライブでやってるんですけどね。楽しかった。どんどん楽しくなっちゃって、エクステつけてるのにお構いなしに頭振っちゃった。
雫 お客さんにもっと浸透していったら、サビの《FREAK!》のところも言ってほしいよね。
ELAIZA そうそう、一緒に歌ってほしい。
雫 私も、「ここはお客さんが言うところだぞー」って思いながら、自宅で仮歌入れてましたから(笑)。
ELAIZA そういうのってライブでどうやってお客さんにお願いすればいいの?
雫 いや、それはたぶん自然に(笑)。
ELAIZA そうなの? 歌ってくれるかな。
雫 歌いながら《FREAK!》のところがくるちょっと前に、手を前に出しといて、こう、タイミングで煽りを入れるっていうか、「行くぞ行くぞ」の感じを出すのもいいかも。
ELAIZA あ、取材中にごめんなさい。あとで家で聞けよって感じですよね(笑)。
──公開レクチャー(笑)。“FREAK”だけじゃなく、今後もまたふたりのコラボが実現するといいですよね。
ELAIZA 私、雫のMVに出たい。
雫 え、ほんとに? それはやばい。
ELAIZA また勝手なこと言うと怒られそうだけど(笑)。ELAIZAでも池田エライザでもどっちでもいいから出たいなあ。
雫 うわあ、今めっちゃ夢広がってるよ。相当嬉しい。実は私、本日(※取材日)ポルカの久々の新曲リリース日なので、さっきメンバー全員で神社に厄払いに行ってきたんですよ。今の話がエラちゃんから出てきたのも、きっと厄が払われて運がよくなってきた証拠だわ。
ELAIZA 雫のライブにも遊びに行きたいな。
雫 そんなのもう、うちのファン泣くよ?
ELAIZA 全然歌うつもりはなく観客として来たテイで、急に呼ばれて「え、いいの?」ってサプライズ的にステージに上がるやつ、あれやりたい(笑)。
雫 完全に演出入ってるやつや(笑)。
ELAIZA プライベートなわりに妙にシャレた格好してたり。
雫 仕込んでないと当てられない照明がちゃんと当たるとか、事前にリハやってないともらえないマイクでしっかり歌うとか。
ELAIZA 歌ってる後ろに「この人演技してます」っていうテロップ出してもらって(笑)。
雫 うちの得意のテロップ芸で(笑)。妄想が膨らみすぎる(笑)。でも何か実現できたらいいね。
ELAIZA うん。いろいろ想像すると楽しいよね。