常に音楽に深く潜り込み、でも客観的で冷静な目線も失わず、クレーバーかつエネルギッシュに、そしてときにチャーミングさも滲ませながら、「SHO-SENSEI!!という存在はどんな音楽を生み出すべきか」と向き合い続ける彼の姿勢がこのインタビューからも伝わると思う。人間が無意識に感じる「ポップ」や「ヒップホップ」とは一体何か。そんな発見まで、SHO-SENSEI!!はこのインタビューで語り明かしてくれた。
1月から始まるツアーには、本作で重要なドラムを担い10曲中4曲では編曲にもクレジットされている細川千弘(ex. KOTORI)と、解禁前のため名前は伏せるが、とあるギタリストの参加が決定しており、まだ誰も見たことのないフロアの景色を作り出してくれる予感がする。
インタビュー=矢島由佳子 撮影=Goku Noguchi
──SHO-SENSEI!!の作品は毎回、「今回はどんなサウンドでくるのだろう」と楽しみにさせてもらっていて、『THE GHOST』ではヒップホップとロックの混ぜ方をさらに変えてきたというふうに思いました。今作はどういうものを目指していたのでしょう。1、2年かけて「新しいことをしよう」と思ってやってきたものが、やっと僕の「普通」になって、その「普通」を使って作ったから、いい感じに新しくなったのかなと思います
確かにアップデートされた感じはあるけど、作ってるときはそんなに「新しいものを作ろう」とかなくて。前までずっとそうやってきて、今回は「いつも通り」という感じだったんですけど、結果的に今回のほうが新しい感じになった気はします。たぶん、1、2年かけて「新しいことをしよう」と思ってやってきたものが、やっと僕の「普通」になって、その「普通」を使って作ったから、いい感じに新しくなったのかなと思います。文脈をすごく意識したわけでも、「このジャンル感に挑戦して」みたいなことでもなく、自然体で作った感覚です。
──結果的に、できあがった10曲を聴くと、ヒップホップのトラックも磨かれているところがあるし、生ドラムだけで突き通す曲もあったりして、おっしゃるように今までやってきたことを全部アップデートした状態がこれ、という感じはすごくします。そもそも打ち込みのビートを入れずにリズムが生ドラムだけの曲って、今までありましたっけ?
そんなになかったかもしれない。今回は5曲くらいありますね。
──それだけ増えたのは、どういった考えからですか?
僕のライブをサポートしてくれているドラムの(細川)千弘くんがKOTORIをやめて、僕らの家の近くに住んでいて、めっちゃ遊んでるし、アルバムを作るときもずっと家におって。千弘くんの「ドラムをちゃんと録りたい」「録ったほうが絶対にいいから」という一言で、生ドラムの曲は全部レコーディングしました。一緒に曲を作ってるプロデューサーの10pm的にも、バンドっぽく曲を作るフェーズは終わったというか。10pmのギターもバンドマン以上の実力になってるし、ドラムのパターンもかなり勉強してバンドマンのドラムの人くらいの引き出しがある状態だったから、千弘くんと一緒にバンドサウンドを作ってもバンドっぽい曲には全然ならなくて。僕らっぽい曲を作る中で、千弘くんの音も活用するというふうに自然とできました。そうやって僕ら自体が変化してたから、「変化を作る」というよりも、普通に作っただけ、みたいな感覚です。でも、前よりちょっと曲が明るくなったかもしれないとは思いました。
──それは、生ドラムを使ったからこそ出る勢いとか、そういうことも影響してる?
それもあるかもしれないですね。人間味というか。でもそもそもキー感が明るくなったかもしれないです。今まで使っていたキーがFシャープメジャーっていう悲しいキーだったんですけど、今回はDフラットが6曲もあって。僕的にDフラットは優しい感じがするかもしれないです。
──選ぶキーの変化は、どういうところから生まれたものだと思いますか?
僕、メロディを聴いたら大体キーがわかるんですけど、それは曲を聴いたときの色の印象で識別できるからで。Fシャープの色に、飽きてきたんですよね。「いつもこの色やん」みたいな。僕の中でDフラットの音楽を聴いたら緑色に感じるから、今回はジャケットを緑色にしました。
──Fシャープは何色に感じるんですか?
僕の中では、紺色か濃いオレンジ色。
──ああ! 今までのジャケット、その2色のイメージが強いですね。
はい。オレンジ色の『THE TELESCOPE』を出したときからずっと、次は緑を作りたいなと思ってたんですよ。だから3年前くらいから、Dフラットの曲をうまく作れるようになったらいいなって、ふんわり思ってて。“スコップ”は2、3年前くらいに作った曲で、僕の中で緑色はこいつしかおらんかったから、他に彼と交わるようなDフラットの曲ができたらアルバムに入れたいなと思っていた中で、最近Dフラットの調子がよかったからDフラットメインでいっぱい作れました。
──Dフラットの曲が調子よくできたというのは、自分の心のモード変化もあると思いますか?
うーん、「飽きた」がいちばん大きいかもしれないですね。世に出してないFシャープの曲もめちゃくちゃあるくらいなので、Fシャープで作りすぎました(笑)。
──じゃあ、サウンド面で特に手応えのあるものは?結局ノリがよければメロもよく感じると僕は昔から思っていて、“天国”はそれが体現された1曲かなと思います。海外のメロが印象的なポップスって、結局メロというよりノリがめっちゃいいんですよね
(しばらく考えて)“Nost”と“天国”ですかね。“Nost”は、僕的には今まで通りやっていたんですけど、いろんな人から「ヒップホップっぽい感じがある」という印象をもらって。みんながどの部分にヒップホップ味を感じて、どの部分にポップスを感じるのか、僕の中で意識がズレてたので、この曲の評価を聞いて「あ、そういう感じか」と思いました。
──それを言葉にしてもらうことはできますか? 何が「ポップ」で、何が「ヒップホップ」なのか。
僕は曲の持つグルーヴとかノリ、空気感からヒップホップ味を感じていたんですけど、もっと表面的に、チャラいハイハットの音が鳴ってるとか、音を少なくしてラップっぽいパートがあらわになるとか、それがみんなにとってのヒップホップを感じるものっぽくて。それでサビでわかりやすくボーカルを重ねたり、メロっぽくしたり、ギターを入れたりすることで、キャッチーなポップスとして聴けるんだなと。
──そのあたり、“天国”だとどういうふうに言えますか? そもそもこの曲はどういったところに手応えを感じているのでしょう。
僕はドラムが入った状態から曲を作ることができなくて。“天国”は初めてギター、ドラム、ベース全部が入ってる状態からメロを作ったんです。僕はいつも10pmに「ドラムとかなしで送って」って言ってるのに彼からこのインストが送られてきて、一瞬聴いてすぐに止めたんですけど、10pmから「あれ結構気に入ってて、一回ボーカルを入れてみてほしい」って言われて。最初は「バンドじゃない僕がこのサウンドでバンドっぽく歌うの、むっちゃダサない?」と思ったんですけど、逆にこのロックなビートに、ヒップホップのノリの位置にボーカルを置いてみようと思って。ラップするつもりで歌ったら面白いバランスのポップロックになって、「こういうのもありなんだな」と思いました。
──10曲の中でもいちばんメロディアスな感じがしますよね。
でもこれ、いちばんメロディを考えずに作ったんですよ。結局ノリがよければメロもよく感じると僕は昔から思っていて、それが体現された1曲かなと思います。海外のメロが印象的なポップスって、結局メロというよりノリがめっちゃいいんですよね。日本人の音楽はメロから作ってる感じがするんですけど、僕はあんまりメロから作らなくて、ノリから作っていて。だから最初にドラムがあったら無理なんですけど。僕がノリを作って、そこにドラムを添えてくれないと、自分軸でノリが作れないから。でも“天国”はドラムがあるものに対して僕が新しいノリを提案するように作ってみたら、いい相乗効果が生まれました。パッケージとしてはみんなが聴きやすいポップスやけど、めっちゃノリがいいっていうものができたなと思います。
──人は、メロディが美しく動くものでなくても、メロのノリがよくて聴き心地がいいものも「メロディアス」と感じるという。それは真理かも。
これ、実はメロディほとんど動いてないので。でも「メロめっちゃいい」って言われるんですよ。みんながメロを感じるであろう場所にハモリを入れてメロディアスに聴こえるようにしようとか、そういった工夫はもちろんしているんですけど。メロが動いてるわけではなく、一定の位置でグルーヴを作ってる感じです。
──“幽霊”のエレキのアルペジオで始まって、途中でトラップになって、そのあとバンドアンサンブルに変わって、サビではアコギの弾き語りになるという、このトラックもSHO-SENSEI!!だからこそこんなに軽やかに飛び回れるんだろうなと思いました。これはどんなふうに生まれたものですか?
サビもみんなが聴きづらいかなと思ってアコギではなくボリューミーなJ-POPっぽくしたり、最初から速いテンポのドラムを入れたり、いろいろやってみたんですよ。でも全部あまりよくならなくて。サビも結局「アコギがわかりやすいか」ってなって、ラスサビだけちょっとボリューミーな感じにしてみました。変なことをしてて展開が多いわりには、すっと聴けるような気がします。
──ポップスに寄せたものが「なんか違うな」ってなったのは、どうしてだったのでしょうね。そこにSHO-SENSEI!!が大事にしてる基準がある気がして。
「歌唱力足りねえわ」って(笑)。J-POPって、歌が上手いから成り立ってるところがあると思っていて。ライブも、僕が見てきたJ-POPは歌の上手さ込みで成り立っていて、僕がサビでしっかり歌い上げても「熱くねえわ」みたいな。そこじゃないディテールで勝負したほうがいいなと思いました。
──歌詞に関して聞くと、タイトル通り「ゴースト」とか「幽霊」「天国」というワードが多いのはどうしてだと思いますか?「なんで僕はこんなにラブソングばっかり作ってるんだろう」って急にふと思いまして。今自分は何を考えてるんやろう、何を作りたいんやろうと思ったら、自分がそれまでためていた歌詞とかが全部しっくりこなくなって
この中で最初に作ったのは“夏に嫌われている”と“ゴーストタウン”なんですけど、その2曲を作る前までの2年間くらい、無意識的にラブソングを作ることにとらわれていた気がして。「なんで僕はこんなにラブソングばっかり作ってるんだろう」って急にふと思いまして。今自分は何を考えてるんやろう、何を作りたいんやろうと思ったら、自分がそれまでためていた歌詞とかが全部しっくりこなくなって。一旦ラブソングじゃない曲を作ろうと思って、その2曲を作ったんです。僕、前とその前のアルバムを作ったときもそうなんですけど、「このフレーズいいな」と思った歌詞を他の曲にも使い回しがちなんです。それは「思いつかない」という話ではなくて、テーマ感としていいなと。しかもテーマを作ってからフレーズを入れたんじゃなくて、自然とできて、そのフレーズが好きやからまた使う、っていうのがいいなと思ってて。もちろん最近考えてることとマッチするフレーズやから、どの曲にもフィットするし。そういうのが、今回は「ゴースト」「幽霊」「天国」みたいなフレーズでした。結構、お化け系の気持ちやったんで(笑)。
──お化け系の気持ち?
映画『シックス・センス』のマルコムの感じだったんですよね。マルコムって、男の子のために立ち回って、その子の悩みを解決して、でも自分にも問題があるじゃないですか。あの感じ、いいなと思って。あともう1個リファレンスになったものは、The SALOVERSの“夏の夜”。《僕は夏の虫》《人間には内緒だぜ》っていう歌詞があるんですけど、そういうふうにみんなと違う生活時間でコソコソしてる感じが僕の中であって。そういった気持ちに「幽霊」っていうフレーズがいちばんフィットしたんだと思います。
──普段人とあまり接することなく、みんなから見えないところで曲を作って、それが誰かの手助けになっていて、というのは、アーティストがそうであるとも言えますよね。誰も使わない言葉で、アーティストとは何かを表してますね。
確かに。そこまでは考えてませんでした(笑)。もっと表面的に、自分がお化けっぽいムーブしてるなと思って。今は引っ越したんですけど、作ってたときに住んでた住宅地が夜になるとマジで人がひとりもいなくなるんですよ。音もなくて。あまりコミュニケーションを取らず、街の人に会わず、音楽を作ってる感じがいいなと思ってました。
──恋人や好きな人に限らず、会えなくなった人のことを歌ってる箇所も多々あると思うんですけど、そこにはどういった想いがあると言えますか。具体的に言えば、《また話したいよ昔の友達》とサビで歌う“Brightside”とか、“Nost”とか。
しゃべれなくなった友達が結構多くて。ケンカしたとかじゃないんですよ。仕方なかった、みたいな。でも全部を許して、「戻ってきてよ」とはまったく思ってなくて。許してしまったら、対等に見てない気がしてしまうから。「かわいそうだから」「仲よくしてあげる」って気持ちが入っちゃったら、それってマジで上からじゃないですか。それは嫌だなと思いながら、でも楽しかったのは事実だから、全部クリアになって、何も考えずにみんなで遊べたらいいなとは思う……という感じですかね。でも気持ち的には「諦め」かもしれないです。
──今作の歌詞で、いちばん気に入ってるものは?
“スコップ”です。人生で作った曲の中でいちばん好きですね。理由はないです。理由がないものがいちばんいいっていう美学が僕の中にあるので。理由があるならそれはそんなによくないです。“スコップ”は、僕がいいと思ってるから1ミリも売れなくてもいいと、胸張って言える状態です。僕、高校生の時から曲を作ってるんですけど、そのときは全部このテーマで作っていて、その完成形みたいな感じがします。あと「スコップ」っていう言葉が好きですね。「スコップ」ってよくないですか? ちっちゃくて、かわいいおもちゃみたいで。ショベルは工事とか雪かきでも使うけど、スコップはちっちゃい花を植えるくらいのもので、「スコップ」という言葉が持つ印象の全部が好きですね。優しくてあったかい感じがします。
──1月のアルバムツアーは、どんなものにしたいですか?そろそろ始めないと超ダセえドームライブになるなと思って。できることは全部ちゃんとやりたいなと思います
1個大きく違うのは、次のツアーからギターを入れようと思ってます。もともと入れたかったんですけど、一回ドラム、ギター、ベースのバンドセットでやったときに、すっげえチグハグになって。ミュージシャンを無理やり集めてもよくないんだなと、そこで思って。やりたいって言ってくれるミュージシャンと出会ったらやっていこうと思っていた中で、とあるギタリストがやりたいって言ってきてくれて、「じゃあやりましょう」と。
──そこにドラムの千弘さんも入って、だいぶ豪華な編成ですね。去年のインタビューで、理想のフロアはヒップホップのノリで跳ねながら合唱してくれることだと語ってくれましたけど、そこからフロアの変化を実感してますか?
ライブを意識して曲を作ったり、実際にそれをライブでやったり、ということを繰り返したときに、全部をクリアすることはできないなと思って。聴き心地も、歌詞も、ライブの盛り上がりも、全部を取るのは無理だなと。そう思ったときに、僕的に最初に捨てるのはライブのノリやったんですよ。一旦自分がいいと思う曲を作って、ライブのことはあとで考えようと。やっぱり僕は曲を作るのが好きなので、すべてを削ぎ落としたら、自分がいいと思う曲を作る以外のことは考えないようになって。でもそういう気持ちでやっていたわりにはいっぱいライブもしていたので、僕の中に「ライブでちゃんと映えるような曲」という物差しができていて、あまり意識せずともライブで全然イケる曲になったと思います。でも、曲がめっちゃ好きだったらなんでもよくないですか? 全員が「曲がめっちゃいい」と思ってライブに来てくれたら、実はノリ悪くてものれるっしょ、っていう気持ちになっていたところもありました。
──今作の曲の中でも歌われているように、ドームに立つ想像はできてますか?
こないだ京セラドーム大阪でYOASOBIのライブを観たんですけど、自分が立つのを想像したら、今のうちから準備するものがいっぱいあるなと思いました。演出とかも、たとえばスクリーンをどう使うかとか、第三者に「こう使ったほうがいいよ」って言われて「ああ、わかりました」じゃなくて、自分がいちばん解像度を上げた状態で理解しておきたいなと思います。ライブにはいろんな良さがあって、アコギ1本で立つ熱さもあるだろうし。だから自分の正解を探すために、大きなライブをいっぱい観て、自分がライブをするときに面白いかもと思うものは全部トライしてみて、ということをそろそろ始めないと超ダセえドームライブになるなと思って。できることは全部ちゃんとやりたいなと思います。
アルバム『THE GHOST』
<収録曲>
1.東京
2.夏に嫌われている
3.ゴーストタウン
4.Almost Famous
5.幽霊
6.Brightsid
7.Nost
8.ドライヤー
9.スコップ
10.天国
●ライブ情報
「SHO-SENSEI!! THE GHOST TOUR」
2025年1月5日(日) 宮城・仙台darwinOPEN 17:30 / START 18:00
2025年1月11日(土) 福岡・DRUM Be-1
OPEN 17:30 / START 18:00
2025年1月17日(金) 大阪・心斎橋BIGCAT
OPEN 18:00 / START 19:00
2025年1月18日(土) 愛知・ElectricLadyLand
OPEN 17:00 / START 18:00
2025年1月25日(土) 東京・Spotify O-EAST
OPEN 17:00 / START 18:00
●SHO-SENSEI!!オフィシャルSNS
提供:SHO-SENSEI!!
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部