【インタビュー】なぜDUSTCELLの音楽は「救い」なのか。最新アルバム『碧い海』が最大限に「生」を肯定する理由

2025年に5周年を迎えたDUSTCELL。これまでMisumi(Composer)とEMA(Vo)は、人間社会で生じる痛みや孤独から目を背けることなく、その現実を音楽に昇華してきた。だからこそ多くの人にとってその歌は時に救いとなり、時に癒やしとなっていった。そんなDUSTCELLの約1年半ぶりのフルアルバム『碧い海』は、これまでになく「生きていく」ということを真正面から肯定した作品となった。タフな現実、心が砕けるような人間関係は変わらずそこにあるとして、それでも「生きていく」という気高い意志に貫かれた作品だ。言い換えれば、これまでDUSTCELLの深部にあった核が露わになったアルバムだと言える。間違いなくDUSTCELLの最高傑作。ふたりは今、この作品をどのように捉えているのか。アルバムが生まれた背景をインタビューでひもとく。

インタビュー=杉浦美恵


「生きろ」というより「生きてほしい」っていうのが、このアルバムに通底しているテーマなのかなと、あとから自分でも思いました(Misumi)

──2025年11月に行われたワンマンライブ「DUSTCELL LIVE 2025 -月の裏-」は、これからのDUSTCELLをポジティブに予見させる、素晴らしいライブでした。

EMA 東京も大阪も、歌に関しては今までのライブでいちばんよかったなという実感がありました。ライブ自体も本当に、チームDUSTCELLが一丸となって成し遂げられたという感覚があって、ほんとにいいライブだったなって思います。でも、私にとってライブは、来てくれた人みんなに自分の生命エネルギーを分け与えているような感覚というか、命を削って歌っているような感じがあって、終わったあとには反動がガツンとくるんですよね。だからこそ、そのライブをお客さんに喜んでもらえたならよかったと思えるし、今回はすごくいいライブができました。

──Misumiさんは「月の裏」をやり終えて、どんな感覚でしたか?

Misumi ライブはいつも、足を運んでくれた方に何かしらの変化を与えるようなものにしたいと思っていて。自分もEMAも全身全霊でライブをしているんですけど、今回は今まででいちばんお客さんの顔を見ながらライブができました。笑ってる人、泣いてる人、いろんな感情で観てくださっている方たちの表情を見ることができて、お互いのエネルギーの交換というか、こちらが送ったものが向こうからも返ってくる、そういうライブだったなと思います。

──新作アルバム『碧い海』が完成して、その中の1曲として “後書き”という曲をライブでも初披露していましたよね。「生きていく」という決意が滲む、胸に沁みる歌でした。このテーマはアルバム全体のテーマとも繋がるものですよね。

Misumi そうですね。このアルバムを作っているとき、身近なクリエイターさんが亡くなったり、周りに生きづらさを抱えた人が多いなと切実に感じていて。そう思って曲を作ると、自然と「生きてほしい」という祈りのような歌詞が増えて。そういうことを書いても誰も救えないんじゃないかと考えることもあったんですけど、今年の7月に「DUSTCELL EXHIBITION - MONOLITH - 」という展覧会を開いたとき、来場者の方が書いてくれたメッセージカードを全部読んだんです。そこには「救われた」というコメントがすごく多くて、そこで自分の書いた歌にも意味があったんだと実感することができました。だから“後書き”という曲は、「救いたい」という思いを込めた歌なのかなと思います。「生きろ」というより「生きてほしい」っていうのが、このアルバムに通底しているテーマなのかなと、あとから自分でも思いました。

all photo by 日吉"JP"純平

──DUSTCELLの楽曲として、そうしたテーマは以前からあったものだとは思いますが、今作では「生きる」ことと「音楽」というものが強くイコールで結ばれて、これまでになくポジティブにそのテーマが表現されていると感じました。

Misumi 歌詞1行で聴いた人の心を変えてしまう可能性もあるから、作詞は怖い側面もあると思うんです。初期は、絶望を絶望のまま吐き出していたけれど、その暴力性みたいなものを考えるようになってしまって。なので、そこは初期と変わったところで、“後書き”も、最後には「生きてほしい」というメッセージになっているというか。最後から2行目の《作者は自分だ 他人じゃない》というのがいちばん伝えたいところで、他人の言葉に苦しんだり、他人から影響を受けすぎて苦しんだりすることもあるけれど、やっぱり自分の人生を書いているのは自分自身だということを伝えたいと思いました。

──EMAさんは、この曲のデモを受け取ってすぐに「いい曲だ」と思ったとライブで言っていましたよね。どういう部分が刺さりましたか?

EMA  2番に《顔も知らない人の/薄情な言葉に傷ついた》というフレーズがあるんですけど、そこがすごく刺さりました。私は、匿名の人からの誹謗中傷に傷ついたりしたこともあって、その傷が今も傷痕になってる感じなんですけど、それ以上に素敵な出会いがあったり、自分のことを守ってくれる人が増えて、だんだん心が大丈夫になっていって。だからそれは今「傷痕」だと言えるんですけど、当時くらった言葉がフラッシュバックしてしまうこともあります。受け取る側の気持ちを深く考えずに匿名で誹謗中傷する、その危険性をわかってない人たちが現代社会にはたくさんいて、そういう人たちにはもう、この曲で歌っていることは通じないと思うけれど、まだ人間の心が残っているうちに、このフレーズがたくさんの人に響いてくれたらいいなと思います。


“畢竟”は高い、速い、難しい(笑)。でもこの曲のデモをもらったときに、ファーストインパクトで大好きな曲になった(EMA)

──リード曲となる“青”は、疾走するドラムンベースサウンドで、DUSTCELLの新機軸を感じさせる曲でした。

Misumi 編曲をぎゅる子さんという方にお願いしているんですけど、ぎゅる子さんの曲は個人的に2025年に聴いた曲の中でいちばん好きだと思うくらい愛聴していたんです。ぎゅる子さんの曲はIDMっぽいサウンドなんだけどポストロックの要素が入ってくるところがすごく面白いなと思っていて、そういう部分で“青”も面白い化学反応が起きたなって思います。

EMA この曲はかなり難しいけれど、歌っていてすごく楽しかったです。あと、2Aの歌詞に、《クロードモネの絵画》が出てきたことに驚きました。個人的に絵画を鑑賞するのは好きなんですけど、画家についてはあまり詳しくなくて。でも、クロード・モネだけはすごく好きだったんです。これまで特にMisumiさんに「モネ好きなんだよね」って言ったこともなかったのに、その名前が歌詞に出てきて。DUSTCELLってそういう偶然がよく起こるんです(笑)。


──そして “畢竟”は『崩壊:スターレイル』に登場するキャラクター、黄泉のイメージソングとして書き下ろしたものでしたが、今思うとこの楽曲も今回のアルバムのテーマに沿う曲でしたね。

EMA 《変わらずを願えども/変わらずにはいられない》っていう歌詞は『碧い海』のコンセプトに通じていますよね。変わりたくないけど、環境が変わればどうしても価値観が変わってしまうこともあるし。たとえば小学校のときにすごく仲良かった女の子が、その後別の学校に行って、高校生になって久しぶりに会ってみたら全然話が合わなくなってたとか。自分が置かれる環境によって人間って形成されていくと思うんですよね。この曲の中でこの歌詞がいちばん好きです。

── “畢竟”は歌唱的にはかなり難度の高いものだと思うのですが、EMAさんの歌が気持ちよく響いてきて。この曲は歌ってみてどうでしたか?

EMA おっしゃる通り“畢竟”は高い、速い、難しい(笑)。でもこの曲のデモを貰ったときに、ファーストインパクトで大好きな曲になったので、歌えてよかったなと思います。


──Misumiさんは“畢竟”にはどんな思いを込めましたか?

Misumi “畢竟”っていう言葉が「死」を意味するものでもあって、この曲もやっぱり「生きる」ということがキーワードになっているんですよね。「死」については日頃はつい忘れがちなんですけど、「死」を意識するからこそ、今日を生きられるような気もします。


──アルバムでは“畢竟”の次にある“音楽”という曲が、とても素敵な曲だと思いました。スタイリッシュなトラックとEMAさんのラップの魅力も堪能できて、歌詞は「音楽」と「人生」を重ねた洒落た表現。心軽く、人生を考えるような感覚もあります。

Misumi そうなんですよね。これは今回のアルバムでは最後の最後に作った楽曲ですが、なんとなく、シリアスな曲を書きすぎたなという思いがあって。だからこの曲に関しては特に意味はないんです。この曲に関しては「伝える」というよりも「楽しもう」っていう感覚で歌詞を作りました。ほとんど音楽用語やDTM用語で言葉が紡がれていて。思い切り楽しんで作りました(笑)。

EMA メロがめちゃめちゃキャッチーで、私もフィーリングで楽しく録音したんですよね。サビ以外のハモリは全部自分で好き勝手に入れたりして、楽しんで作りました。

EMAの歌詞は純粋に取り出された球体みたいなイメージがあって、その純粋性が美しい(Misumi)

──その次に続く“憂いの化け物”は一転してダークな曲ですが、《カオスの肯定》というのが、ひとつのキーワードかなと。

Misumi これもEMAにもらったキーワードから思い浮かんだんです。「かわいさとかっこよさの共存」みたいなことを言っていたよね?

EMA うんうん。

Misumi そのキーワードを極端に表現したのがこの曲で。だからAメロとかはすごくかわいい感じなんだけど、一転してハードな部分も見せたり。これまであまりEMAのかわいらしい声ってなかったと思うので。

EMA 確かに。普段はクールな声で歌うことが多いので、それこそ《カオスの肯定》じゃないけど、カオスな二面性みたいなものを声色で表現したいなあって思って。自分の声の振り幅というかポテンシャルをできるだけ詰め込もうと思ったら、こういう曲ができました。


──次の“SCAPEGOAT”は、さらにダークさが極まる曲。

Misumi これは5年くらい前に作っていた曲なんですけど、EMAがこの曲を「今やりたい」って言って。

EMA 当時、この曲を聴いてすごくかっこいいなあと思っていたけど、なかなか録音が進まなくて。すごく難しかったんですよ、当時の自分にとっては。恥ずかしながら歌いこなす技量がなくて、どうしても自分の歌が気に入らなかったんですよね。それで、フェードアウトするみたいにお蔵入りにしてしまって。でも「そういえばあの曲、なかったことにしちゃったけど、めっちゃかっこよかったなあ」って時々思い出していたんです。それで今回、Misumiさんに「“SCAPEGOAT”のデモってまだある?」って聞いたら「まだあるよ」って言うから「じゃあやろうか」って。

Misumi この曲は今、ライブでもいちばん盛り上がるんじゃないかっていうくらい定着したと思える曲になりました。“憂いの化け物”もそうですけど、ちょっとズレてしまった人間を描いているという感覚があるんですよね。生きづらくて苦しんでいる人を見たとき、そこに人間社会というものがあるとして、それに対して自然を含む世界全体みたいなものはもっと莫大な存在で、人間社会なんてちっぽけなものだと思えたんです。『碧い海』のアルバムテーマとも繋がるんですけど、そういう思いで海とか大自然を見ると、人間社会のちっぽけさに気づく。だからときにはズレるというか、もし苦しいなら、人間社会から少しはみ出してしまってもいいんじゃないかと思うときもあって。完全にはみ出た無敵の人になってしまうと生きる意味を感じられなくなって、それは危険なんだけど、半歩くらいははみ出してしまえば、少し生きやすくなるんじゃないかと肯定している部分もあるんですよね。そういう思いで“SCAPEGOAT”は書きました。


──そしてEMAさんの作詞曲“いちばんぼし”は、あたたかさを感じるトラックとピュアな歌声が耳に沁みてくるようで。トラックに導かれて歌詞が書かれているように感じました。

EMA ほんとにそうです。Misumiさんのトラックを聴いて、感じたことを歌詞にするというのが私の基本的な作り方で。だいたいは先にトラックがあって、そこに私が歌詞とメロを乗せていきます。私はあまりコンセプトとかは意識していなくて、自分の制作に関しては、衝動とか感情が最優先で前に出る場合がほとんどなんです。そのとき自分が覚えていた風景とか感情を、そのままメロと一緒にわーって書き出す。最初の歌詞に《流れる電車の車窓から/知らない景色が見えて/すこし 寂しくなったの》って書いたんですけど、知らない街ってすっごく心細くなりますよね。特に冬なんかは陽が落ちるのが早いので、自分だけぽつんと取り残されたみたいで、そんなときに空を見上げたら、薄暗い夕空に、たぶん金星かな、すごく明るく光る星が見えて。心細い気持ちだったけど、素直に「一番星めっちゃきれいだな」って思えて。そんな記憶を手繰り寄せて書きました。

──とても優しい気持ちになる曲でした。

EMA 私の場合は、現状の自分をなんとか昇華したくて歌詞を書いている部分もあるので、どこか、自分が救われたいという思いがあるんだと思います。それを聴いてくれた人も救われたり共感してくれたらいいなあと思います。

Misumi EMAの歌詞って、なんか「まるい」イメージがある。そのまま伝えているというか。僕の場合は、捻ってみたり、何かを加えたり、ちょっとはずしてみたり。EMAの歌詞は純粋に取り出された球体みたいなイメージがあって、その純粋性が美しいなって、毎回思いますね。


“心臓”は《今を生きていく》という歌詞で終わるんですけど、このアルバムはその一言に尽きるなと思います(EMA)

──『碧い海』には“灯火”や“表情差分”など、アニメのエンディング曲となった曲も収録されていますが、Misumiさんはタイアップでの曲作りにはどんなふうに向き合っていますか?

Misumi アニメなどのテーマ曲を作る場合は、絶対に原作をしっかり読み込んでから作り始めます。“灯火”も主人公のキャラクターを憑依させるような気持ちで書きました。今思えばこの曲も「生きていく」ということを歌っていますね。

──“表情差分”はEMAさんの歌声の透明感がすごく際立っている楽曲でもあって。

EMA (“表情差分”がエンディングテーマとなっている)『君は冥土様。』がとてもあたたかい話だし、歌詞にもあるように、最初は楽しいも悲しいも幸せもわからなかったけど、どんどんその感情に色がついていくというのはすごく前向きだなって思ったので、いつもより明るく、やさしく軽やかな気持ちで歌いました。

Misumi 感情があるということは楽しいこともあるけど、苦しいこともあるということ。ときに自分は、感情を失くしてしまえばもっと楽に生きられるんじゃないかと思ったりもするんですけど、しんどくても感情は失くさず、やっぱり人間として「生きていく」っていう、そういう思いを込めている気がします。


──ラストの“心臓”も、まさにそのテーマの核を表現しているような楽曲ですよね。

Misumi この曲も“表情差分”と同じく、人と関わらなければ楽に生きていけるのにと思う時期があって。でも、たとえ苦しみや痛みが生まれても、それでも人と深く関わっていこうという決意の歌です。

EMA “心臓”は、(2025年3月の)武道館公演に来てくれた人と一緒に歌える曲をと、Misumiさんが制作してくれて。この曲を武道館で歌ったとき、みんなの声をどうしても聴きたくてイヤモニをちょっと浮かせて聴いたら、ものすごい大合唱で心が震えました。言葉にできない感情が湧いてきて、感極まってしまって。あの瞬間は忘れられない。あの瞬間を感じさせてくれた“心臓”という曲は、これからの私たちのライブにおいても、“命の行方”や“独白”、“STIGMA”、“過去の蜃気楼”、“CULT”とかにも並ぶ要の曲になると実感しました。私もMisumiさんも、いちばん大事なのは「今」だという認識が共通してあって、“心臓”は《今を生きていく》という歌詞で終わるんですけど、このアルバムはその一言に尽きるなと思います。

──心臓の鼓動って「今」を打つものですしね。

Misumi 人間らしく生きることの肯定というか。人を傷つけたり、自分が傷つくことは怖いけれど、それでもやはり人と深く関わっていくべきだと思ったので、その決意を込めました。


──とてもポジティブに「生」と「音楽」を肯定するアルバムができあがったと思います。

Misumi 作品を生み出すっていうのは子どもを産み出すことのようでもあって、自分たちが勝手に作ったものではあるけど、それが知らないところで人の感情を動かしていたりする。今回も完成して、ああ、この子も旅立っていくんだなあって(笑)。それが誰かの生きていく力になればいいなと思います。音楽って時と場所を越えるんですよね。そこが音楽の好きなところでもあるし、僕も昔の曲に救われたりもするので。

──1月からはアルバムを引っ提げてのツアーも始まりますね。

EMA 自分たちのアルバムながら、素直にいいものを作ったなあという達成感があるし、またツアーを通して『碧い海』の良さをさらに届けていきたいと思っています。

●リリース情報

『碧い海』

発売中



●ツアー情報

「DUSTCELL TOUR 2026 -碧い海-」


提供:ALLT STUDIO
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部