──今回のアルバム収録曲で最初にシングルとして世に出たのは“絶対零度”ですけど、この曲が出たタイミングでは、まだアルバムのことは見えていなかったわけですよね。俺はこの先、深海から抜け出そうと思うけど、深海で歌っているなとりはずっとこの作品の中にいる
そうですね。あのときは、こういうロックとかボカロ曲みたいなのを作ったことがなかったし、ただ楽しさで曲を作っていたって感じがします。
──ただ“絶対零度”にしろ、“IN_MY_HEAD”にしろ、この辺りの時期に出た楽曲のムードは、結果的にアルバムを引っ張る要素になっていると思うんです。象徴的なのは、速度。“SPEED”という曲もありますけど、この『深海』には激しい速度を持った楽曲が多くて、そこが『劇場』との大きな違いですよね。この「速さ」はなぜ出てきたものなんですか?
まず大きいのは、ライブの影響だと思いますね。初めてライブをやったとき、1stの曲を中心にやったんですけど、「楽しい曲が少ないな」って思って。ライブで速い曲が必要だ、となったのはあると思います。あと、“SPEED”はBPMが160を超える高速エレクトロなんですけど、エレクトロな曲は“Overdose”とかでもやっているけど、ここまで速い曲はやったことないよなってスタッフのみんなとも話していて。周りはみんな速い曲を求めていたような気もするんですよね。
──BPMが速い曲って、なとりさんの場合、そこにどんな気持ちが投影されるものなんですか。
……圧倒的に、バカみたいなことが言いやすくなった(笑)。
──ははははは。
1stのときって、美しい言葉を使うことが善だと思ってたんです。たとえば「~してしまった」を「~しちゃった」って言い方にするのを、いいことだと思っていなかった。でも、どっかのタイミングでそれを許せるようになった瞬間に、圧倒的に曲のバカ加減が大きくなったし、1stのときは年相応とか、なんなら実年齢よりちょっと上のくらいのものを表現しようとしていたのが、最近は、5歳児の気持ちを言えるようになったなと思っていて(笑)。速い曲で「~してしまった」だとリズムが崩れるんです。でも「~しちゃった」だったら、すごく歌いやすい。いい感じで、トンチキソングが作りやすくなった(笑)。そこは成長って感じがしますね。
──今回は、なとりさんの中にある5歳児的な部分とか、衝動や本能的な部分がより露わになっていますよね。
より素直になったなと思います。曲って、取り繕わないと書けないと思っていたけど、意外とふざけた曲のほうが作るのが楽しかったりして。それまでだったら絶対に言えなかったことが曲の中で言えるようになった。そこは表現の幅を広げられたと思います。
──さっきちょっと話に出たライブの経験も、今作には大きく入っていると思うんですよね。ライブ活動を始めて感じたことって他にありますか?
1stのときは考えてなさすぎたって感じもするんですけど、「人に届ける仕事なんだ」ということは、自覚し始めた気がします。それまではデータでしか会ったことのない人に曲を届けていた感覚だったけど、データの人たちもちゃんと「人」であるっていうことにようやく気づいた。なので、思いやりは増えた気がするし、パソコンで曲を作っていても、見える人が違ってくるというか。
前までは自分のことしか考えていなかったけど、最近は目の前に聴いてくれる人を想像できるようになりました。これも感覚の話なんですけど、曲を作っていると、目の前にいろんな人がいるのが浮かんできて、でも、その真ん中にいる人がまだ笑ってないな、みたいな……そういうことを想像できるようになったんですよね。
──その真ん中にいる人を笑わせたいっていう欲求が出てくるものですか。
ああ……笑わせたいというか、無表情なのが気になるんですよね。笑わせたいとか泣かせたいというより、もはや曲を聴いてキレてくれてるほうが嬉しいかもしれない(笑)。
──揺さぶりをかけたいんですね。「なんでもいいから動けよ!」みたいな。
ははは。でもマジでそうです。
──アルバムは最後“うみのそこでまってる”というインスト曲で締め括られますけど、このインスト曲に、聴き手である自分の居場所があるような気がしました。なとりさんとしては、このアルバムをどんなふうに締め括りたいと考えていたんですか?
僕は「これが居心地のいい場所なんだ」って今日もずっと言ってきましたけど、本当は、すぐにでもこの深海から抜け出したいんですよ。もう苦しみたくない。本当は何も考えずに寝たい。なので、俺はこの先、深海から抜け出そうと思うけど、深海で歌っているなとりはずっとこの作品の中にいるので。何年後かに誰かがこの作品を聴いてくれたときに、「俺はずっと海の底で待ってるから」って言ってあげる曲が欲しかったんです。
──未来の聴き手に向けた曲でもあるんですね。
そうですね。それに、何回も繰り返し聴くようなアルバムでもないと思うんですよね(笑)。聴く側の体力も消耗させると思うから。なので一度離れても、また帰ってきたら、あなただけの居場所がここにあるし、このときのなとりは、ずっと待っているからって。そういうメッセージを入れておきたかったんです。
──本当に、今のなとりさんだからこそ作れた見事なアルバムです。
ありがとうございます。もう作りたくないです(笑)。
ヘア&メイク=シゲヤマミク スタイリング=TAIKI MISHIMA
このインタビューの完全版は、発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』3月号に掲載!