──今話してくれたことはまさに“天誅 & Mercy”で、あえて3つの異なるサウンドで構成したこととも、リリックで書いていることとも、つながっていますよね。だからこそ、この曲はアルバムの核とも言えるくらい、重要な役割を担っているのだと思います。歌詞に関しては、TAKUMAさんと共作する中で、どんなことを書きたいと思っていたのでしょう。「天誅」と「Mercy」は、正反対のもののように思えますが、実はつながっているんですよね(Mori Calliope)
Mori Calliope 今の自分の葛藤を歌にしたいと思っていました。これまで一生懸命頑張ってきて、これからも遠くへ飛ぶために頑張りたいけど、過去の自分にとらわれている感覚がある。もっと上を目指したいのに、自分で「ダメな人間だ」と思い込んで鎖で縛ってしまうような時があります。TAKUMAさんはミュージシャンとして経験が豊富で、私よりもずっと人生経験も豊富なので、TAKUMAさんの書く歌詞は、私の歌詞みたいに激しくて尖っているものではなく、ピースフルだなといつも思っていて。その2つの物語を組み合わせることで、自分の心境を表せると思いました。結果的には、リスナーに「大丈夫だよ」と伝えるメッセージになっていると思います。でも、そこには前に進み続けなければならないという切実さも混ざっている。同時に、いろんな気持ちが落ち着いてホッとできる居場所を見つけたいという願いも混ざっている。まだまだ未熟な私の考えに、経験豊富なTAKUMAさんの考えを持ち込んでくださったことで、その2つの視点が曲の中ですごくうまく混ざり合って、壮大な曲になったと思います。だからフックの《Let’s maintain》という歌詞が特にお気に入りです。「過去に縛られずに前へ進みたい」という私の視点と、「大丈夫だよ」というTAKUMAさんの視点が、うまくつながっているラインだと感じるから。
TAKUMA これまでのCalliopeさんの歌詞とは、なんとなく軸足の場所がちょっとだけ変わったのかなと思いました。それは僕とCalliopeさんが寄り添った結果でもあるなと感じていて。Calliopeさんの歌詞にはアンガーやストレス、幸せになりたいという気持ちがあるゆえに怒ってしまう、といったものがよく見られるんですけど、僕自身もそういう表現はすごく好きで。昔はそういうコピーバンドや、そういう表現ばっかりしていたくらい大好きで。ネガティブな場所にいるからこそポジティブなところに行きたい、暗いところにいるからこそ光に向かって手を伸ばすんだっていう、「ネガティブエンジン、ポジティブパワー」みたいな強い力をCalliopeさんからは感じます。決してネガティブなだけではない。そういった意味でも、この作品に“天誅 & Mercy”という2つを組み合わせたタイトルをつけられたことがよかったですし、Calliopeさんのスタイルにふさわしい言葉が生まれたなと思います。
Mori Calliope 「天誅」と「Mercy」はコインの裏表のようなもので、過去の苦難や怒りを認識しながらも慈悲や安らげるピースフルな場所を探しているという、この曲の複雑な感情にすごく合っていると思います。だからこのタイトルは、お気に入りです。
──いろんな相反するもの──天誅とMercy、ポジティブとネガティブ、ダークな世界観とピースフルな世界観など──が、グワッとひとつになっているからこそ、すさまじいエネルギーが渦巻く曲になっているのだなと、今話を聞きながら実感しました。
Mori Calliope その通りです。それぞれ違うもの、あるいは正反対のもののように思えますが、実はつながっているんですよね。だから私たちの2つの世界観がうまく融合した曲になったと思います。しかもTAKUMAさんも歌ってくれたことによって、曲が複層的になって深みも生まれました。歌ってくれてありがとうございます。
TAKUMA 僕が歌わなくても十分かっこよかったと思いますよ。でもレコーディング当日に歌いたくなったのと、あとたくさん歌詞を書いてもらったので、そこに報いる一手を投じたいなと思いました。一緒に歌えて嬉しかったですね。
──最初にTAKUMAさんから、Calliopeさんの歌には「本当に歌やラップが好き」という感情から湧き出るものを感じるといった話がありました。“天誅 & Mercy”では、「何があっても歌い続けたい」ということが歌われていて、《Someday I’ll have sung all I need to say/I got a feeling that I’ll still sing anyway》といった歌詞まであります。「言いたいことをすべて言いきったとしても、それでも歌い続けるだろう」と思うほど、何があっても歌い続けたいというCalliopeさんの気持ちの根底には何があるのでしょう。これまでたくさん曲を作ってきたんですけど、頭とか心で鳴っている音楽をちゃんと再現できているかっていうと、実はそうではなくて。「そうそう、これやねん」っていうところとは程遠いんですよ(TAKUMA)
Mori Calliope まだ見たことのない景色があるから、その景色を見られる日までは歌い続けたいです。音楽でしか到達できない高みがあると思っています。
──TAKUMAさんにとって、まだ歌い続ける理由ってなんですか?
TAKUMA まだまだ「こういうふうにならなあかんな」みたいなところに全然行けてないので、それを果たしたいなと思ってますね。まだまだやりたいことができてないし、これやなっていうことをやりきれていないので。自分の年齢を考えたら、できてないことがあるというのは幸いなことだと思いますね。
──30年近くバンドをやり続けてきたTAKUMAさんにとって、「まだやりきれていないこと」、もしくはCalliopeさんの言葉を借りると「まだ見たい景色」というのは、どういうものなんですか?
TAKUMA これまでたくさん曲を作ってきたんですけど、頭とか心で鳴っている音楽をちゃんと再現できているかっていうと、実はそうではなくて。「そうそう、これやねん」っていうところとはむっちゃ程遠いんですよ。別に妥協しているわけじゃなくて、毎回メンバーと「これ以上は無理」っていうところまでやっているので、それはそれでいいと思うんですけど。今年51歳で、元気に歌えるのはあと10年くらい──70くらいまで歌えたらええな思うけど──そのあいだに、自分の中で鳴っている音やアイデアが表現できるかわからないですけど、「そうそう、これやねん」って思えるところまで行きたいという想いが、倒れるまで全力で音楽ができる原動力になってくれていると思いますね。
Mori Calliope かっこいいです。私も同じ悩みを抱えています。頭の中で鳴っている音楽を再現できていない気がしていたのですが、それができるようになるにはまだまだ時間がかかるとわかって、なんだかホッとした気分です。長い旅なんだなと思いました。私は音楽を作り始めてまだ10年くらいなので、遠い未来のゴールなのかもしれないです。ミュージシャンってそういうものなのかも。決して全員がそうではないかもしれないけど、そういう人もいるとわかって「時間がかかってもいいんだ」って思えました。だってTAKUMAさん自身はそう思っていても、私は10-FEETの音楽が大好きですから。
TAKUMA 僕もコンプレックスや後悔がたくさんあって、それも長く音楽をやるための大切なエンジンになっていて。だからコンプレックス、後悔、怒りとかは、本当にすごくすごく大事だと思うんです。一方で、それだけでは行き詰まってくるところや伝えきれないところも出てくる中で、それこそ“天誅 & Mercy”じゃないですけど、Calliopeさんの言葉や声には優しさを感じる。そういう人は歌い続けていけると思うし、そういう人の音楽はずっと聴いていられると思う。やっぱり音楽って、元気やったり楽しい時にもハッピーなエネルギーをくれるんですけど、怒っていたり悲しかったり後悔している時にこそドーンって刺さったりするものやと思うんです。僕はどうしようもないどん底にいる時に聴いた音楽ほど自分の中で「人生のテーマ」「人生の名曲」みたいなものになっている気がしていて、そういう人が多いんじゃないかなと思う。だから、Calliopeさんが過去に何があったかを詳しくは知らないですけど、コンプレックスとかがあって今歌っているということは、非常に大事やと思うんですよね。怒りも「あの人を許さない」みたいなことも、どれもこれも「穏やかに幸せになりたいから」っていうことだと思うし。そういうところにみんな共感してCalliopeさんの音楽に惹かれていると思うので、そのまま歌い続けてほしいなと思います。