後藤まりこ@SHIBUYA-AX

後藤まりこ@SHIBUYA-AX
「ひとりぼっちやけど、もうひとりぼっちじゃない気がします。ずっと一緒にいてください! よろしくお願いします!」。ライヴ終幕間近、雄叫びにも似た大歓声に沸き返るSHIBUYA-AXのフロアに後藤まりこが語りかけると、観客の声と拍手はさらに高まっていく――今年2月にマネジメント/所属レーベルとの契約終了を発表した後も積極的にライヴ活動を展開してきた後藤まりこの、約5ヵ月ぶりのフルバンドセットでのステージとなるワンマンライヴ『510mariko Party @ SHIBUYA-AX』。ライヴ当日まで「チケット半分以上売れ残り」というニュースがネット上で飛び交い続けるなど、ただならぬ雰囲気の中で迎えた5月27日だったが、当日券売り場には長蛇の列が生まれ、超満員とはいかないまでもAXのフロアのほとんどを熱気あふれるオーディエンスが埋め尽くしていた。そして何より、彼女の(誇張抜きで)渾身の歌とパフォーマンスが、猛烈な熱量と最高のコミュニケーションを生み出していた。

バンドの機材がセッティングされた広いステージにひとり登場、赤のフェンダー・トルネードを構えたかと思うと、最新アルバム『m@u』からの“世田谷区桜新町2丁目”を弾き語りで披露する後藤まりこ。途中のMCで「今日、全部持ってる曲やるから!」と言っていた通り、この日は『299792458』『m@u』の2作の全曲(『m@u』収録のスガダイローとの即興曲“だいろーちゃんとまりこちゃん”は除く)のみならず、序盤から“好き、殺したい、愛してる”“シンデレラタイム”“触媒”と未音源化の新曲をエレキ弾き語りで立て続けに歌い上げ、1曲ごとに割れんばかりの歓声を巻き起こしていく。

後藤まりこ@SHIBUYA-AX
ギターを置き、1人多重歌唱的音像がカラフルかつ不穏に飛び交う“299792458_TOKYO-U”、アイドル・ポップと前衛舞踏が入り混じったようなアクションとともに“ラブロマンス”を熱唱、さらに“大人の夏休み”へ流れ込む――というところでようやくバンド・メンバー=AxSxE(G)/仲俣“りぼんちゃん”和宏(B)/マシータ(Dr)/坂井キヨヲシ(Key)/中村圭作(Key)が登場。静と動、笑顔と狂気、ジャズとパンクとノイズとポップを秒刻みで行き来する変幻自在なアンサンブルとともに、後藤の歌はさらに激しさと色彩感を増していく。そして、「行こうか! よろしくお願いします、SHIBUYA-AX!」というコールとともに、満場のOiコールが沸き上がる中、歌いながら鮮やかなクラウドサーフを決める後藤。フロア中央に仁王立ちしたかと思うと、そこからオーディエンスの頭上に勢いよくダイヴ! 冒頭の弾き語りの時点で静かに沸点に達していたオーディエンスの熱気があっさりレッドゾーンを超越、AXは怒濤の狂騒空間へと突入していった。

後藤まりこ@SHIBUYA-AX
“M@HΦU☆少女。。”で轟々たるアンサンブルを全身に受けながらステージ前の柵に立ち上がって絶唱し、“すばらしい世界。”のプログレ的サウンドの中で力強いクラップを巻き起こしてみせる後藤まりこ。少女のイノセンスと獣の如き獰猛さが同居している後藤まりこの音楽世界は、他でもない彼女自身が少しでも矛盾なく、純粋に、今この瞬間を生きようとするがゆえの衝動の爆発であり、そのイノセンスと獰猛さは「二律背反」ではなく「表裏一体」のものである――ということを、この日の彼女の姿はどこまでもリアルに物語っていた。「最初、どうなることかと思ったけど……ほんまどうなるかと思った! チケットな、全然売れてなかったんや!」と思いの丈を打ち明け、「チケットもいっぱい売れて、みんないっぱい来てくれた。ありがとう! とてもありがとう!」と心の底から感謝の言葉を捧げ、オーディエンスが掲げる手の上に幾度となく自らの身体を投げ出してみせる彼女。「みんな、行こうか! 向こう側に行こう!」というシャウトとともに鳴り響いたのはシングル曲“sound of me”。脇目も振らずに歓喜の彼方へ爆走するような歌とサウンドに応えて、熱いシンガロングが噴き上がり、あたり一面カオティックな高揚感が満ちあふれていく。

後藤まりこ@SHIBUYA-AX
「ひとりぼっちに、ちゃんとなれました。ひとりぼっちになってもう一度、考え直されて、リブートできました」――本編終盤、観客に静かに語りかけ、これまでお世話になったスタッフと旧レーベル=デフスターレコーズに感謝を伝える後藤。そして、「秋頃に、CD出します!」とアナウンスすると、うおおおおっ!と歓喜の声がAX丸ごと震わせるように高らかに響き渡った。終盤には灼熱ピアノ・ダンス・ポップ的な新曲をもう1曲披露した後、“ユートピア”を歌いながらクラウドサーフからひときわ激しく舞台上を跳ね回り、再びギターを構えての“m@u”の最後には見えない敵と闘うようにギターをぶん回してAxSxEのマイクスタンドをなぎ倒す後藤。メンバーが舞台を去った後、ギターを置き、“す☆ぴか”のキラキラのトラックに乗せてウィスパー・ヴォイスと絶叫を響かせて本編終了……のはずが、「ありがとう! ここで本当はアンコールに行くはずやったけど、アンコールに行けません」。戸惑いとともに広がったフロアのざわめきが「……このままやる!」の彼女の言葉で一気に歓声に変わる。

後藤まりこ@SHIBUYA-AX
ギターを抱え、モニタースピーカーに腰掛けて“ゆうびんやさん”を弾き語りで歌うところに、AxSxE以外のバンド・メンバー4人が登場。バンドの演奏が続く中、全力疾走で舞台袖に姿を消したかと思うと、あっという間に衣装替えをして戻ってきた彼女。ノイズ渦巻くサイケ・ブルース“ドローン”の後、残ったエネルギーを完全に絞り出すように“うーちゃん”を極彩色に燃え上がらせ、フロアに身を投げ出しながら“あたしの衝動”をエモーショナルに轟かせていく。そのままクラウドサーフでフロアを横断、後方のPA卓まで流れていった彼女。PA卓に立ち上がり、中指を立ててひと言、「お前ら……全員死ね!」。AX狭しと吹き荒れる大歓声を受けて、「僕と一緒に、いっぺん死んで生き返ろう! ともに歩んでください。よろしくお願いします」と切実に呼びかけるその言葉に、惜しみない拍手喝采が広がっていく。最後はそのままPA卓から“HARDCORE LIFE”をキュートに歌い上げて大団円! 後藤まりこという名の唯一無二の衝動と才気の「その先」を、自らの歌と音楽で生々しく照らし出してみせるような、あまりにも衝撃的で感動的な一夜だった。(高橋智樹)


■セットリスト
01.世田谷区桜新町2丁目
02.好き、殺したい、愛してる(新曲)
03.シンデレラタイム(新曲)
04.触媒(新曲)
05.299792458_TOKYO-U
06.ラブロマンス
07.大人の夏休み
08.ままく
09.M@HΦU☆少女。。
10.Hey musicさん!
11.すばらしい世界。
12.4がつ6日
13.sound of me
14.ふれーみんぐりっぷす
15.浮かれちゃって、困っちゃって、やんややんややん
16.新曲
17.ユートピア
18.m@u
19.す☆ぴか
20.ゆうびんやさん
21.ドローン
22.うーちゃん
23.あたしの衝動
24.HARDCORE LIFE
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