pic by 中野修也今年2月に「完全体」として活動を再開して以来、単独ライヴにイベント出演にと活躍を続けている女王蜂の、ドレスコーズとの対バン企画『お見合い合戦一騎討ち「ロマンスに死す」』。来場者に「あなたなりの制服」というドレスコードが敷かれた渋谷WWWの場内には、学生服やキャビンアテンダントの制服姿なども目に付く。お見合いにして一触即発、まるで円満に済む気がしないロマンスの舞台は、女王蜂・アヴちゃん(Vo)が語るところの「ロマンチックあげるよ! でも、いろいろ奪うよ!」というスリルと生命力を描き出し、そして痛みと引き換えに希望を摑み取る、そんな一夜となった。
pic by 粂井健太
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pic by 粂井健太中島みゆきの名曲群を客入れSEに、まず登場したのはドレスコーズ。白シャツに黒パンツ、赤い腕章で決めた4人が、“誰も知らない”から雷鳴のごとき爆音を轟かせ、ハウリングまで含めてドレスコーズ・ロックンロールの呼吸なのではないかというパフォーマンスをスタートさせる。音から、4人の立ち居振る舞いから、生活に染み付いた「生き難さ」が、ありありと立ち上ってくるようだ。続く“Lolita”で志磨遼平(Vo)は、夜明けの情景の中に歌と反骨精神を祝福しながら、鮮やかに足を蹴り上げ、あるいは開脚ジャンプを見せる。“ベルエポックマン”では、突き刺さるビートを繰り出す菅大智(Dr)となまめかしく力強いベース・ラインを紡ぐ山中治雄(B)が、ファルセットのハーモニーで楽曲を彩っていった。「OK、じゃあ、久しぶりの曲やるわー」とオーディエンスを包み込んでゆくのは、志磨のロマンチックなロックンロール・スウィンドルぶりが遺憾なく発揮される“ハーベスト”だ。
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pic by 粂井健太「こんばんはー! 『お見合い合戦一騎打ち「ロマンスに死す」』です。女王蜂とは昔から仲良いんですけど、こうして一緒にやるのは初めてです。アヴちゃん◎*$@!……あ、アヴちゃんありがとう、って言いました」と挨拶する志磨。以前は映画館だった渋谷WWWの会場に触れながら「女王蜂と僕たちにはピッタリだと思います!」と語ると、そこから“シネマ・シネマ・シネマ”で人生讃歌に拍車をかけるといった、粋な計らいをセットリストに持ち込んでくれる。唐突に鋭いポスト・パンク・サウンドが牙を剥く必殺のライヴ・ナンバー“Automatic Punk”、そしてメンバー紹介を挟み込んで「僕の話を聞いてくださいっ」と切迫したスキャットが弾ける“ゴッホ”へと、息つく暇もなくスリリングな楽曲が畳み掛けられる。オーディエンスを余さず昂らせたところに差し出される問答無用のロックンロール宣言“トートロジー”を経ると、丸山康太(G)のグラマラスなギター・プレイも最後まで一切のブレもなく弾き倒され、“バンド・デシネ”“Trash”と、限られた持ち時間に完璧なドラマを刻み付けるのだった。
pic by 中野修也さあ、転換後はいよいよ、女王蜂の登場だ。やしちゃん(B)、ルリちゃん(Dr)、そしてサポートのギタリストとキーボード奏者がそれぞれ一名ずつ、という4人が先にどっしりとしたイントロを放ち、“火の鳥”の燃え盛る欲望を歌声に乗せてステージ袖からアヴちゃんが優雅に進み出て来る。フラッシュライトの中にオーディエンスの翳した羽根扇子が舞い、いきなり過剰な享楽性に襲われるのだった。鍵盤のフレーズが哀愁を添えるストレンジ・ビート・ポップ“待つ女”から“人魚姫”と、続けざまに楽曲が放たれる中ではアヴちゃんが「かわいいやろ、このコ!」とギタリストに寄り添ってみせたり、「アリーナ!……もっと、浜崎あゆみに似るはずなんやけどなあ……」と実に楽しそうなヴァイブを振り撒いてくれる。「『お見合い合戦一騎打ち「ロマンスに死す」』、女の武器、使わせてもらいます!」と言い放ったアヴちゃんは、白いブラウスとスカートを脱ぎ捨てて更に肌の露出を増やし、意気揚々と“ストロベリヰ”へ向かってゆくのだった。
pic by 中野修也「ロマンスに死す、です。ロマンスに生きる、ではありません。死んで帰ってください!」と、笑いを巻き起こしながらも公演タイトルの本気度の高さを伺わせるアヴちゃんは、新たにライヴ会場限定で販売しているロゴステッカー(未発表音源CD・漫画付き)に収録された新曲を紹介し、それを披露する。そもそも活動のすべてが非常事態であり決戦である女王蜂だが、その真剣勝負に挑む現在進行形の姿勢をビシッと伝えるナンバーであった。今回の対バン企画は、このライヴ会場限定アイテム第二弾に導かれたものだったのだそうだ。そしてクラシカルなピアノの旋律と、スロウ・ブルースを奏でるギターのフレーズが交錯してエモーショナルに展開する“歌姫”へ。やしちゃん&ルリちゃんによる強力なリズム・セクションと絶叫コーラスが女王蜂サウンドの根幹を担い、サポート・メンバーが彩り鮮やかに情景を膨らませる、というパフォーマンスが続いた。人の残酷性を軽やかに暴き出してしまう“告げ口”を経ると、クライマックスは痛み・悲しみをアヴちゃんのくるくると声色を変える情念ヴォーカルが大熱演で伝える“口裂け女”、そして“燃える海”で本編は幕を閉じた。
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pic by 中野修也アンコールに応えてすぐさま女王蜂の面々はステージへと帰還したのだが、「スプラッタな感じですみませ~ん」と告げるアヴちゃんは、顔やら腕やらが血のりのようなものでベッタリ。どうやら、急いで塗ろうとしたリップが折れ、それならとあちらこちらに塗りたくってしまったらしい。差し出された腕に喜んで触れるオーディエンスである。「女王蜂のファン、すごいやろう? 自分から汚れに来んねんでー」と笑いながら、毒々しく華々しい“バブル”→“デスコ”→“イミテヰション”という楽曲の連打でオーディエンスを再沸騰させてしまう。そして、高校時代に毛皮のマリーズ時代の志磨と出会い、後にステージで共演したことなども振り返りながら、「ドレスコーズやのにドレスコードのあるライヴをやったことがないって、そりゃあかんわあって」と、今回の対バンのいきさつなども語る。「なんであたしら、ロマンスに死す、なんやろうって」「痛みも、大事だと思う」「話は全然違うけど、整形手術も痛みがあるんよ。あたしはそこに、ロマンスを見た。ドレスコーズも、似合うんちゃうかなって」と熱弁を振るうと、人生という終わりのない戦いを荘厳なサウンドスケープに重ね合わせる“コスモ”を披露し、最後に鮮烈なロックンロールを叩き付けて、大喝采を浴びながら女王蜂は去って行った。
多様な人間がいて、だから世の中には一定の枠組みには収まりきらない人もいるという残酷な事実。そこで困難な一生を強いられても、人は美に希望を見出して生活の拠り所とするのだというアートの本質。2つのバンドが、まるでそれしか伝えることがない、というように共鳴してパフォーマンスを繰り広げる、どこまでも悲しく、どこまでも優しい対バン企画であった。また女王蜂この日、今後予定されている『灼熱戦』シリーズの公演の他に、8/8に東京キネマ倶楽部で『夏の自由研究〜蜂月蜂日〜』を開催することも発表したので、ぜひチェックを(詳細はこちらのニュース記事を→
http://ro69.jp/news/detail/103263)。(小池宏和)