コールドプレイ @ TOKYO DOME CITY HALL

コールドプレイ @ TOKYO DOME CITY HALL
この2014年に、コールドプレイをキャパ3000人のTOKYO DOME CITY HALLで観ることがとんでもなく贅沢で、あり得ない体験であろうことは事前に予想できていた。でも、実際に目の当たりにしたそれは、予想を遥かに越えた贅沢さとあり得なさであり、そしてまったく新しいコールドプレイ体験でもあった。ちなみにコールドプレイは5月リリースの最新作『ゴースト・ストーリーズ』に合わせ、日本に来る前にもアメリカ、イギリス、ヨーロッパを回り、かなり頻繁にライヴを行っている。ただし、それらのライヴはTVやラジオの収録を兼ねたショーケース形式だったり、小規模なホール・ライヴだったりと、コールドプレイが通常回っているアリーナ&スタジアム・ツアーとはどれも異なる特殊なライヴだった。今回の東京での一夜限りのプレミア・ライヴもまさにその「ショーケース形式&小規模ホール」の流れを組むもので、当日にはJ-WaveとFM802で生中継も行われた。

ぐるりとステージを囲む三層のTDCの客席は上の上までぎっちぎちの超満員だ。当然だろう、2011年の前回来日はフジ・ロックのヘッドライナーだったバンド、普通ならばこの10倍近い規模でしか観ることが叶わないバンドがたった1日だけやってくれるスーパー・エクスクルーシヴ・ショウなのだ。ステージの天井からは無数の星型のオブジェが垂れ下がり、後方には巨大スクリーン、そして左右にはこれまた星を模した葉が茂る木のオブジェが対称で置かれている。「星の輝く夜空」を大きなモチーフとした『ゴースト・ストーリーズ』に相応しいステージ装飾だと言えるだろう。ということはつまり、今回のライヴは『ゴースト・ストーリーズ』に焦点を合わせたライヴ、あのミニマムで静謐なコールドプレイの新モードのお披露目を主目的としたものになるのだろうか。

その答えはYESであり、NOでもあった。定刻の19時を少しすぎたところで大音量のブレイクビーツが轟き、『ゴースト・ストーリーズ』のオープニングどおり1曲目の“Always In My Head”が始まった時には、まさに「NEW!」なコールドプレイの幕開けを感じたが、そこから一転、「コンバンワトキオオオオ」とクリスが叫び、激しく点滅するフラッシュ、交錯するレーザービームと共に爆音で打ちおろされた“Charlie Brown”のえも言われぬ高揚感、多幸感はまさに「これぞ!」というコールドプレイ・サウンドの典型だったからだ。禁欲的にアンビエントなビートを編み込み構築された『ゴースト・ストーリーズ』の世界観とは真逆の、しかし両極端で過剰という意味では同質なそのエモーショナルな展開に、会場は既にわけがわからないほど沸騰!「1、2、3、4!」の掛け声と共に手拍子が始まり、一瞬で3000人がひとつになっていく。コールドプレイの共感装置としてのとんでもない力をまざまざと見せつけられる格好だ。
コールドプレイ @ TOKYO DOME CITY HALL
クリスがピアノに向かっての“Paradise”、そして『ゴースト・スト―リーズ』からのシングル“Magic”と、五月雨レイヤーの繊細な美しさ&ミニマムなリズムでしっとり効かせるナンバーが2曲続く。“Magic”では天井から垂れさがった無数の星が一斉に瞬き始め、柔らかい黄金の光がチラチラと反射して凄まじく美しい。星型の単なるオブジェかと思いきや、ひとつひとつにライトが組み込まれていたことがここで初めて分かる仕組みだ。続く“Clocks”では赤と白の照明がステージ上空で平行に平面状に広がるグラフィックなライティングで、それはどこか日の丸を想起させる演出でもあった。「アリガトウ!アリガトウ!コンバンワトキオ!この美しい街でプレイできて本当に嬉しいよ」とクリス、そしてこの日最もハードでロックだった“God Put A Smile Upon Your Face”が始まる。この日、『ゴースト・ストーリーズ』の楽曲ではドラムセット横のエレキ・ドラムを黙々と、まるでリズム・ボックスのように淡々と叩いていたウィルだったけれど、過去ナンバーではその倍返しと言わんばかりのド迫力のパワー・プレイで、結果、過去ナンバーはいつも以上に過剰でダイナミックに、そして最新曲は未だかつてなくダビーでストイック、という、非常にめりはりのあるライヴになったと思う。それにしても凄かったのがライティングだ。加減を知らないと言うかハコのサイズに合っていないというか、「これ、横浜アリーナ・クラスの会場で使うヤツでは?」と言いたくなるほど、明らかに光量もレーザーの飛距離もやりすぎ&豪華すぎなのだ。フルコースの料理を弁当箱に無理やりぎゅうぎゅうと詰め込んだような、とんでもない密度の光が行きかう空間だった。

“God Put A Smile Upon Your Face”のアウトロで「Everybody Ready?!」と3度叫び、歓声がマックスになったところでギターを宙高くブン投げ捨てたクリスも、アコギ片手に“Green Eyes”を素面で歌うフォーク渡り鳥なクリスも、そしてとろけるようなファルセットで桃源郷を描き出す“True Love”のクリスも、その全てが彼らしく、共通するのはそれぞれのモードにおいて常に「全力」であることだろう。そう、コールドプレイの楽曲がアッパー/ダウナー、マキシマム/ミニマムの極に関係なく、全てに必ず聴く者を高揚させるアンフェタミン的効果があるのは、このクリスの常時全力シフトに象徴される、ある意味底抜けの「やりきる」力だ。ガイのアブストラクトに音を置いていくキーボード、ウィルの叩きだす最小限のビートで象られた“True Love”は、『ゴースト・ストーリーズ』のコールドプレイを最も端的に感じられたナンバーでもあった。

そんな“True Love”が終わらぬうちにステージ中央にはティンパニが運び込まれ、そして“True Love”が鳴り止むと同時に間髪入れず始まったのが“Viva La Vida”、そして“Every Teardrop Is A Waterfall”!光と色の饗宴、容赦ないカタルシス!“Viva La Vida”のイントロのコーラスから場内はトップスタートで巻き起こった大合唱が、何度も何度もさざ波のようにリフレインしていく。“Every Teardrop Is A Waterfall”ではステージに投げ込まれた日の丸をクリスが頭上高くでブンブン振り回し、オリンピックのウィニング・ランみたいなことになっている。そしてその白熱の余韻も何もあったもんじゃないタイミングで一気にクールダウンし、始まったのが“Midnight”だ。この落差も凄まじく、ギター・ロック・バンドのフォーマットをほぼ放棄した4人がもう片方の極へとするすると移動していく様に猛烈に興奮させられた。これまでのコールドプレイを象徴するアンセムから、最新のコールドプレイを象徴するナンバーへとバトンを渡して終わった本編ラストの風景に、今回のライヴのコンセプトを観た気がした。
コールドプレイ @ TOKYO DOME CITY HALL
しかし、この日の最大のピークポイントは“Clocks”でも、“Viva La Vida”でも、“Every Teardrop Is A Waterfall”でもなかった。間違いなくアンコールの“A Sky Full Of Stars”だった。膨大に過去のアンセムを持ちつつも最終的に『ゴースト・ストーリーズ』収録の最新ナンバーで勝ててしまう、それがコールドプレイの凄さだし、コールドプレイらしいエモーショナル&過剰なソングライティングと、『ゴースト・ストーリーズ』ならではの新機軸――アヴィーチーを迎えてチャレンジした4つ打ちハウスのアレンジを搭載した、つまり新旧コールドプレイの良いとこ取りのこのナンバーがショウのクライマックスとなった事実は、2014年の彼らの正しさを証明していた。観客総立ちの会場には待ってましたと言わんばかりに紙吹雪がどばどば降り注ぎ、そのあまりの光景に頭がクラクラしてきた。ラストはピアノも、ファルセットも、コーラスも、その全てが優美で美しい“Fix You”で余裕たっぷりのゴール。4人は肩を組み、3度深々とお辞儀をして去っていった。

興奮さめやらぬ頭でぼんやり帰りの電車に揺られながら、「そういや“Yellow”も“In My Place”もやらなかったな」、などと遅ればせながら気づいたが、“Yellow”も“In My Place”もやらなくてまったく問題なく成立する、2014年、『ゴースト・ストーリーズ』のコールドプレイはそういう凄まじい場所へ到達していたのだ。(粉川しの)

セットリスト
M1. Always in My Head
M2. Charlie Brown
M3. Paradise
M4. Magic
M5. Clocks
M6. God Put a Smile Upon Your Face
M7. Green Eyes
M8. Ink
M9. True Love
M10. Viva La Vida
M11. Every Teardrop Is a Waterfall
M12. Midnight
En1. Oceans
En2. A Sky Full of Stars
En3. Fix You
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