スピッツ@日本武道館

all pics by JUNJI NAITO
「昔を振り返って『あの頃はよかったなあ』と思うことがよくあるんですけど。きっと将来、今日のことを思い出して『あの日は最高だったな』と思える夜になったと思います」――アンコールでの草野マサムネ(Vo・G)のMCに、満場の客席から沸く拍手喝采。さらに「初めての武道館をやらせてもらって、今日をまた新たなスタートに繋げていきたいと思います」と続ければ、さらに熱い歓声と拍手が武道館を包み込む……今夏は「ロックのほそ道」(8/31@山形・9/2@仙台)/「新木場サンセット 2014」(9/9・10@新木場)/「ロックロックこんにちは! Ver.18」(9/25・26@大阪)と精力的に活動予定のスピッツが、サマーイベント第一弾としてブチ上げる全10公演のアリーナツアー「SPITZ THE GREAT JAMBOREE 2014 “FESTIVARENA”」の3本目となる日本武道館公演。その輝かしいバンド・キャリアにすれば意外や意外、冒頭のMC通りスピッツ初の武道館ワンマンとなったわけだが……気負わず焦らず、いつも通りのスタンスで珠玉の音空間を生み出していくスピッツの凄さをナチュラルに見せつけた、素晴らしいアクトだった。

1996年から1997年にかけて行った野外ライヴシリーズ「THE GREAT JAMBOREE」の名前を復活させ、さらに「FESTIVARENA」のサブタイトルを冠した本ツアー。まだまだツアー序盤なのでセットリストや演出などの詳細レポートは控えるが、ライヴ定番の「あの曲」や、まさかと思える「この曲」まで、各世代から万遍なくセレクトされた20曲超を披露した充実のアクト。昨年11月から今年5月まで半年以上をかけて通算14枚目のアルバム『小さな生き物』のリリース・ツアーを行ったばかりの彼らだが、それとは違う、夏祭りに相応しい開放的な高揚感と祝祭感が武道館を包み込んでいく。

何より胸躍ったのが、バンドの演奏がすごくアグレッシヴだったこと。序盤から﨑山龍男(Dr)の爆裂ドラムが武道館の天井を突き破らんばかりに轟いて、三輪テツヤ(G)のギター・リフがぶっとい火柱のように噴き上がる。いつもは後半になるにつれて動きが大きくなる田村明浩(B)も、この日は2曲目辺りから頭を振って飛び跳ねての大暴れ。そんなバンドに導かれ、場内のヴォルテージがみるみる上昇していくさまを見て、「ああ、武道館という会場を完全にモノにしているなあ」と思わずにはいられなかった。青空の下で爽快感に満ちたサウンドが無限大に伸びていく光景も、ライヴハウスのような密な場で生々しいサウンドがトグロを巻いていく光景も、スピッツならではの鮮烈さと興奮に満ちている。しかしメンバーの動きもオーディエンス一人一人の動きも肉眼で確認できて、かつアリーナ級の甚大なエネルギーを収められるここ武道館で観るスピッツのステージは、その両端を同時に堪能できるような、驚きと新鮮さに満ちていたからだ。ステージの上下左右から送り込まれるオーディエンスのエネルギーを糧として、スリルとノスタルジーが溶け合うヴィヴィッドな音像が眩い上昇気流を描いていく光景は、もう圧巻の一言。そんな矢先にマサムネが、アリーナ/1階/2階から成る客席の2階部分に向かって「3階の皆さん、元気ですか?」と呼びかけ、「そこ2階だから。武道館に3階はないから!」とテツヤに突っ込まれていたのには笑ったが、そんな脱力の場面すら逆に恐ろしくなるほどの圧勝感が、この日の武道館に満ちていたことは確かである。

そして……さらに驚かされたのが、スピッツをスピッツたらしめている不動のオリジナリティが、この日のライヴでは見事に証明されていたことだ。あらゆる呪縛から解き放たれたかのようにフワリ、フワリと立ち上る、マサムネの歌声とバンド・サウンドの解放感。独特のユーモアと感性に彩られたファンタジックな歌詞世界。キャッチーでありながら一筋縄ではいかない展開を見せる、珠玉のメロディライン……それらを感じるたびに「これぞスピッツだよなあ」と何度も唸ってしまったし、その魅力が新旧の曲に変わらず存在しているということに、スピッツの凄さを改めて痛感させられた。今年7月で結成27周年を迎えたスピッツ。その長いバンド・キャリア自体は決して珍しいことではない。メンバー・チェンジや活動休止などの紆余曲折に見舞われず、長年いい曲を作り続けているバンドは他にもいる。が、バンド初期から変わらぬ武器で真っ向勝負を挑みつつ、一向に色褪せることない瑞々しさと輝きを、その歌と音に託すことができているバンドは、スピッツ以外にいないんじゃないか。“涙がキラリ☆”などの往年の名曲も、“エンドロールには早すぎる”“野生のポルカ”などの最新アルバム収録曲も、生き生きとした躍動感を湛えて鮮烈に鳴り響いているさまを見て、そんなことを考えずにはいられなかった。もちろん、今夏スタートのドラマ『あすなろ三三七拍子』の主題歌に決定し、「-2014mix-」として7月15日からデジタル配信される“愛のことば”も、極彩色のサウンドスケープを描きながらフレッシュに鳴っていた。

その後も、中学時代に保健委員長として全校朝礼に立たせられた苦いエピソードを踏まえながら「人前に立つ仕事だけは就きたくないと思っていたのに、今こうして立っています」と感慨を滲ませたり、「1987年の今ごろにバンドを結成して、今年でスピッツは27歳になりました。ご長寿バンドなんで今日来られた皆さんは長生きすると思います」と笑わせたりと、マサムネのトークも舌好調の中、2時間半のステージを駆け抜けた至福のアクト。「オジサンになって初めて武道館に立てたっていうのも、俺たちなりにイカしているんじゃないかと思います」とライヴ後半で告げられた言葉にも、この日のステージに対する自信の色が満ち満ちていたように思う。今後も「THE GREAT JAMBOREE」は翌日の武道館ワンマンに加え、7/31・8/1にの再びの武道館2DAYSまで計7公演開催。結成27周年を迎えたスピッツが、今年も日本の夏を爽やかに彩ってくれるはずだ。(齋藤美穂)