all pics by RUI HASHIMOTO(SOUND SHOOTER)前を向き続けることは簡単ではない。希望を持ち続けることは簡単ではない。人は簡単に傷付くし、落ち込むし、弱音を吐く。でも「ここでならば笑顔でいられる」とか「ここでならば少しだけ強くなれるような気がする」とか、そういう場所が有るのと無いのとでは、大違いだと思う。THE BACK HORNの「『KYO-MEIワンマンツアー』~暁のファンファーレ~」、ツアーファイナルの地・Zepp Tokyo。そこで鳴っていた音楽こそが、まさにそんな場所になりえるものだったと思う。すべてを出し切るかのような素晴らしく熱量の高い演奏、掲げられる力強い拳、湧き上がる地響きのような声、ステージに向けて送られる無数の熱視線。バンドが良い状態にあることがダイレクトに伝わってきたツアーファイナル。希望を鳴らし、ひたすらに光へと向かうアルバム『暁のファンファーレ』の真価を目撃した。
開演時刻になると風が吹く音の上にダイナミックなメロディが重なるようなSEが流れ始める。少し経って黒を基調とした服装を纏った山田将司(Vo)、菅波栄純(G)、岡峰光舟(B)、松田晋二(Dr)がゆっくり歩きながら登場。沸き上がる歓声のなか、松田の力強いリズムを合図に1曲目のイントロが始まる。激情のイントロを終えるとバンドの音はサッと一気に静まり、スタンドマイクの前に立つ山田が《「旅を始めよう 風さえ寝静まった夜に」》と唄い始める。そう、アルバム『暁のファンファーレ』の1曲目でもある“月光”だ。静と動を繰り返すような演奏を重ねる4人の姿は、ステージ後方からの照明により、フロアからだと逆光でシルエットのみが見える状態だ。2曲目の“シェイク”に入ると、ステージ上が眩しいほどに照らされ、光を浴びた4人のバンド然とした佇まいに圧倒される。身振り手振りを交えながら唄う山田は、血管がブチ切れるんじゃないかと若干心配になるほど真っ赤な顔をしているし、岡峰と菅波もステージ上を所狭しと動く。サビで「オーオッオーオーオー」と大合唱したり、3曲目“涙がこぼれたら”のイントロを聴くなり歓喜の声を上げているオーディエンスを、頷きながら笑顔で眺めているのは松田だ。こうしてノンストップで続けた冒頭3曲で早くも最初の絶頂を迎えてしまう。

「暁のファンファーレ、ツアーファイナルへようこそ! 1人1人の心にファンファーレが鳴り響くようなライヴ、空間を一緒に作っていきましょう!」と松田が宣言すると、轟音が光を見せてくれるような“タソカゲ”、シニカルな歌詞のファンク・ナンバー“コワレモノ”、山田が鳴らすブルースハープや複雑な曲展開が印象的な“エンドレスイマジン”などを演奏。「最高な夜にしようぜ! みんな唄ってくれるか!?」と山田が自らのマイクをフロアへ向けた“ブランクページ”のサビでは「ラララ」の大合唱が起こった。こうしてライヴで体感すると、『暁のファンファーレ』には様々なタイプの曲が収録されていることをさらに強く実感できる。しかし振れ幅が広かろうと、真ん中にあるのはTHE BACK HORNというバンド本体の音だ。山田が声を枯らして唄う歌は聴き手一人ひとりにダイレクトに訴えかける力を持つ。バンドの先頭に立つのは紛れもなくそれだが、どんなに難易度の高いフレーズを弾こうとも菅波/岡峰の音はガッチリと噛み合うし、松田のリズムはバンド全体の主導権を強く握って離さない。だからどんなに熱量が高かろうと、演奏は破綻せず続いていく。その上、臨界点で鳴らされているサウンドをオーディエンスが大音量のシンガロングで後押しするもんだから、天井知らずに密度と温度が上がっていく。こうしてZepp Tokyoは何度も沸点を迎えたのだった。また、この日はインディーズ時代の2ndアルバムに収録されている“甦る陽”が演奏され、会場が歓声&どよめきに包まれる場面もあった。緩急激しい同曲を演奏したあとは、“飛行機雲”や“ホログラフ”など、抒情的なパートをしっとりと、しかし雄大に響かせる。

この日の4日前にツアーで郡山を訪れたからなのか、MCでは「訛り」が話題にあがる。松田が「インディーズ期からお世話になっているライヴハウスの人に『訛りがとれてて寂しい』と言われた」と主張するもののメンバーやオーディエンスに否定されたり、岡峰が「ファイナルでする話じゃねえよ」と笑ったりと和やかなムードだ。ここで松田から今回のアルバムについての話が飛び出す。震災の後に作られた前作『リヴスコール』を経ての、音楽との見つめ合いがバンドにとっての新たなページを開いてくれたこと、『暁のファンファーレ』には「音楽の力で日常をちょっとでも変えられればいい」という願いを込めたものだということ、そして今が最高だと感じているということ。それらを話したあとに「自分たちが音楽に救われたように、音楽が寄り添ってくれたように、みんなにとっても大切なものになってくれればと思います。末永くよろしくお願いします!」と語ると、フロアからは温かい拍手が返ってきたのだった。「アツく燃え上がってこうぜ!」と山田がオーディエンスを煽ると、“バトルイマ”では初っ端から大合唱! さらに“コバルトブルー”から“戦う君よ”まで、山田は何度もフロアへマイクを向け、オーディエンスは大きな声でそれに応え、バンドはアクセルをもう一段階踏み込んだかのような演奏を見せる。そして「みんなから力をもらって俺らはここまで来てます。どうもありがとうございました!」という山田の言葉から始まった“シンメトリー”が祝祭感いっぱいに本編ラストを飾ったのだった。
アンコールを求める拍手に応じて4人がステージへ再登場。「ツアーが終わるのは寂しいけど、ここからまた一緒に行きましょう!」という松田の言葉とともに、この日の公演の模様を収めたライヴDVDの発売と、ファンからの人気も高いプレミアムライヴ「マニアックヘブンVol.8」の開催決定がアナウンスされる(詳細はこちら→
http://ro69.jp/news/detail/105501)。そしてアンコールでは3曲を演奏し、再びフロアを大きく揺らして終了――かと思いきや、2度目のアンコールに応じて再々登場。そこで鳴らされた“シンフォニア”は、今日という日を祝福する讃美歌のように、気高くたくましく響き渡った。
今秋には熊切和嘉監督とタッグを組んだ映画『光の音色-THE BACK HORN Film-』も公開されるTHE BACK HORNだが、来る夏にはROCK IN JAPAN FESTIVAL 2014にも出演。本文にも散々書いてきましたが、今の彼らは凄まじい! ぜひ目撃を。(蜂須賀ちなみ)
■セットリスト
1.月光
2.シェイク
3.涙がこぼれたら
4.タソカゲ
5.コワレモノ
6.白夜
7.エンドレスイマジン
8.舞姫
9.ブランクページ
10.甦る陽
11.飛行機雲
12.ホログラフ
13.バトルイマ
14.コバルトブルー
15.戦う君よ
16.ビリーバーズ
17.シンメトリー
(encore)
18.サナギ
19.幻日
20.無限の荒野
(encore2)
21.シンフォニア