back number@横浜アリーナ

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「ありがとう! すげえな……すげえよ。すげえ嬉しいね。ごめん、のっけからヘラヘラして(笑)」と、万感の想いあふれまくりの表情でソールドアウト満場の横浜アリーナを見渡して語りかける清水依与吏(Vo・G)。「俺たちback numberの人生の中で『初めての横浜アリーナ公演』っていうのは今回しかないから。来てくれてありがとうね。いい1日にしようね。よろしく!」……アルバム『ラブストーリー』収録の“世田谷ラブストーリー”にちなんで、5月14日の群馬・太田市新田文化会館 エアリスホール=「太田ラブストーリー」、5月16日群馬・伊勢崎市文化会館=「伊勢崎ラブストーリー」など、開催場所の地名を公演タイトルに冠して行われてきた全国ツアー「back number love stories tour 2014」。7月25日の東京・NHKホール公演「渋谷ラブストーリー」までのホール・ツアーに続いて、横浜アリーナ2DAYS(9月14日・15日「横浜ラブストーリー2」)&大阪城ホール(9月23日「大阪ラブストーリー2」)の計3公演にわたって開催が決定した追加アリーナ公演のうちの横浜2日目:9月15日。どこまでもメロディアスで情にあふれているback numberの楽曲世界が、その極上の歌とサウンドだけでなく人間くささと体温まで横浜アリーナの隅々にまで、ひとりひとりの心の奥底にまで届けていくような、最高のライヴだった。

まだ追加公演ファイナル:大阪城ホール公演が控えているので、ここではセットリストの掲載は割愛、一部の楽曲に触れるに留めさせていただくが、清水依与吏/小島和也(B・Cho)/栗原寿(Dr)の3人に加えて村田昭(Key)/矢澤壮太(AG・Cho)/藤田顕(G)をサポートに迎えた鉄壁の6人編成でこの晴れ舞台に臨んだback number。“高嶺の花子さん”“fish”“繋いだ手から”といったシングル曲をはじめ『ラブストーリー』の楽曲を軸に据えつつ、過去3枚のフルアルバム『blues』『スーパースター』『あとのまつり』と1stミニアルバム『逃した魚』から名曲の粋を凝縮させたようなアクトだった。

back number@横浜アリーナ
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「いこうぜ横アリ!」という清水のシャウトからアグレッシヴな曲を連射して1万人規模のオーディエンスをいきなりクラップとシンガロング渦巻く歓喜のクライマックスへと導いてみせた序盤の展開。センチメンタルなバラード・ナンバー“fish”で繰り広げた雄大なロック・アンサンブル。《繋いだ手からこぼれ落ちてゆく》というハッとするようなフレーズを至上のコーラスワークとともに響かせた“繋いだ手から”……大切な人との「つながることの難しさ」を、ミクロな感情や心の揺らぎまで含め丹念に掬い上げて歌い上げてきたback numberの音楽のひとつひとつが、実に堂々としたスケール感をもって鳴り渡って、壮大な「つながり」を描き出していく。凛としたメロディとともに歌う“光の街”の《君は知っているのだろうか/こんなにも救われている僕を/こんなにも世界が輝いて見えてる事を》という言葉は、この晴れ舞台を目の前にした清水の感激そのもののような充実感に満ちていたし、「『うちにおいでよ』と言い出せずに終電で彼女を見送ってしまう男の歌」=“世田谷ラブストーリー”に焼きつけられた情感は、あたかも長編映画のようなストーリー性と鮮やかさをもって横浜アリーナ狭しと渦巻いていた。そして、《僕は僕の歌しか歌えないよ だから僕を磨いていくしかないだろう》という“ネタンデルタール人”のエモーショナルなフレーズが、パワフルなバンド・サウンドと一丸となって、この上なく晴れやかなヴァイブとともに広がっていく。

「みんなのおかげで、俺はここに立ててます。ありがとう! みんながいてくれて、back numberっていうバンドができてるなあって実感してます」(小島)、「すげえ楽しいっす! 『楽しい』以外の言葉が見つからないわけではないけど、楽しい!」(栗原)とメンバーそれぞれに喜びと感慨を口にした後で、「お礼をね、ちゃんと言わないとって日々思ってるんだけど、なかなか……」と清水。「まず、産んでもらえなかったら、ここには立てないし。あと、このメンバーに巡り会えなかったら、こういうふうに成長しなかっただろうし。このふたりだから、清水依与吏は清水依与吏になって、ああいう歌詞を書いて、ああいうメロディを書く人間になったんだなあと思うし……いろんな分岐点があったと思うんだけど、『このふたりとじゃないとback numberじゃない』って信じてやってこれてよかったなと思うし。なかなか面と向かっては言えないけど(笑)」と目を潤ませながら真摯に語る清水の言葉に、満場の観客が静かに聞き入っていく。「このサポート・メンバーじゃなかったらこういうライヴはできないし。今の事務所、今のレコード会社じゃなかったら、俺は今でも群馬で左官屋やってると思います。その人生が悪かったわけではないけど……目に見えない、back numberっていうひとつの音楽でつながってる、このすげえ景色を見ると、間違ってなかったなって思います。そういうふうに思わせてくれて、どうもありがとう!」。熱い拍手喝采が巻き起こる。

back number@横浜アリーナ
「最後は笑って終わりたいからさ。準備はいいか横アリ! まだ行けるか横アリ!」という清水のコールとともに、終盤では圧巻のシンガロングとジャンプを呼び起こして横浜アリーナを震わせてみせたback number。「夢中で走ってきたなあって痛感して。憧れだった夏フェスに出られるようになったり、テレビに出たり、ラジオに出たり――まさか『オールナイトニッポン』をやれるとは思ってなかったし、日本武道館のワンマンもあったり……」とアンコールで再び清水が、ここまでの道程を振り返って、時折言葉を詰まらせながら語る。「その瞬間瞬間を、一生懸命、一個一個向き合ってやってるつもりなんだけど、がむしゃらすぎて味わえてない気がして。もったいないじゃない? こんなにいい景色。この2日間、すげえ味わいたいなあと思って、1音1音、大事に――全然余裕なかったけど、なるべく顔を上げてやってきて。でも、もうすぐ終わっちゃう、早いなあと思ったけど……結局、こんなふうにいつも、噛み締めて噛み締めて、ちゃんとやってきたんだなあって。『なんだ、間違ってなかったな』ってすごく思って」……不器用なくらい真っ直ぐに、微塵もブレることなく音楽と向き合い、ひたむきに駆け抜けてきた彼らの日々が、この祝祭感あふれる音楽空間の原動力となっている――ということが、その歌とサウンドから、そして「たぶんこれからも、小さい歌ばっかりかもしれないけど、俺たちなりに、大事に大事に1曲1曲作って、それを持って、また会いにくるから。その時またよろしくね!」という清水の言葉からリアルに伝わってくる、感動的な一夜だった。(高橋智樹)
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