LOUD PARK 14(1日目) @ さいたまスーパーアリーナ

オープニング・アクトの仮面女子に続いて登場したバトル・ビーストは、女性ヴォーカリストのノーラ・ロウヒモを擁するフィンランドの6人組。CDで聴いた時には比較的ポップな印象を受けたが、今回初めて生で見てみたら、もっとずっとラウドなサウンドで、ジューダス・プリースト直系の80's様式美メタルを鳴らしていた。ショルキーをひっさげたメンバーがシンフォニックなフレーズを加味し、曲のパターンもコテコテとは言えばそうなのだが、なんだか妙にしっくりくる。ノーラのヴォーカルも、女声でそのままメタルのハイトーンをなぞりました、というようなものではなく、充分すぎるパワフルさを兼ね備えており、迫力のあるシャウトにも感心させられた。

次のアクトは、もはや「元メガデス」という形容もいらぬほど、ここ日本では人気タレントとしての立ち位置を獲得しているマーティ・フリードマンだ。ただし、ここでのマーティは本業モードとでもいうのか、テレビで見る彼とはまったく違う雰囲気を漂わせており、特にMCがすべて英語だったことには、その意識の有り様が象徴されていたように思う。ニュー・アルバム『インフェルノ』からの曲も含め、求道的なギター・インストゥルメンタル・ナンバーを次々と演奏していき、とどめという感じで彼の愛する日本の楽曲"天城越え"も披露。演歌とJ-POPを心の底から愛するメタル・ギタリストのプレイには、間違いなく他の誰にもないワビサビが宿っている。

ヴァンデンバーグズ・ムーンキングスは、バンド名にも冠されている通り、オランダ人ギタリスト=エイドリアン・ヴァンデンバーグが昨年から始動させた最新プロジェクト。この人は80年代初頭から自らのバンド=ヴァンデンバーグで活動し、最もセールス的に成功した時期のホワイトスネイクにも参加していて、古参のメタル・ファンにとっては重要人物の一人と言える。一般層でも"バーニング・ハート"や"フライデイ・ナイト"などのヒット・ナンバーは耳にした人はたくさんいるはずだ。マーティもそうだが、そうした大物が前半から登場する今回のラインナップは何気に濃いのかもしれない。ムーンキングスの音は、ヴァン・ヘイレン的なカラッとしたアメリカン・ハード路線で、フェス全体のいいアクセントになっていた感じ。終盤には"バーニング・ハート"、さらにはホワイトスネイクの大ヒット曲"ヒア・アイ・ゴー・アゲイン"まで演奏してくれて、ちょっと年齢高めの観客の胸を熱くさせていた。

そして、日本が世界に誇るメタル・サムライ=ラウドネスが5年ぶりにラウドパークに登場。ヴァンデンバーグズ・ムーンキングスがアルティメット・ステージで演奏しているうちから、隣のビッグ・ロック・ステージ前方エリアはすでにラウドネス待ちのファンで埋まっていて、30年を超える真摯なキャリアを通じて築き上げてきた人気の高さ/熱さをあらためて実感する。叩き出す音も現役そのものの生命感に溢れていた。ちなみに、オープニング・アクトを務めた仮面女子のバックでベースをプレイしている渋い中年男性が気になっていたのだが、よく見てみたらラウドネスの山下昌良だった。山下さんはラウドネスのステージでも、ちょこっと仮面をつけてみせたりして、サービス精神を発揮していた。

続くソイルワークは、ここまでの出演者の中でも、とりわけスラッシュ/デス・メタル以降のニュースクール感を持つバンドで、そのせいか登場時の怒号もひときわ大きく、演奏開始と同時にフロアには巨大なサークル・モッシュの渦がぐるぐると2つ発生。アグレッシヴさを際立たせながら、聴きやすいメロディックな要素を打ち出したスタイルの先駆的な存在で、ビョーンのヴォーカルも、ドスの利いた唸り声を使いながらしっかりと歌も聴かせて聴衆を引きつけていく。ただ、この日のステージは、途中でギターが聴こえなくなったりするなど機材トラブルもあり、音響面でのコンディションが今ひとつな印象で残念だった。次回は最高の状態で体験したい。

さて、正直に告白すると完全ノーマークだったアマランスには、この日いちばんビックリさせられたかもしれない。女性1人+男性2人=合計3人のシンガーが登場し、それぞれ完全にタイプの違う歌唱法を交錯させつつ歌いまくる。同じスウェーデン出身で昨年のラウドパークで見たセリオンにも近い路線だが、シアトリカルなイメージを広げたりする様子はなく、もっとポップ感を前に出す方向で勝負しているようだ。特に女性ヴォーカルのエリーゼは、ポニーテールにミニスカートという出で立ちで、マドンナとかともほとんど変わらないようなキャンディ・ポップ系の歌唱スタイル。キャップを被り、到底メタルとは言えない格好のジェイクも朗々と歌い上げている。そこに、ヘンリクが凶暴なグロウリングで割り込んでくる。メタルとしては明らかに異端なパターンだと思うが、すでに人気もかなりあるようで、オーディエンスも非常に盛り上がっていた。楽器隊がドラム、ベース、ギターの3人だけで充分にパワフルな音を出しているのも偉い。ライヴにおいてシンセの音などを同期で鳴らしながら出音の生々しさを保つスキルは、日本のアイドルにロックをやらせたい人達なんかも参考にすべきではないだろうか。

どんどんアッパーな方向で進行してきた会場に、ここで超絶ヘヴィネスの権化であるダウンが一撃をくらわせる。まず大阪公演がキャンセルになったことを詫びて、男らしさを示したフィル・アンセルモは、他のアクトとは一線を画すドープな音の塊をすどーんとアリーナに出現させた。ブラック・サバスなどをルーツとしながらも、ニューオーリンズの地で育まれた、凄まじく"ロー"で"ロウ"なヘヴィ・グルーヴは、この日のアクトの中でも独自の存在感を見せつける。フィルはディスチャージ(※しかもセカンドEP『FIGHT BACK』のもの)、ペッパー・キーナン(ex. コロージョン・オブ・コンフォーミティ)はウィッチファインダー・ジェネラル、そしてベースのパトリック・ブルーダーズ(クロウバー)はGISMのTシャツを着ており、この事実だけで通常のメタルとは違ったものを感じとる者もいただろう。最後は、ラウドネスの高崎晃や他の人間に演奏を任せて、各メンバーがステージ上でリラックスした光景を繰り広げ、一気にくだけたムードになる中、轟音トリップは終了した。2008年のラウドパーク出演時よりよかったと思う。

イベント1日目もクライマックスに向け、80年代中盤から活動を続けてきている大ベテラン=レイジが登場。ドイツ人は真面目なのか、他のアクトがみんな「トキオー!」とオーディエンスに呼びかけていたのに、ピーター"ピーヴィ"ワグナーだけは「サイタマー!」と呼びかけていて感心してしまった(笑)。以前は4ピースだったこともあるが、現在はパワー・トリオの編成になっていて、そのせいか初期モーターヘッド的というか、パンク的なラフな勢いを感じる。ストレートなヴォーカルもメタル以前のロックというイメージで、ここにきて一気に好感度が上がった。"ハイアー・ザン・ザ・スカイ"では「スカイ! スカイ! スカイ!」と大合唱が沸き起こり、こういったアクトが中盤以降に登場して、日本における根強い人気ぶりを確認させてくれるのも、個人的には刺激になる。

ドラゴンフォースも、ダウン同様2008年のラウドパークで見たが、この間にヴォーカルとドラマーのメンバー交替があった。さらさらのロンゲ金髪をなびかせる新シンガーのマーク・ハドソンは、いきなり「コンバンハ、ニホンノミナサン、ボクタチハ、ドラゴンフォース、デス」などと流暢な日本語で挨拶(※2度目のMCはド忘れしてしまったみたいでしたが……)。爆走するブラスト・ビートでブッ飛ばしながら、メロディアスなフレーズを高度な演奏テクニックによって紡ぎ出していくスタイルは健在──というか、メンバーチェンジのためかどうかはわからないが、この日の演奏は、やはり6年前より良く感じられた。イギリスをベースに活動するバンドだが、香港、ウクライナ、フランス、イタリアなどインターナショナルな顔ぶれの構成員で成り立つだけに、当初は時代錯誤にすら感じられたその音楽性は、いよいよ何処にもない個性として確立されたのだという説得力を充分に感じさせた。

そしてヴォーカリストの交替といえば、期せずして当夜のトリを務めることになったアーチ・エネミーだ。前任のアンジェラ・ゴソウは、女だてらに強烈なデス声を聴かせる希有なシンガーとして、バンドの人気を不動のものにしてきたのと同時に、男社会であるメタル・シーンにおいてフィーメール・アーティストとしての立場を大きく変えてきた偉大な人物だ。そんな彼女が今年に入って電撃的に引退を発表、この日は後継者として加入したアリッサ・ホワイト=グラズの本邦初お披露目となる重要な舞台。結論から言うと、アリッサは新女王たる実力と才能を完璧に証明してみせたと言っていいだろう。その圧倒的なヴォーカル・パフォーマンスからは、ついに「女なのに」という言葉が取り払われ、ただもう純粋に「凄い表現者」として屹立している。バンドも、そんな彼女を守り立てるように、時には引っ張られるようにして、素晴らしい演奏を繰り広げていた。

今年のラウドパーク1日目は、ヘッドライナーのマノウォーがキャンセルという事態を受けてアーチ・エネミーがトリとなったのは偶然だが、トップにバトル・ビースト、中間にアマランスと、結果的にタイプのそれぞれ違う女性シンガーが配置されたことで、これからのヘヴィメタルの可能性について(ちょっとアイドルのことも含めたりしながら)考えを巡らせる最適な機会となったように思う。(鈴木喜之)
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