フレデリック@渋谷WWW

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暗転した場内にSEの“パパマーチ”が鳴り響き、するすると開いた幕の向こうにフレデリックの4人が登場。「関西から来ましたフレデリックです。よろしく!」という三原健司(Vo・G)の第一声から“SPAM生活”へ流れた途端、ミステリアスなポップ・ワールドがダイナミックに花開いた――。9月24日にミニアルバム『oddloop』でメジャーデビューした神戸発の4ピース、フレデリックによる初の東名阪ツアー「踊ってない夜が気に入らNIGHTツアー」の初日=渋谷WWW公演。初の東京ワンマンにしてSOLD OUTの超満員、開演前からむせ返るような熱気に包まれたステージの、ドラマティックな幕開けである。

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一曲目の“SPAM生活”から満場のフロアを大きく揺さぶってしまった4人。間髪入れずに突入した“ディスコプール”では、「♪渋谷のプールサイドは」と歌詞をアレンジするサービス精神も覗かせて、オーディエンスの心をガッツリ掴んでいく。なにより魅了されるのは、ダンサブルでクセのあるメロディに、メルヘンチックでストーリーテリングな歌詞が折り重なるシュールな音世界。物悲しさとユーモアのバランスも絶妙で、“秘密のお花畑”“bunca bunca”“ふしだらフラミンゴ”の連打では、さらに一筋縄ではいかないグルーヴを引き回して会場を深い迷宮の中へと誘ってしまった。「あなた達が今まで感じたことない最高の日曜日をお届けしようと思っていますが、渋谷の皆さんいかがでしょうか!?」――大きな身振りを交えながら歌い叫ぶ健司も、フロアの尋常じゃない盛り上がりを前にしてご満悦の様子である。

「ひとりひとり全然違う『気に入らない』が集まっているんやろ? それをひとつにまとめるのが俺らの役割だと思っているからさ。みんなで踊りまくろうと思うのですが、いかがでしょうか?」という三原康司(B・Cho)のMCから、ゆったりとしたリズムの“砂利道”へ。ここからは、「緻密な構築力」と「豊かなイマジネーション」が渾然一体となったアンサンブルの妙が全開になっていく。エフェクターを巧みに操りながら変幻自在のフレージングを繰り出す赤頭隆児(G)。的確なビートと爆発的なドラミングを華麗に織り交ぜながら楽曲の熱量をじわじわと押し上げていくkaz.(Dr)。ソウルフルかつ澄んだ歌声で独特の歌詞世界をヴィヴィッドに表現し切る健司。そしてグルーヴィーなベースラインを這わせながら、双子の片割れ=健司のヴォーカルに息の合ったコーラスで彩りを添えていく康司。それらひとつひとつをじっくり噛みしめられるスローチューンもいいが、いざBPMの速いナンバーになると、より不可思議な中毒性を持った肉感的なグルーヴに昇華されていく。ダブ、ファンク、サイケなどあらゆるダンスミュージックのエッセンスを呑み込んだ“幸せっていう怪物”は、そんな彼らの真髄を物語るように高らかに鳴っていた。

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暗転したステージに椅子が運び込まれ、「むかーし昔……」という健司の朗読劇で幕を開けた後半戦。まずは“ヒツジのうた”をアコースティックセットで奏で、密室的なムードを醸し出していく。が、続くメンバー自己紹介では「あなたの未来を笑顔に変える、三原天使ことヴォーカルの三原健司です!」「夢は渋谷に庭付き一戸建て、ギターの赤頭隆児です!」「(アコギの調べに乗せて)♪三原康司です。ベースもやってます。作詞作曲もやってます。三原康司です♪」と各々のキャラを爆発させてフロアを沸かせる一幕も。「皆さんの熱量で僕らの音楽はどんどん良くなっていきます。これからも宜しくお願いします」とひとり真面目に挨拶したkaz.に対する「顧問の先生みたい」という健司のツッコみも冴えわたり、軽妙なトークが展開されていく。この人懐っこい人柄も彼らの遊び心あふれる音楽性に直結しているのかもしれない――そう思いたくなるような和やかな時間だった。

“ほねのふね”をアコースティックセットで披露した後は、“もう帰る汽船”から再びバンド編成へ。“WARP”“プロレスごっこのフラフープ”と四つ打ちナンバーを畳み掛け、満場のクラップとハイジャンプを導いていく。怒涛の8ビートナンバー“バジルの宴”では、緩急の効いたリズム展開でオーディエンスを翻弄。そして「踊ってない夜が気に入らないヤツは踊れー!」という健司のアジテートから本編ラスト“オドループ”投下! 豪快なダンスビート、クセのあるギターフレーズ、言葉遊びがふんだんな歌詞――とフレデリックらしさ全解放の中毒性溢れるナンバーで沸点へと上り詰め、4人は充実の表情でステージを降りた。

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結成当初のライヴではMCの代わりに紙芝居を披露していたという彼ら。この日のアンコールでも「初心に帰りたい」とステージに運び込まれたのは手作りの紙芝居。「昔々、一人の人魚が深い海に住んでいた時の話です」とスタートした紙芝居から“人魚のはなし”の演奏へと繋げて、楽曲の世界観を重層的に伝えていく。そしてグルーヴィーな旋律がアウトロに達したところでライヴ終了。まるで芝居の終わりのようにステージ左右から幕が閉じる中、「来年の春もまた面白いことを考えています。これからも宜しく!」という健司のラストMCに大きな拍手が送られて、約100分に及んだステージは幕を閉じた。

キャッチーな音楽性、愛すべき人柄、緻密なショーマンシップが伸び伸びと発揮された、堂々たるステージ。初めて彼らのライヴを観た人に向けては「これがフレデリックです!」と伝えるような自己PR的なライヴになっていたと思うし、今後の彼らの可能性をはかる上でも、あらゆる面で伸びしろを感じられるような素晴らしいライヴだった。本ツアーは新潟/仙台での対バンを挟みながら、名古屋/大阪でのワンマンへと続いていく。今後のシーンで台風の目となる可能性を秘めたフレデリック。その確かなポテンシャルを少しでも多くの人に生で体感してほしい。(齋藤美穂)


■セットリスト

01.SPAM生活
02.ディスコプール
03.秘密のお花畑
04.bunca bunca
05.ふしだらフラミンゴ
06.砂利道
07.峠の幽霊
08.うわさのケムリの女の子
09.幸せっていう怪物
10.ヒツジのうた
11.ほねのふね
12.もう帰る汽船
13.WARP
14.プロレスごっこのフラフープ
15.バジルの宴
16.オドループ

(encore)
17.人魚のはなし
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