登場SEに“and Zero”が響き渡る中、Shinya(Dr)、Die(G)、Toshiya(B)、薫(G)が姿を見せ、最後には帽子を被った京(Vo)。ひしゃげたリフと美麗なフレーズの交錯で導かれる本編オープニングは、新作同様“Un deux”だ。《大地を蹴り進め》のコーラス・フレーズが力強く上昇線を描き、オーディエンスの意識をまとめて吸い上げてゆくような感覚に襲われる。続いては、薫の鋭利なリフが空気を劈いてスタートするインダストリアル・グルーヴ“Chain repulsion”。ファルセットからスクリーム、そしてグロウルと、京のめくるめくヴォーカル・ワークが早くも全開になっていった。ストレンジな歌メロの“Cause of fickleness”から“禍夜想”と新作曲がガンガン畳み掛けられ、京はヴェールで頭を覆いはためかせるようにしながら、表現への没入ぶりを加速させる。背景には、油彩タッチの色とりどりの花のアニメーションがサイケデリックに咲き乱れていた。
シングル『SUSTAIN THE UNTRUTH』からアルバム『ARCHE』にかけて、DIR EN GREYは何か天啓でも受けたかのように、混沌とした魂を引き摺りながらも性急な推進力を受け止めさせる楽曲を放つようになった。1stアルバム『GAUZE』ツアーの続編と位置づけられた前回のツアーも影響を与えているのかも知れないが、そんな新作曲群を核にした今回のステージもやはり、ただカオティックなアンサンブルで衝撃をもたらすというよりも、推進力でオーディエンスを巻き込むエネルギーに満ち満ちている。5弦ベースで豊穣な旋律を奏でるToshiyaや、リズムを刻むというよりも歌の呼吸と手を取り合う炸裂音を響かせるようなShinyaのプレイはどこまでも生々しく独創的なのに、バンドとしては不思議と強烈な一体感を醸し出して突き進むのである。どちらかと言えばドラマティックな構造を持つシングル曲“輪郭”や“濤声”といったナンバーでさえ、バンドの推進力によって爆発的な興奮に到達していった。
しかし、絞り出すようなヴォーカルで放たれる“LIE BURIED WITH A VENGEANCE”が瞬く間にアンコールを沸騰させてからも、DIR EN GREYとオーディエンスの推進力はまったく収まらなかった。京が上半身を晒し、股を開いて屈み込む、あの全身全霊のスタイルで咆哮を上げる。「俺が命削って、お前らのこと叫んだらあ!! ついて来れんのか!?」と執拗に煽り続け、マイクで強く左胸を殴りつけながらの“羅刹国”は、ロックのライヴというよりも何か特別なトランス感で会場を包み込んでしまうものだった。辿り着いたのは、縦横無尽に照明が駆け抜ける中での“Revelation of mankind”。京がフロアに背を向ける形でフィニッシュすると、彼一人がステージから立ち去り、薫の7弦ギター・フレーズが熱気を撹拌するように響き渡るインスト“and Zero”(ツアー中、このファイナル以外の公演ではオープニングに披露されていた)で締め括られる。背景に浮かび上がった公演タイトル「BY THE GRACE OF GOD」が、次回ツアー「THE UNSTOPPABLE LIFE」の文字へと移り変わり、喝采を巻き起こしながら、今回のステージは幕を閉じた。(小池宏和)
■セットリスト
[SE:and Zero]
01.Un deux
02.Chain repulsion
03.Cause of fickleness
04.禍夜想
05.Bottom of the death valley
06.輪郭
07.濤声
08.空谷の跫音
09.「欲巣にDREAMBOX」あるいは成熟の理念と冷たい雨
10.鱗
11.暁
12.激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇
13.Sustain the untruth
(encore)
14.LIE BURIED WITH A VENGEANCE
15.AGITATED SCREAMS OF MAGGOTS
16.Beautiful Dirt
17.羅刹国
18.Revelation of mankind
19.and Zero