開演前、ステージ上でまず目を引くのが哺乳瓶(!)の形をした複数の立て型ライティングだ。まさにここ数年の彼女のママ・ライフの中心にあっただろう哺乳瓶をカラフル&ポップなステージ・セットに仕立て上げるのも、自身の日常生活を表現に直反映させるタイプのアーティストであるリリーにとって納得のマナーだと言えるかもしれない。DJのイントロから1曲目の“Sheezus”へ、ステージ袖からスキップするようにリリーが登場する。今日のリリーはスパンコールがまぶしいスタジャン&トレーナー・パンツにインナーはブラトップという、英国版ヤンキーとでも言うべきチャブの定番スタイルをアイロニカルに取り入れた出で立ち。一時期かなり重量級になっていたボディもすっきり痩せて、ヘソ出しがキュートに決まっている。
彼氏のセックスをダメ出ししまくる歌“Not Fair”では、ポンド札だのシャネルバッグだので局部を隠した男性のヌード写真がスクリーンにばんばん映りまくる。マリアッチ風パンク・アレンジも効いていて、2曲目にして早くもアッパーな盛り上がりを記録する。ちなみに前回来日はフル・バンド・セットでのステージだったが、今回はリリーとDJ&キーボードのサポート・メンバーの2人きりというミニマムな編成。ゆえにパフォーマンス自体も凄くカジュアルな印象を受けるし、そのカジュアルな印象は最新作『シーザス』の軽やかさともイコールだ。そして、演奏がミニマム&カジュアルな代わりに、スクリーンの映像がかなりヴィヴィッドに彼女の表現をサポートしていることがわかる。前回はセカンド・アルバム『イッツ・ノット・ミー、イッツ・ユー』の世界観をいかにリアルに、切実に訴えかけるかに注力し、その結果としてのバンド・セットだったわけだが、今回はヴィジュアルも含めてリリー・アレンというアーティストをポップに纏め上げる、そんな意志を感じたステージだった。
ここでいったんインタールードとなり、リリーは肩出しのカラフルなサロペットに衣装替えして再登場する。前半は“LDN”に象徴されるモダンで都市的なナンバーが続いたのに対し、ここからの数曲はどこかリゾートっぽい、リラックスしたチアフルなソウル・エレクトロ・ナンバーが続く。“Smile”はこれぞDJセットの真骨頂と呼ぶべきダブ・ミックスに仕上げられていて最高にかっこいい!が、DJがコレからクライマックス、という直前でアウトロのループを早々に切り上げてしまい「えーっ、もう終わり?」とリリーも苦笑だ。そう、DJセットならでは機動力の高いカジュアルな魅力がある一方で、同時に限界もあった、というのが今日のパフォーマンスの正直な印象だ。
「ハイになっちゃったからヒール脱いでいい?窮屈なんだよねー、これ(笑)」と言ってヒールを脱ぎ捨て、一気に小柄になったリリー。この日のリリーは本当によく笑い、朗らかだ。“Miserable Without Your Love”、“Littlest Things”とメロウなマイナーコードのバラッドを続けて少しクールダウンしたところで、最新作からの“Hard Out Here”がこの日一番の盛り上がりを記録する。「“22”はセカンドの曲ね。この曲を書いた頃は30代の自分?なにそれこわい!って(笑)。想像もつかなかったんだけれど、今はほんと最高だって思えるから」とリリー。セカンド『イッツ・ノット・ミー、イッツ・ユー』は怖いもの知らずの少女だったリリーが初めて自身の人生に怖れと挫折を見出し、それを克服していく、という物語のアルバムだった。あれから6年、アラサーとなり、母となったリリーの現在の充実と言うか、怖れをも肯定した強さ、たくましさが垣間見えた瞬間だった。
1. Sheezus
2. Not Fair
3. LDN
4. As Long as I Got You
5. Who Do You Love?
6. Everyone's At It
7. Close Your Eyes
8. URL Badman
9. Smile
10. Life for Me
11. Miserable Without Your Love
12. Littlest Things
13. Hard Out Here
14. 22
15. L8 CMMR
16. Fuck You
En1. The Fear
En2. Who'd Have Known