オープニングは『フォー』収録の新曲“Clouds”だ。メインステージにポップアップで5人が登場すると、耳をつんざく悲鳴と大歓声が巻き起こる。たまアリのメインステージ横いっぱいに広がるのは4面の立体巨大スクリーン、メインステージから花道が伸び、アリーナの真ん中のセンターステージへと繋がっている。この日の彼らの装いはTシャツやシンプルなシャツで、相変わらず超ドレスダウンした普段着だ。最初におおっ!と思ったのは2曲目の“Steal My Girl”で、花道を歩きながら歌う彼らの歌がめちゃくちゃ上手くなっている!いや、「X Factor」出身だけあってもともと歌える5人なのだけど、ミッドテンポなこのナンバーを、音響がいいとは言い難いたまアリにあっても見事なユニゾンのダイナミクスで聴かせるその様は、素養に加えてテクニックの成長を印象づける。「タダイマトキオー!ボクタチハワン・ダイレクションデス、ゲンキデスカ?」と日本語でハリー。“Little Black Dress”以降の数曲は緩やかなチル系のナンバーが続くのだがこれが素晴らしかった。スクリーンのモノクロ映像と相まってメロウな“Where Do Broken Hearts Go”、ナイルがアコギに持ち替え、4人が花道に思い思いに腰掛け歌う“Ready to Run”、そしてこんな前半で歌ってしまうのが惜しいほどエモーショナルなバラッド“Better Than Words”。
成長と言えば、ヴィジュアル含めてどんどんかっこいい大人の男になっていく5人の成長を見守るのも、ボーイ・バンドを応援し続ける醍醐味だろう。ハリーはいい意味でナルシスティックなショウマンシップに磨きがかかっていて、これまでのキュートな魅力に加えてセクシーなカリスマとしての側面を急成長させている。また、驚いたのがナイルで、グループきっての童顔でキューピー人形みたいな愛らしさだった彼が、今回はほぼプロパーなギタリストとして大活躍、逞しさと微かな渋みすら漂わせている。そんなハリーとナイルの変化に象徴されるショーマンシップとミュージシャンシップの向上、そのふたつが今回のツアーに明らかな影響を与えている。前回ツアーにあったようなファンとのQ&Aコーナーや、凝りに凝った映像のインタールードといった、音楽以外のアミューズメントが削ぎ落とされたこのツアーのオーソドックスな構成は、彼らのその成長なくしては成立しえなかっただろう。
そして1Dのそのオーソドックスなライヴの方向性を決定づけたのが最新作『フォー』の音楽的充実なのだ。さらに言えば、1Dには彼らの音楽的、人間的成長をサポートする素晴らしいファンがいるのが幸運な点だ。黄色い悲鳴の一方で、ここまで完璧に歌詞を覚えて完璧に歌うロイヤルなファンが付いているグループも珍しいし、海外の1Dファンみたいに曲中もむやみやたらに叫び続けない、彼らの歌をしっかり聴こうとする、そういう彼女たち&彼らに支えられて、この日のショウはさらに意義深いものとなったのだ。「次はすごく親密なナンバーだから、皆にも歌って欲しいんだ」とゼインが言って“Little Things”へ。ファンの合唱と共に無数のスマホのカメラライトが瞬き、この日の前半のクライマックスとなった。
いきなり「トイレドコデスカー!?」と叫び出すハリー、意味が分からないがとにかくハリーの日本語のボキャブラリーが飛躍的に増えていることは分かる。そして「みんな、なるべく静かにして、しゃべらないでね。シーッ!」と呼びかけると、マイクを外して生声で「ニッポンダイスキ!」「トキオ、ダイスキ!」と叫ぶ。もちろん場内は大歓声なわけだが、その直後に「ミンナ、チョーカウァイイ!」とハリーが付け加えると大歓声は大悲鳴に取って代わる。本当にハリーの「センターの自覚」と言うか、ショウを引っ張るリーダーシップを強く感じたライヴだ。仲良し横並び5人組な1Dの構造の美観は損なわないまま、時には個人が突出して5人を引っ張っていく、そのメリハリが気持ちいいのだ。
リアムとルイの掛け合い漫才(?)みたいなMCを挟み、「みんな、叫んで!!」というリアムの号令と共に“Alive”へ。ヘヴィ・ギターと畳み掛けるようなピアノの連打のバンド・イントロから始まったこの曲以降、ショウは完全にモード・チェンジしてロックなセクションへと突入していく。こういうロック系のナンバーになるとリアムがクルクル回り出したり、高速ステップを踏み始めたりと、分かりやすく超発奮するのが観ていて面白い。随所でメンバーと小声で打ち合わせしたり、アイコンタクトしたり、かと思ったらふざけ合ったりと、5人のコミュニケーションに常に気を配っているリアムもまた、ハリーとは別の意味で縁の下の力持ち的ムードメイカーだ。
そしてこの日、個人的に最も興奮したのが“Through the Dark”から『フォー』のナンバーの中でも特に新機軸な“Girl Almighty”への流れだった。ケルティック・フォーク的なアレンジが効いた“Through the Dark”と、ザ・ポリスみたいなハイファイ・ポスト・パンク・チューン“Girl Almighty”を、今、世界で最も売れているアイドルが歌い、やりこなすこの様を、ロッキング・オンの読者の人たちにも観て欲しいと切実に思ってしまった。そんな『フォー』のナンバーに影響されてか、過去のナンバーも現在の1Dの力量に足並み揃えてビルドアップされているのが今回のツアーの凄いところだ。本編ラストの“Story of My Life”のゴスペル風アレンジも最高だった。
アンコールは“You & I”でスタート。ナイル、ハリー、リアムがまずは登場して歌い、セカンド・コーラスからルイとゼインが合流する。そうして5人の声のアンサンブルを再びじっくり聴かせたところで“Little White Lies”へ、会場を縦横無尽に交錯するレイザーライトと相まって、いよいよショウはクライマックスに突入する。そして「みんな、『フォー』は楽しんでくれた?次は僕らが『フォー』で一番気に入ってる曲だよ」とのリアムの紹介で“Stockholm Syndrome”が始まる。いやあ、これがほんとにいい曲!重ね重ね、「アイドルだから」と食わず嫌いのそこの貴方にこそ聴いて欲しい!そして「ニッポンダイスキ!ニッポンダイスキ!ニッポンダイスキ!!」と3度叫ぶハリー、ラストはもちろんこの曲“Best Song Ever”だ。今回のツアーがワン・ダイレクションの過去最大の来日にして、過去最高のステージであることを確信できる、そんなたまアリ1日目のフィナーレだった。(粉川しの)
1. Clouds
2. Steal My Girl
3. Little Black Dress
4. Where Do Broken Hearts Go
5. Midnight Memories
6. Kiss You
7. Ready to Run
8. Strong
9. Better Than Words
10. Don't Forget Where You Belong
11. Little Things
12. Night Changes
13. Alive
14. Diana
15. One Thing
16. What Makes You Beautiful
17. Through the Dark
18. Girl Almighty
19. Story of My Life
En1. You & I
En2. Little White Lies
En3. Stockholm Syndrome
En4. Best Song Ever