姿を見せるなり、《例えばこの音》…と告げて木村カエラ自らトラック出しを行うのは、さっそくの“MIETA”だ。「今日は私のデビュー日であり、ツアーファイナルでもあります! みんな、下北沢SHELTERにようこそ!」と大歓声を誘い、フォーキーなエレクトロニカを伸びやかな美声で乗りこなしてゆく。フロア内に反響するMIETAコールは、いかにもライヴハウスのそれといった熱気を孕んでいた。ライヴハウスTOUR 2015「MITAI KIKITAI UTAITAI」のファイナルは、熾烈なチケット争奪戦をかいくぐった猛者200人を迎えての、余りにもスペシャルなステージである。
百戦錬磨のバンドメンバーが加わり、しのっぴこと渡邊忍(G)のイントロリフ一発で嬌声を誘うのは“Magic Music”。シーケンスを挿入してダンサブルに展開する新作曲“sonic manic”へと連なるうちにも、場内の気温がみるみる上昇してゆく。「すげー近くてビックリだね! 目の前だもんねえ! みんなはさあ、強運すぎるよ。200人だよ!?」「でも、私のところには、来れなかった人の声がいっぱい届いてるんだよ。だから私! ワタスィ! 来れなかった人のためにも、最っ高のライヴにするから! この世の終わりかってぐらい、騒いでってください!」と言葉を投げ掛けるのだった。
モチベーションを全解放して向かうのは、勢いに満ちた英語詞が駆け抜ける“c’mon”、カエラ自身もグリーンのスティックを振るってシンバルを打ち鳴らすコズミックロック“Satisfaction”、すこぶるファンなホットロッド・ロックンロールで身体をシェイクする“RUN”といった、『MIETA』の爆走ナンバー固め撃ちである。こんなもんじゃ許さないぞ、とばかりに“BEAT”が追い込みをかけ、「私ね、顔に汗かかないって有名なの。既にベシャベシャ」と楽しそうに語るカエラは、デビュー前にライヴを観に来ていた下北沢SHELTERを思い返し、当時観たバンドの一つがしのっぴのASPARAGUSだったことを伝える。「本人の前でなんだけど、カッコイイ!って思ったの。私もここで歌いたい、と思って。それから11 年。私には本当に大切な日になりました」と告げるのだった。
情感豊かな歌が浮かび上がる“eye”に“Wake up”といった美曲のひとときも素晴らしかったが、「今日は私のデビュー日だから、特別な曲を持ってきました!」と放たれるのは“Level 42”。木村カエラの歌ってこんなに凄いんだ、という、デビュー時の衝撃がフラッシュバックする。バンドメンバーが、あらためて口々に10周年イヤーの締め括りを祝福する(しのっぴは「今日は皆さんも近いけど、僕、一番近くで見てるからね!」と自慢していた)と、カエラ自身もキャリアの新たな季節に触れて「もっと歌いたいって、欲まみれになった。止まっちゃいけないと思ったの。そういうことで、私は妖精になります!」と告げ、“one more”へと向かう。今の彼女の志が、歌詞に強く映えるようだ。
そして本編終盤、シングル曲連打の熱狂は本当にヤバかった。木村カエラとバンドの本気が、このサイズの会場に立ち籠めてしまう。特別な熱を保ったまま、ステージ上もフロアも全員が輝くような笑顔にまみれ、最後は“TODAY IS A NEW DAY”で締め括られる。更にアンコールに応えると、デビュー前に下北沢のスタジオNOAHに通い詰めて制作したという“You know you love me?”が披露される。「ずっとみんなのことを考えて、ずっと最強でいたいの。だから、いつでも会いに来てね! ありがとうって言ってくれて、ありがとう!!」と、完璧にドラマを締め括るのは“happiness!!!”だ。歌い続けるほどに、歌わなければならない理由が増えてゆく。汗に濡れたグリーンの髪が、額にベッタリと張り付いてなお美しい、ロッククイーンの姿があった。(小池宏和)
〈セットリスト〉
01. MIETA
02. Magic Music
03. sonic manic
04. c’mon
05. Satisfaction
06. RUN
07. BEAT
08. eye
09. Wake up
10. Level 42
11. one more
12. 喜怒哀楽 plus 愛
13. TREE CLIMBERS
14. マスタッシュ
15. TODAY IS A NEW DAY
(アンコール)
01. You know you love me?
02. happiness!!!