2CELLOS @ Bunkamura オーチャードホール

2CELLOS @ Bunkamura オーチャードホール - All pics by Masanori DoiAll pics by Masanori Doi
北は札幌から南は福岡まで、2週間以上をかけて日本を回る2CELLOSの今回のツアーは、地方も含めた本日程が全て完売し東京と大阪で追加公演が出て、東京はその追加公演もソールドアウトして再追加公演が決まるという、彼らの日本でのお茶の間レベルでの凄まじい人気を改めて証明するものとなった。最新作『チェロヴァース』を引っさげての1年ぶりのツアーとなった今回の公演は、「イケメン・チェリスト2人組がマイケル・ジャクソンのカヴァーを弾きまくる」という、かつての彼らにあった飛び道具感はもはや皆無で、2CELLOSのスタイルがもはやベーシックとして定着したことを感じさせるものだったのだ。

オープニングはアストル・ピアソラとエンニオ・モリコーネのナンバーを2曲続けてプレイするという、ゆったりエレガントな出だしとなったこの日のショウ。ちなみに彼らは一昨日のサントリーホール公演で日本では初となるクラシック・セットのショウを敢行しており、この冒頭2曲はそんな一昨日の流れを汲むものだったりする。ただし、それ以降のU2の“Where The Streets Have No Name”からコールドプレイの“Viva La Vida”への流れ、前半にバラッド系のナンバーを集め、まずはじっくり座ってオーディエンスに彼らのアンサンブルを堪能させるというセットリストは、昨年のツアーと全く同じだった。

「コンバンワ、トキオ!今回のツアーは東京でたくさんショウをやれて嬉しいよ。昨日はサントリーホールでクラシック・セットをやったんだ。あそこはクラシックの殿堂なんだよね? でも、今日はクラシック・コンサートじゃないからリラックスして! 後でパワフルな曲をやるから叫んで欲しい。みんな、叫べるよね?」とルカ。この「2CELLOSはクラシック・バンドじゃない」発言もまた、彼らのライヴの冒頭におけるお約束的なステートメントだ。そしてマイケル・ジャクソンの“Human Nature”からの“Smooth Criminal”へのスイッチングを号令として一気にチル・アウトから総立ちのロック・ライヴへ急転換していく演出も、ほぼ前回の流れを踏襲したものになっていた。つまり、新作『チェロヴァース』をベースに全く新しいコンセプトを立ち上げたライヴと言うよりも、彼らのライヴの基本フォーマットに『チェロヴァース』の収録曲が組み込まれていたのが、今回のライヴだった。しかし面白かったのは、プレイされる演目にさほどの差はないにもかかわらず、彼らのプレイ自体には前回と比べて大きな差があったことだ。

2CELLOS @ Bunkamura オーチャードホール
その差に最初に気づいたのはミューズの“Resistance”だった。ミューズのナンバーが元来持つ欧州的、クラシック的魅力を増大させるのが2CELLOSのチェロ・カヴァーの基本だが、この日のパフォーマンスではそれを再びミューズのラウド・ロック的魅力へと回帰させていく、両極の力が働いていた。特に顕著だったのがメロディ・ラインを担当することが多いステファンで、チェロをまるでディストーション・ギターのように歪ませ、ノイズをまき散らしていくアウトロは、彼らのライヴで未だかつて味わったことのない新感覚だ。そう、何が違ったって、今回の2CELLOSのパフォーマンスはよりオーセンティックなロック・バンドのそれに近づいていたということだ。ロック・セクション始まりの号令である“Smooth Criminal”なんて、メタルの速弾きソロよろしく全身を使って弾き倒すや、ぴょんと跳ね上がってガッツポーズするステファン。明らかに肉体的にも、思想的にも、彼らがよりニュートラルなロックを嗜好し始めたのを感じる。

腰を据えて黙々と弾きまくるクールなルカに対して、ステファンはショウマンシップの面でも意識改革があったのだろうか、顔芸のレベルでカメラ目線をキメまくり、足を大きく広げた仁王立ちでチェロを構えるその出で立ちはほとんど「イケメン化したジャック・ブラック」状態で、観ていて途中から面白くなってきてしまった。ガンズ・アンド・ローゼズの“Welcome to the Jungle”では弓を口に咥えてチェロの弦とボディをタップしまくり、AC/DCの“Thunderstruck”では床に寝転がってギュワギュワ弾きまくる。

2CELLOS @ Bunkamura オーチャードホール
ドラマーが加わった“Thunderstruck”以降はいよいよロック・バンド化が加速していく。前回は音色が澄み切りすぎて流石にチェロでグランジ・サウンドは無理があると感じたニルヴァーナの“Smells Like Teen Spirit”も、荒々しいフィンガー・ピックと過剰な歪みでもって見事に彼らのものにしてみせていた。AC/DCの“You Shook Me All Night Long”ではルカも負けてはいない。ざっくり喩えるとしたら、ステファンは80年代のメタル・バンド的な、ルカは90年代のオルタナティヴ、ハードコア・バンド的なロック観でチェロと向き合っていて、そんな2人がチェロという異質な楽器を媒介としてぴたりと息を合わせてくる、そういう極めてユニークな表現体になっていたのが今回の2CELLOSだったのだ。ステファンとルカが双子のように一方向に向かって疾走していたかつての彼らと比較すると、2人の個性やエゴがはっきり差別化された上でぶつかり、混じり合い、高め合う今回のプレイは、言うまでもなく「ロック」だった。

2CELLOS @ Bunkamura オーチャードホール
本編ラストのローリング・ストーンズの“Satisfaction”ではオーディエンスの大合唱も生まれ、本編途中から総立ちだった会場はアンコールのAC/DC“Back in Black”でそのクライマックスを迎えた。最後の最後で「クラシックをやるよ」と優美に弾き始めたバッハも、憎い幕切れの演出だった。(粉川しの)

1. Oblivion
2. Gabriel's Oboe
3. Where The Streets Have No Name
4. Viva La Vida
5. The Book of Love
6. Resistance
7. With or Without You
8. Human Nature
9. Smooth Criminal
10. Welcome to the Jungle
11. Thunderstruck
12. Voodoo People
13. Mombasa
14. They Don't Care About Us
15. Smells Like Teen Spirit
16. You Shook Me All Night Long
17. Highway To Hell
18. Satisfaction
En1. The Trooper
En2. Back in Black
En3. Bach Air
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