夏の恒例イベントとなっているオフィスオーガスタの祭典「Augusta Camp」。その17回目となる今年は、山崎まさよしのデビュー20周年を祝福するための特別な構成をもって行われた。山崎が各出演者をゲストとして呼び込み、山崎の楽曲にて共演する第1部。各出演者のステージに山崎が様々な楽器で参加する第2部。そして、山崎ソロによる第3部。この3部構成により、山崎まさよしという音楽家を外から内から、あらゆる観点から改めて眺め、批評し、そして堪能する、非常に贅沢なライヴとなった。
第1部のオープニングは、山崎が横浜の印象やこれまでの20年を振り返る映像から始まった。そして、ギターケースを手にした山崎が登場する。歌い出すのは、“僕はここにいる”。なんともニクい演出である。この挨拶代わりの1曲を終えると、次々と入れ替わりでゲストが招かれていく。ゲストそれぞれによる山崎ナンバーの演奏によって、それぞれから見た山崎まさよしという音楽家の解釈、あるいは、それぞれにとって山崎まさよしがどういった存在であるかが映し出される。初めてコピーした山崎楽曲だという“6月の手紙”を、山崎からの多大な影響を感じさせる素直なスタイルで演奏した浜端ヨウヘイ。自分の世界の一部に“妖精といた夏”を見事に引き込んでみせた長澤知之。“ア・リ・ガ・ト”の原曲の魅力を尊重し丁寧に歌い上げながら、だからこそフォーキーで泥臭い彼本来の歌唱が熱を放った竹原ピストル。西慎嗣と共に登場したCOIL=岡本定義は、岡本がベース、西がドラム、山崎がピアノと凄腕ギタリストが3人揃って誰もギターを弾かないというレアなバンド構成の“花火”で経験値の高さを示した。
秦 基博は“ツバメ”をあえて音数を絞った簡素な伴奏と透き通った歌声により曲の持つ寂寥感を余すことなく引き出すアレンジで本領を発揮。スキマスイッチは、頭に手ぬぐいを巻き、山崎と同じ衣装をまとった常田真太郎(Key)が会場の笑いを誘う。演奏した“セロリ”では常田のピアニカによる、歌からもアコギからも独立したリズムのプレイが輝きを放った。さかいゆうは、跳ねるピアノと熾烈なギターカッティングが粘度の高いグルーヴを叩き出す“Fat Mama”を演奏。そして第1部の最後を飾ったのは、ここまでのゲスト達に杏子、元ちとせ、あらきゆうこを加えたオールスターでの“Let’s form a R&R band”。あらきのドラム、岡本のベース、常田とさかいのピアノ。長澤と山崎のギター。まるで異なる個性を持った一流のプレイヤーたちが、一流であるからこそ何の違和感もなくひとつに溶け込んだバンド演奏の破格のダイナミズムは、第1部を締めくくるのにこの上なく相応しいものだった。
40分の休憩時間を挟み、第2部が始まる。冒頭、杏子が登場し、この第2部について「それぞれのミュージシャンが山崎とやりたいことをやる」時間であると紹介する。その言葉通り、自作曲、カヴァー曲を問わずに、山崎を祝いながらも各々がのびのびとプレイしている様が観ていてとても気持ち良かった。各アクトの特筆すべき点を中心にレポートしていく。
・杏子
山崎はドラムを担った(あらきゆうことのツインドラム)1曲目の長澤知之作曲“ねぇ、もっと”では長澤の轟音ソロがスタジアムロックの如きスケールの音像を描いていく。長澤に代わり、さかいゆうをバンドに入れ、2曲目“Flamingo Rose”では、さかいがグイグイとリズムを引っ張り、ラテン調のダンスナンバーならではのビートを弾けさせた。曲により最適なメンバーを揃え、最高のプレイを引き出す、杏子のバンドマスターとしての地力の高さが良く出たライヴだったと思う。
・さかいゆう
「山さんがよくするカヴァーの中でセッションしたら楽しそうな曲を選んできました」といって演奏したのはスティーヴィー・ワンダーの“Superstition”! 曲間の山崎の超絶ギターソロに対し、あっさりと引けを取らないソロを返してしまったさかいゆうの手腕に圧倒させられた。
・COIL
仲井戸“CHABO”麗市のカヴァー“ホームタウン”では日本語ブルーズの先達へのリスペクト、自身の“バス待ち”ではブルーズのフィーリング、そして、西慎嗣の持ち歌“Sunset Blues”ではブルーズロックのハードさ。岡本定義、西慎嗣、山崎まさよしという3人の達人によって、様々なアングルからブルーズが掘り起こされていく。それぞれがどう楽器を持ち替えても全体像がぶれない演奏力も、見事の一言。
・あらきゆうこ
杏子のカヴァー“Sonnet#9”と自身の“Train run”の2曲で、ドラムではなくヴォーカルとして、しっとりと、在るべき場所に音を置いていくような自然さで歌を紡いだあらき。ここまでのブルーズやソウル、ファンクに根差していた流れをガラッと変える、モダンなポップスが第2部中盤の清涼剤として機能していたように思う。ポストロック的な音響が築かれた“Train run”で、タンバリンを自在に活用して曲世界の構築に貢献した山崎のプレイも素晴らしかった。
・元ちとせ
ピート・シーガーの楽曲に中川五朗が訳詞を付けた“腰まで泥まみれ~Waist Deep in the Big Muddy~”、ビートルズの“We Can Work It Out”とカヴァーを連発。しかしこの人の場合、どんなナンバーであっても、そのあまりに独特なヴォーカリゼーションによって完全に自分の歌にしてしまう。最後に歌った“名前のない鳥”を含め、「元ちとせの3曲、3つの歌唱」をオーディエンスの頭にしっかり刻みつけた。
・長澤知之
1曲のみ、しかもそれが自作曲ではなくビートルズ“Lucy In The Sky With Diamonds”のカヴァーだったのだが、これが歪みに歪ませた時空の中を会場丸ごと飲み込んで彷徨うようなサイケデリアを現出させる、とんでもない出来だった。リズムの軸を支える山崎と、空間を切り裂く長澤の、それぞれのギターの対比も完璧な相性を見せた。
・浜端ヨウヘイ
「僕、山さんがいなかったら音楽をやってなんかいない」という言葉通り、自分の持ち時間に自分の曲を演奏していてもやはり山崎への愛と敬意がほとばしる浜端。山崎の晴れの舞台を飾ろうという意識も人一倍強かったのであろう、192cmという自身の高身長をネタにしたコミカルな“大男のブルース”でも、音楽への感謝が込められたアンセミックな“MUSIC!!”でも、その熱量は胸を打つものがあった。
・秦 基博
2人の弾き語りによる“アイ”では、秦と山崎の極上のハーモニーがめっきり暗くなった会場を包み込む。一転し2人ともエレキに持ち替えた“FaFaFa”では、バンドサウンドが加わったカラフルでアッパーなグルーヴでオーディエンスを揺らしていく。最後は必殺の“ひまわりの約束”。余計な音、アレンジを盛り込まないシンプルな演奏が今の秦の自信を静かに物語っているような、貫禄さえ漂うステージングだった。
・スキマスイッチ
曲が始まった瞬間、一斉にハンドクラップが巻き起こった“ガラナ”。疾走感に満ちたポップスが、改めてオーディエンスに火を点けていく。2曲目はスティングの“Englishman In New York”のカヴァー。真っ直ぐに伸び渡る大橋卓弥(Vo・G)と山崎のそれぞれの美声が絡み合う様が何とも美しい洒脱な演奏だ。山崎への憧れからオフィスオーガスタに入りたいと思ったという2人の喜びが、気合の入ったプレイにしっかり表れていた。
・竹原ピストル
第2部の最後に登場した竹原ピストルは、山崎へしたためた手紙を読み上げ始める。語られたのは、かつて野弧禅としてメジャーデビューした時、状況の変化に戸惑い、親交のあった山崎に「メジャーって何なんでしょうか」と悩み相談したところ、おもむろにギターのコードを鳴らし「これがメジャーセブンじゃ!」と返され、良い意味で開き直ることが出来たというエピソード。トム・ウェイツばりのディープなブルーズアレンジで山崎の“未完成”をカヴァーした最後に、山崎への祝福を込め「メジャーセブン」を鳴らし返した様が微笑ましくも感動的だった。
メインステージでの2回目の休憩に合わせて、サブステージ「BBQステージ」で演奏を始めたのは音の旅crew。「オルタナティヴ・レゲエ」を標榜する4ピースだ。ルーツレゲエを起点としつつ、ダンスホールレゲエとは別の方向、つまりロックやパンクに接近する形で情報量を増したサウンドスタイルで、集まったオーディエンスを揺らした。
第3部は山崎まさよしと、20年間を共に歩んできた中村キタロー(Ba)と江川ゲンタ(Dr)のトリオによるライヴ。“アドレナリン”で勢いよくスタートすると、山崎の声量がさらに一段上がっていて驚かされる。そこからどんどんとアップテンポの曲が畳みかけられる。ギターヒーローとしての山崎の凄味が迸った、ハードドライヴィンな“ガムシャラバタフライ”は特に強烈だった。しかし、絶頂は最後に残されていた。“振り向かない”~“One more time, One more chance”でエモーションの奔流を放った後の、デビュー曲“月明かりに照らされて”である。この20年で山崎が蓄えてきた力が、3人のスリリングな演奏を通して誇らしく提示されたのである。音の緊張感と裏腹の、演奏中の山崎の晴れやかな笑顔がなんとも感動的だった。
最後の最後、「Augusta Camp」恒例のオールスターによるアンコールでは、9月23日にリリースされたばかりの山崎の新曲“21世紀マン”、そのカップリング曲“根無し草ラプソディー2015”、そしてもはやオフィスオーガスタの代名詞とも言える“星のかけらを探しに行こう Again”の3曲が披露された。開演から約7時間が経っているのに、ステージ上の出演者も、ステージ下の我々も、誰もが清々しい笑顔を浮かべている。それは、山崎まさよしという男の、どれだけ感傷的な音楽を鳴らそうと決して湿ることのないカラリとした人間性に拠るところが大きいだろう。誰もが山崎まさよしを祝福すると同時に、山崎まさよしを好きな自分をも祝福する。そんな幸福に包まれた1日だったように思う。(長瀬昇)
●セットリスト
《第1部》
01. 僕はここにいる
02. 六月の手紙(with 浜端ヨウヘイ)
03. 妖精といた夏(with 長澤知之)
04. ア・リ・ガ・ト(with 竹原ピストル)
05. 花火(with COIL)
06. ツバメ(with 秦基博)
07. セロリ(with スキマスイッチ)
08. Fat Mama(with さかいゆう)
09. Let’s Form a R&R band(with ALL CAST)
《第2部》
・杏子
01. ねぇ、もっと
02. Flamingo Rose
・さかいゆう
01. Superstition
02. 僕たちの不確かな前途
03. ジャスミン
・COIL
01. ホームタウン
02. バス待ち
03. Sunset Blues
・あらきゆうこ
01. Sonnet#9
02. Train run
・元ちとせ
01. 腰まで泥まみれ~Waist Deep in the Big Muddy~
02. We Can Work It Out
03. 名前のない鳥
・長澤知之
01. Lucy In The Sky With Diamonds
・浜端ヨウヘイ
01. 大男のブルース
02. MUSIC!!
・秦基博
01. アイ
02. FaFaFa
03. ひまわりの約束
・スキマスイッチ
01. ガラナ
02. Englishman In New York
03. マリンスノウ
・竹原ピストル
01. 未完成
《第3部》
山崎まさよし
01. アドレナリン
02. アレルギーの特効薬
03. 晴男
04. ガムシャラバタフライ
05. パンを焼く
06. ドミノ
07. Flowers
08. 振り向かない
09. One more time, One more chance
10. 月明かりに照らされて
(encore with ALL CAST)
11. 21世紀マン
12. 根無し草のラプソディー2015
13. 星のかけらを探しに行こう Again