キング・クリムゾン @ Bunkamura オーチャードホール

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キング・クリムゾン @ Bunkamura オーチャードホール
当初、東京で4公演、大阪で2公演、名古屋で1公演がスケジュールされていたキング・クリムゾン12年半ぶりのジャパン・ツアーは、多くの公演がソールドアウトしたことを受けて東京で2公演の追加、さらに高松公演も加わり、計10公演のロング・スケジュールとなった。本稿ではその初日の模様をレポートしたい。各公演を楽しみにしている方は以下本文のネタバレに注意して頂きたいのだが、ネタバレどうこうで価値が揺らぐ内容ではない、ということも付記しておきたい。最新型のクリムゾンでありながら、大多数の人々が期待する最高のクリムゾン。アイデアとスキル、そしてサーヴィス精神に裏付けられた、驚嘆と歓喜の連鎖が構成するステージであった。

まず、2013年から続いているバンドの現行ラインナップは総勢7名。エイドリアン・ブリューが抜けた後の、ア・キング・クリムゾン・プロジェクトの面々の延長線上にある。ロバート・フリップ(G・Key)、ジャッコ・ジャクスジク(Vo・G)、メル・コリンズ(Sax・Flute)と、それをサポートしたトニー・レヴィン(Ba・Chapman Stick)、ギャヴィン・ハリソン(Dr・Perc)。そこにお馴染みのパット・マステロット(Dr・Perc)や、新たにビル・リーフリン(Dr・Perc・Key)が加わってトリプル・ドラム編成となった。ステージでは、前線に3人分のドラムセットが組まれている。強力なリズム・セクションに、メル・コリンズのサックス、そして21stセンチュリー・スキッツォイド・バンドで歌っていたジャッコとなれば、やはり初期クリムゾン曲の披露に期待が高まるというものだ。

いよいよ、オーディエンスの喝采に迎え入れられた7人。メルがウォーミングアップ的にフルートの旋律を吹き鳴らし、エキゾチックなパーカッションが繰り出されると、フリップの波のように寄せるギターが響き渡る。そして一気にヘヴィなグルーヴへと展開してゆく“Larks' Tongues in Aspic, part.1”だ。トニーはさっそくチャップマン・スティックで眩暈のするようなフレーズを奏でてゆく。メルのサックスが効いた“Pictures of a City”でのドラム・トリオは、手数で圧倒するというよりもキレとメリハリのあるコンビネーションを伺わせていた。前線中央のビルがストリングス風のシンセ・イントロを奏でると客席が湧き上がり、ここで早くも“Epitaph”を投下だ。ジャッコの狂おしいヴォーカルも堂に入っている。

この後には、新曲群を絡めた怒涛のメドレーへと向かう。フリップの切迫したリフレインから始まる“Radical Action (To Unseat the Hold of Monkey Mind I)”ではドラム・トリオがビートを受け渡すように繋ぎ、トニーもコーラス参加する“Meltdown”ではヴォーカルとサックスの熱いデッドヒートが繰り広げられる。緊迫したムードを保ったまま00年代クリムゾンの“Level Five”までを駆け抜け、何か警鐘を鳴らすようにロックを振り回すバンドの姿に圧倒させられた。一呼吸おいて、ジャッコがアカペラからじっくりと弾き語りする“Peace - An End”までの一連の流れは、クリムゾンによる現在進行形のメッセージのように感じられた。

3人のドラマーが片手に2本ずつのスティックを握り、計12本で打ち鳴らす“The Hell Hounds of Krim”の後には、トニーの力強いベースがグイグイと牽引して幻想的なギターが絡む“The ConstruKction of Light”へ。全体的に、この日はトニーが参加していた80年代~90年代の楽曲は見当たらない選曲なのだが、大きく股を開いてアタック感の強いベースを弾きまくる彼はすこぶるカッコよかった。悲しげな歌メロからスリリングに急展開する“The Letters”の後、パットが美しいハングドラムの音色を奏でる“Banshee Legs Bell Hassle”へ。この曲はギャヴィン作のナンバーだ。

そして、“Easy Money”~“The Talking Drum”~“Larks' Tongues in Aspic, part.2”という『太陽と戦慄』B面のプログレ/ジャズ・ロック・メドレーである。20年前の来日時に買った、すでにヨレヨレの太陽ロングスリーブを着てくれば良かった。今回の編成とスキルを活かすためのリアレンジは随所に施されているけれども、ファンが名曲を共有するためのキモの部分は大切に残してあって、しっかり盛り上がれるところも嬉しい。巻き起こる拍手喝采を、悲鳴とも嬌声ともつかない声に変えるのは“Starless”のイントロ。漆黒の虚空へと放り出されるような、あの中盤のサウンドスケープに息を呑む。ヒートアップしつつ、朱に染まるステージでフィニッシュだ。トニーがカメラを掲げたのを合図に、オーディエンスもバンドの姿を撮影することが許可されていた。

アンコールでは、またもやドラム・トリオが見せ場を作る“Devil Dogs of Tessellation Row”から、鮮やかなフルートの音色が前面に押し出された“The Court of The Crimson King”へと繋ぎ、これは……と場内に立ち込める期待に完璧な形で答えるのが“21st Century Schizoid Man”だ。大ぶりなグルーヴを練り上げ、ジャッコはエフェクトを噛ませたマイクで熱唱し、バンド一丸となって錐揉みするような凄まじいパートへと傾れ込んで行く。そんなときに限ってフリップ先生がヒマそうにしているのもらしくて良かったが、ギャヴィンがドラムセット一式でこの“スキッツォイド・マン”を演奏してしまうようなソロの一幕まで、とにかく素晴らしかった。

場内は当然のスタンディング・オベーションであり、それをステージで長く受け止めながら満足げな表情を浮かべるフリップの姿も印象的であった。バンドもオーディエンスも、「最高のキング・クリムゾンに間に合った」という感慨をピタリと一致させるような、歴史的な一夜になったと思う。日替わりの演奏曲もかなりあるようなので、今後の公演、ちょっとでも興味があって事情が許す方は、絶対に観ておいた方がいいと思う。(小池宏和)

〈セットリスト〉

01. Larks’ Tongues in Aspic, part.1
02. Pictures of a City
03. Epitaph
04. Radical Action (To Unseat the Hold of Monkey Mind I)
05. Meltdown
06. Radical Action (To Unseat the Hold of Monkey Mind II)
07. Level Five
08. Peace - An End
09. The Hell Hounds of Krim
10. The ConstruKction of Light
11. The Letters
12. Banshee Legs Bell Hassle
13. Easy Money
14. The Talking Drum
15. Larks’ Tongues in Aspic, part.2
16. Starless

En1. Devil Dogs of Tessellation Row
En2. The Court of The Crimson King
En3. 21st Century Schizoid Man
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