BRAHMAN/ pic by Tsukasa Miyoshi (Showcase) BRAHMAN活動20周年アニバーサリーのライヴシリーズは、まず、結成直後のライヴの再現というコンセプトで「尽未来際~開闢~」が東京で3公演行われ、続いて全国8公演で多彩な顔ぶれと対バンを繰り広げるツアー「尽未来際~畏友~」が行われた。そして辿り着いたクライマックスは、幕張メッセ2デイズの祭典「尽未来際~尽未来祭~」。初日は、BRAHMANと共に切磋琢磨しパンク/ハードコアシーンの一時代を築いてきた顔ぶれがズラリと揃う、それだけでも胸を焦がすような1日である。
MONGOL800/ pic by Kenji Kubo (Showcase) 土曜日の午前中から、待ち切れんとばかりに多くのオーディエンスが詰めかけた場内。いきなり“あなたに”からスタートして盛大なシンガロングを巻き起こすのは、「結成17年なんですけど、今日はペーペーなんでトップバッターをやらせてもらいます」(上江洲清作/B・Vo)というMONGOL800だ。“小さな恋のうた”では《小さな島の、BRAHMANのもとへー!》と歌詞を変えて歓声を誘い、また安保法案反対デモの映像を用いる“MONSTER GOVERNMENT”や、戦争体験者の声をどうにか歌にしたい、という思いと共に届けられた“himeyuri ~ひめゆりの詩~”が、現在進行形のスピリットを映し出していた。
SCAFULL KING/ pic by Tetsuya Yamakawa (Showcase) メンバー全員、前面が白、背面が黒という2トーンのデザインにBRAHMANの文字をあしらったTシャツを着用しステージに立つのは、SCAFULL KINGである。“BRIGHTEN UP”でメンバー同士が激しいデッドヒートを繰り広げるその賑々しいサウンドは、“WHISTLE”辺りで止まらない祝砲と化し、オーディエンスを飲み込んでゆく。「俺たちみたいに、コンスタントにやってないバンドを呼んでもらって……俺たちだけじゃないですけど(笑)。ツアーやりたくなっちゃったなー」(SYUTA-LOW TAGAMI/Vo・Trumpet)と、9年ぶりのツアーの告知も行った。
BACK DROP BOMB/ pic by Shigeo Kikuchi (Showcase) 既に汗でびしょ濡れのSCAFULL KING・NARI(Sax)や、パーカッションにチャーべ君こと松田岳二をゲストに迎えたBACK DROP BOMB。それにしても、バンド単位でのサウンドの機動力とキレが素晴らしい。“ROAD”でテナーの美声を全開にするTakayoshi Shirakawa(Vo)は「俺たちも20周年で。最近気づいたんすよ、20周年になると続けていくのが楽になる」とマイペースな語り口だったが、その言葉とは裏腹に鍛え上げられたアンサンブルをがっつりと見せつけていた。“CLAP”で立ち上がるツインヴォーカルの掛け合いと轟音の壁も強烈だ。
COCOBAT/ pic by Yasumasa Handa (Showcase) そんなBACK DROP BOMBに感化されたのかどうかは分からないが、サウンドチェック時から凄まじい音像を繰り出していたのはCOCOBATである。メタル色の強いハードコアサウンドが猛スピードで放たれる中、アクロバティックにコンビネーションを決めてゆく4人の姿にゾクゾクさせられる。“GERONIMO”に“COCOBAT CRUNCH”、“CAN’T WAKE UP”とクラシックを連発してゆくのだが、“TSUKIOOKAMI”で姿を見せたのは、何とこの曲を入場テーマにしていた本家・月狼こと格闘家の佐藤ルミナだ。ラストは“GRASSHOPPER”で完璧に締め括られる。
HUSKING BEE/ pic by Tetsuya Yamakawa (Showcase) 続いて登場したのはHUSKING BEE。練り込まれたエモーショナルな旋律を浮かび上がらせる平林一哉(Vo・G)の歌声が序盤から絶好調であり、00年代初頭までの楽曲が多く披露される中、キャリアの道程を窺わせる新曲“A Youth That Grows Old”もプレイ。磯部正文が「BRAHMANに似合うのは、この曲じゃなかろうかと」と告げて“一道のイデア”を捧げるように繰り出し、最後には「よし! 20年の歩みにリスペクトを。そしてBRAHMANのこれからの歩みに期待しているよ」と万感の想いを込めた“WALK”を披露。1曲1曲が、BRAHMANを祝うこの1日の空気に染み渡っていくようだった。
COKEHEAD HIPSTERS/ pic by Yasumasa Handa (Showcase) 一度は歩みを止めたものの、復活を果たして今日に至るバンドがもう一組。COKEHEAD HIPSTERSは、初日後半戦のアッパーなファンタイムを描き出してくれる。「ハイスタが、ハスキンとかシャーベットをレーベルに入れて、僕らも真似してBRAHMANをレーベルに入れたわけですよ」と、歴史的なターニングポイントをさらっと振り返り、SCAFULL KING・NARIやRUDE BONES・SHIO-40(Trumpet)も加わって、笑顔まみれのダンス空間を作り上げてくれた。
SLANG/ pic by Shigeo Kikuchi (Showcase) 驚異の熱量とスキルをもって、ライヴハウスさながらのハードコア絵図を繰り広げたのがSLANGである。“BLACK RAIN”や“何もしないお前に何がわかる 何もしないお前の何が変わる”といったメッセージは、広大なホール空間においても色褪せることなく、鮮烈な響きをもってフロアに刻まれていった。物資支援活動・NBC作戦のために支援物資を持ち寄ってくれたオーディエンスに感謝の思いを伝え、犬猫殺処分廃止を訴える「#END殺処分JAPAN」のハッシュタグを紹介するKO(Vo)は、最後にオーディエンスとゼロ距離で向きあい、フロアにマイクを預けて観客を叫ばせた。
Hi-STANDARD/ pic by Teppei Kishida さあ、ここで場内の期待感を引き受けるのは、Hi-STANDARDだ。難波章浩(Vo・B)が「ノスタルジー上等じゃねえか! 誰かの美しい思い出ならいいじゃねえか! でも今日はそれだけじゃなくて、みんなでグワッと前に出るイメージで行こう!」と呼びかけると、“DEAR MY FRIENDS”が視界いっぱいのオーディエンスをまとめて乗せて高く舞い上がる。「恋するのはいいけど、あれだぞ、おさわりはダメだぞ!」(難波)「おさわりは別料金になります!」(横山健/G)と笑いを誘いながら、“SUMMER OF LOVE”や“CLOSE TO ME”も放たれていった。
難波&横山が勢い余った発言をしようとすると、恒岡章(Dr)がホイッスルを吹き鳴らして注意する一幕も。ナンちゃんは「ノスタルジックな気持ちにもなるけどさ、なんだかんだ、みんな生きてるってことなんだよ」と、健さんやツネ、出演者それぞれの活動を讃え、「今日は純粋に、BRAHMANを祝いに来ました」「ずっと輝いててほしいから。BRAHMANにも、今日出たバンドにも、そしてみんなにも」と告げて披露される“STAY GOLD”が胸を焦がす。新曲制作の話題もポロリと溢れて喝采を浴びた3人は、“BRAND NEW SUNSET”までの全12曲を駆け抜けるのだった。
SUPER STUPID/ pic by Shigeo Kikuchi (Showcase) その直後、ひとりの男がギターを携えて姿を見せる。自身が流布した死亡説により、人々に迷惑をかけたことを深く謝罪するのは、大高ジャッキーである。続けて、COKEHEAD HIPSTERSの佐藤浩(Dr)、そしてLOW IQ 01こと市川昌之(Vo・B)が登場し、なんとSUPER STUPIDのメンバーが揃った。「俺たちなりのスジを通しに来ました。全力でやらせてください」とイッチャンが告げると、あらゆる音楽を自由気ままに行き来する、16年ぶりのステージが繰り広げられる。AIR JAM世代の欠片がまたひとつ埋められるような、感慨深いサプライズだ。
BRAHMAN/ pic by Tsukasa Miyoshi (Showcase) トリを飾るのは、もちろんBRAHMANである。グルーヴを練り上げながらKOHKI(G)がミュートカッティングを刻み、ドレッドヘアを揺らしてTOSHI-LOW(Vo)が歌い出すのは“TONGFARR”。そこから“FOR ONE’S LIFE”に“SEE OFF”とアッパーな展開を見せていった。MAKOTO(B)とROIZI(Dr)も競うようにスクリームを轟かせ、4人を煽り立てるようにフロアからOIコールが沸き上がる。つまり、ベスト盤『尽未来際』のディスク1の曲順が、そのまま再現されているのである。
“BEYOND THE MOUNTAIN”に“DEEP”とエモーションが激しく燃え盛るさまも凄いが、“時の鐘”に“ARRIVAL TIME”と深い詩情を浮かび上がらせる名曲の連打も堪らない。TOSHI-LOWは激しく身を動かしながら歌い続けるのだが、フロアに足を踏み入れることはなかった。KOHKIの美しく饒舌なフレーズが嵐を導くような“THE SAME”でフィニッシュするまで、BRAHMANの音楽だけがひたすらに鳴り響いていた。そういう活動をしてきたのだとでも言うように、途中立ち止まることなく走り続けた。そして、ステージに一人残ったTOSHI-LOWが告げる。
「行動だけが現実だったあの頃……俺は喋らなかった。喋る必要が無かったから。喋る必要が無いくらい、凄いやつらが周りにいたから。20年間、後ろを振り返ったことなんかない。あの頃は良かったなんて、思ったこともない。でも今日、横からステージを見ていて、俺たちが信じた音楽は、俺たちが信じていたあの時代は、すげえいい時代だったんだなって、思いました。妬んだこともあった。拗ねたこともあった。でも今、俺のこの掌に残っているものは、感謝だけです。ありがとうございました」
少し声を震わせながらそう告げ、深く頭を下げて、TOSHI-LOWは去っていった。刺激し合い、時には互いに手を差し伸べ合いながら紡いできた今日を生きる命の物語が、アニバーサリーのステージに見えた気がした。それを見守るオーディエンスの中には、「あの頃」よりもずっと大人になって、新しい命を抱き、あるいは手を引く人も多く目に付いた。命の物語が幾重にも交差する、そんな1日であった。(小池宏和)