メインステージのトップバッターとして登場した、オーディション発の4人組=さらばルバート、空を飛ぶ。まだあったまりきっていない開演直後のフロアを、気合一閃流れ込んだ“クレイジー・スタイル”の鮮烈なキメと赤黒く渦巻く爆音で一気に沸点へと導いて一面のハンドクラップを呼び起こす。「カオティックなロックンロール」ではなく、鋭利な楽曲と切迫したロックンロール&絶唱によって、揺るぎなくロジカルに「カオスそのもの」を描いていく迫力が、たった4曲ながらそのアクトの隅々に満ちあふれていた。「ありがとう! 忘れんなよ!」という白衣イロハ(Vo・G)のコールに、熱い拍手が湧き起こっていた。
01.クレイジー・スタイル
02.赤い涙
03.新曲
04.狂乱の疲労宴
続いてサブステージに現れたのは、マナ(Vo・Key)&カナ(Vo・G)の双子の姉妹とユウキ(B・Cho)、ユナ(Dr・Cho)の4人組「ニュー・エキサイト・オンナバンド(NEO)」ことCHAI。冒頭の“ラップ de NEO”で見せたアンドロイドチックなテクノポップから一転、ハイテンションなディスコファンク“ナンダミン to トータルケア”へ雪崩れ込んでみせる。おもちゃ箱にある道具でアヴァンギャルドな世界を描くような、あるいはガールズポップ版フランク・ザッパのような統制不能なポップ感が、オーディエンスの脳内の「?」を片っ端から「!」に塗り替えていく図が痛快だった。
01.ラップ de NEO
02.ナンダミン to トータルケア
03.二重センター
04.ぎゃらんぶー
05.ヴィレヴァンの
06.ぴーちくぱーちくきゅーちく
一方メインステージには、イベントの4日前にKANA-BOONとのスプリットシングル『talking / ナナヒツジ』をリリースしたばかりのシナリオアートが登場。“ナイトフライング”でいきなり3ピースのバンドアンサンブルの域を超越したようなスケールと輝度のサウンドスケープを展開していく。ハヤシコウスケ(G・Vo・Programming)/ハットリクミコ(Dr・Vo)/ヤマシタタカヒサ(B・Cho)の繰り出す音像の肉体性が、緻密な同期と相俟って、圧巻の純度とエネルギーに満ちた音楽世界を編み上げていく。2012年の「キューン20イヤーズオーディション」で同じくファイナリストに選出されたKANA-BOONを「KANA-BOONが優勝して、すごく腹が立った(笑)」(ハットリ)といじって会場を沸かせてみせるのも、「同じオーディション出身&同レーベルで切磋琢磨する関西バンド」同士という関係性ゆえだろう。
7拍子のリズムがミステリアスに躍動する“ナナヒツジ”、さらに“スペイシー”といったライヴアンセムを惜しげもなく畳み掛けていく3人。「キューンミュージック、不器用な僕らを愛してくれて、本当にありがとうございます。それからKANA-BOON、めっちゃ愛してるよ。もらった分を返せるように……僕らももっともっと、みんなの居場所になれるような良い音楽を作っていきたいんで」(ハヤシ)という言葉とともに響かせた“ワンダーボックスⅡ”が、ひときわ強烈に胸に残った。
01.ナイトフライング
02.アオイコドク
03.ハロウシンパシー
04.ナナヒツジ
05.ホワイトレインコートマン
06.ウォーキングムーン
07.スペイシー
08.ワンダーボックスⅡ
再びサブステージに戻って、サウンドチェックの段階からHi-STANDARD“STAY GOLD”のファニーなカヴァーを披露していたのは、オーディション選出最後の1組=北海道発のCouple。凛とした透明感に満ちたシンセポップから、ハンソンの“MMMBop”的な躍動感がシンセベースのハイブリッドな質感とともに鳴り渡る“Brief Pop”、オリエンタルなエレポップ“きみに言わない”といったカラフルな楽曲まで、momo(Vo)の伸びやかなヴォーカルとギター/キーボードでもって極上のシティポップへと昇華して、フロアの熱気とじっくり響き合っていた。
01.hibimo
02.Brief Pop
03.きみに言わない
04.Hands
05.モノローグ
“DAY×DAY”“ロストジンクス”でいきなりSTUDIO COASTを沸点越えのロック狂騒空間へと叩き込んだBLUE ENCOUNT。さらに、来年1月13日にニューシングルとしてリリースされる新曲――揺るぎないメロディが胸震わせる珠玉のバラード“はじまり”が、ブルエンのさらなる進化を予感させる。が、MCになると一転して「久々にキューン行ったらね、KANA-BOONとシナリオアートが一緒にCD出しやがって、びっくりした。『ああ、大人になってもハブられるんだ!』と思って(笑)」と田邊駿一(Vo・G)が天の邪鬼キャラ全開で後輩バンド(デビューはブルエンの方が後だが)をネタにしつつ、観客をロックの共犯関係へと引きずり込んでみせる。
そんな田邊が、終盤でひときわシリアスな口調で語る。熊本から上京してすぐ、他レーベルでメジャーデビューが決まっていたものの、楽曲のみならず全存在を否定されてその話を蹴ったこと。一生インディーズで行こうと思っていたところへキューンのスタッフが訪ねて来て、いきなりライヴにダメ出しをされたこと。でも、いいライヴや楽曲ができた時は全力で褒めてくれて、デビュー後も一生懸命プロモーションしてくれていること。「俺らのやってる音楽を、俺ら以上に愛してくれる人たちが、このレーベルのチームの人たちでした」「改めて、覚えていてください。キューンミュージックで、自信持って最強の曲を作っています、BLUE ENCOUNTです! よろしくお願いします!」……そんな真っ直ぐな想いとともに叩きつけたラストの“もっと光を”が、熱いシンガロングとともに会場狭しと響き渡った。
01.DAY×DAY
02.ロストジンクス
03.はじまり(新曲)
04.LIVER
05.NEVER ENDING STORY
06.HANDS
07.もっと光を
BLUE ENCOUNTの鬼気迫る熱気を、和やかな高揚感で上書きしていったのが、サブステージ最後のアクト=DJみそしるとMCごはん。「お饅頭作りながらやっていこうと思います!」というおみそはんの言葉通り、舞台後方にはターンテーブルとともに粉やあんこがセッティングされ、“スクランブルエッグ”“ホットパイ”とほっこりヒップホップナンバーを続けざまに歌っていくのと並行して、おまんじゅうシスターズがリアルタイムで饅頭を練り蒸かしていく。“PIZZA”ではフロアがP・I・Z・Z・Aの人文字であふれ、“ジャスタジスイ”でコール&レスポンスを巻き起こした後、完成した饅頭の試食役としてスペシャルゲスト=シナリオアート・ハットリクミコが登場。まさかの「でも私、あんこ嫌いなの!」も飛び出したものの、無事「おいしい!」コールで一同安堵。“あの素晴らしい味をもう一度”の合唱&ハンドウェーブで、トリのKANA-BOONへ心地好い多幸感のバトンをつないでいった。
01.スクランブルエッグ
02.ホットパイ
03.PIZZA
04.おまんじゅう
05.きゅうりのキューちゃん
06.ジャスタジスイ
07.あの素晴らしい味をもう一度
そして、ラストのKANA-BOON。“なんでもねだり”の目映い祝祭感から“ウォーリーヒーロー”の疾走感へ――という序盤の2曲でフロアをでっかく揺さぶり、高らかなシンガロングを巻き起こしていく。谷口鮪(Vo・G)の歌声のアグレッシヴな開放感と、古賀隼斗(G・Cho)のギターのエッジ感、飯田祐馬(B・Cho)&小泉貴裕(Dr)のタイトなビート感が一丸となって、ロックの未来そのものの壮大な音風景を描き出していくのはさすがだ。メンバー全員「/ SLASH /」Tシャツを(古賀のみ黒シャツの上から)着用してこの日の舞台に臨んだ4人。先ほどのブルエン・田邊の言葉を受けて、谷口が「今日はいろんなバンドがキューンへの愛を語ったりしてて。BLUE ENCOUNTの、あのおしゃべりクソ野郎が――先輩ですけども(笑)」とMCで応酬、会場がどっと沸く。
ライヴでの披露は久しぶりとなる“結晶星”に続いては、シナリオアートとのスプリットシングル曲“talking”。インディーズ時代から温めてきたこの曲が、KANA-BOONの「今」のタフなグルーヴ感と一丸となってうごめいて、会場を震わせていく。そんなソリッドなロックンロールモードは“フルドライブ”で極限加速! 11月中盤のフロアが見る見る熱気で満たされていく。「キューンはいいところっていうか、居心地良くて。俺らの担当とも、同級生みたいな感じで話せて、楽しみながらCD作ったりとか、いろいろ考えたりできてて」とレーベルスタッフとの信頼関係を語りつつ、「これからのキューンは、今日出たバンドがおそらく引っ張っていくと思いますので。これからもキューンをよろしくお願いします!」と谷口。“ダイバー”“シルエット”でドラマチック&ダイナミックに本編を締め括った後、ラストは“A.oh!!”でフロア一面ダンス天国に巻き込んで圧巻のフィナーレ!
01.なんでもねだり
02.ウォーリーヒーロー
03.結晶星
04.talking
05.フルドライブ
06.ダイバー
07.シルエット
(encore)
08. A.oh!!
レーベルの新世代を牽引するアーティストの闘志と、オーディションを勝ち抜いた原石の才気と情熱が渾然一体となって渦巻いていた「/ SLASH /」。新たな音楽に出会う喜びそのものの、無上のライヴ空間がそこにはあった。(高橋智樹)