All pics by Naoki Okuda今年の3月に5年越しで制作したファースト『ウィー・アー・キング』をリリースし、これまでビルボード出演やサマーソニック2016参加を果たしてきているキング、3度目の来日。プロモーションやフェスティヴァル参加とも違う、ある意味で本格的な単独公演となるライヴとなったが、その強烈な世界観に存分に浸らせてくれる素晴らしいパフォーマンスに驚かされた。
もともと『The Story』でEPデビューしたキングがファースト・リリースまでなぜ5年もかかったかというと、それだけ時間をかけてひとつずつ曲を練り上げてきたからで、となれば、演目的にこれまでのライブと較べてさほど変わるとは思えなかった。そして、セットの内容はほとんどこれまでの彼女たちのライブとそう変わるものではなかった。しかし、彼女たちの独特な、この世ならぬような音と調べがこれまで以上に押し出されることになってとても大きな感銘を受けた。
オープナーとなったのはキーボードやリズムなどをすべて仕切っているパリス・ストローザーがユーリズミックス的なキーボード・ベースから、まるでエイブラハム・ラボリエルのようなベースラインをキーボードで聴かせてしまう"Mister Chameleon"だったが、そもそもオープナーにはもっとわかりやすい"The Greatest"のような曲を持ってくるのではないかと思っていただけに、ちょっと驚いた。しかも、このスウィングするベースラインと、アンバー・ストローザーのヴォーカルと、アニータ・バイアスのコーラスの絡みが絶妙なものとなっていて、ズレる一歩手前で全員がたゆたっているという驚異のパフォーマンスを披露してくれる。アルバムではこのライブと較べるとかなりかっちりした音の作りになっているわけだが、このパフォーマンスにおける絶妙な緩みがなにか普通ではありえないものを垣間見せてくれるような不思議な情感を呼び起してくれるのだ。
これに続いたのがアルバムの中でも最もキャッチーかもしれないナンバーの"The Greatest"だったが、これが前の曲の流れのまま幽玄なグルーヴと響きを帯びて、とてつもないオーラを漂わせる音になっていて、モハメッド・アリに捧げるというこの曲の真意を初めて体感したという実感を得ることにもなった。アルバムの"The Greatest"はグルーヴ感がとても心地のよい、アリへのオマージュになっているわけだが、今ここで放たれている"The Greatest"のヴァイブはなにやら得も知れぬオーラをまとった曲になっていて、まさにあのアリを思わせる神々しさを感じさせるものになっていたのだ。
中盤では新曲"Runaway"が披露されたが、これもまた順当なキング的名曲で、アニータがリード・ヴォーカルを取るのだが、コーラスでのアニータとアンバーのヴォーカルの伸びと響き合いが、また堪らない恍惚感を呼ぶ曲となっていて素晴らしかった。そして続いたのが究極のキング曲ともいえる"Supernatural"。アルバムではこの曲こそキングの音楽性の不可思議さをなによりも感じさせるのだが、今回のライブではのっけからすべてがこの曲に繋がっていくその世界観に感動したし、それがさらに終盤の"Native Land"では歌とも言葉ともつかない渾然一体となった声と音が繰り広げられていく境地となっていて、とんでもないものを目にしているのだという幸福感に感謝したくなった。
アルバムでは自分たちの重層的な音の世界をできるだけ明解でポップなR&Bとしてリスナーに提示し、ライブではその音楽に息づく得体のしれないものを垣間見せてくれるというキング。プリンスが一押しでバックアップしていたのも無理もない。次回作がまた5年先になろうが、この人たちの行くところは必ず追っていかなければならない。(高見展)