スティーヴン・タイラー@日本武道館

スティーヴン・タイラー@日本武道館
スティーヴン・タイラー@日本武道館
昨年初のソロ・アルバム『サムバディ・フロム・サムウェア』をリリースし、アメリカでソロ・ツアーも行ってきたエアロスミスのスティーヴン・タイラー。アルバムはカントリーの聖地ナッシュビルに移り住んでまで作曲を試みたもので、自他ともにカントリー・アルバムと標榜してきた。しかし実際のところはカントリーを主なインスピレーションとしながらも、スティーヴンのソングライターとしてのさまざまな資質をあますところなく披露するものに、つまりはロックもソウルもファンクも存分に注ぎ込まれた内容になっていた。

そしてその新作を引っ提げたライブは、まさにそんなアルバムの内容とよく響き合う、スティーヴンのさまざまな音楽的な衝動を披露する見事なステージとなった。


会場が暗転してバンドが登場すると演奏はいきなり"Sweet Emotion"から幕を開ける。エアロスミスのライブであれば、トム・ハミルトンのベース・タイムとしてイントロが活用される曲だが、これをいきなりオープナーにもってきたところがとてもスティーヴンらしい。
ハードなヴァースとサイケなコーラスが反復するこの曲はスティーヴンにとって自分の好みをよく表した曲で、自分の曲や好きな曲を自分の采配で聴かせたいということが今回のライブの趣旨であることがよく伝わってきた。


続いてはカントリー演奏に入ったかとみせかけてエアロスミスの"Cryin’"に雪崩れ込むが、この曲がどこまでもカントリー的なバラードであるというのがみそ。
久しぶりに観るスティーヴンはかなり身体も絞ってきていて、身のこなしも軽く、端的にかっこよかった。
このまま新作の楽曲群がくるのかと思いきや、武道館とザ・ビートルズについて語り出し、そのままエアロスミスの"I’m Down"、ザ・ビートルズ"Oh! Darling"、"Come Together"のメドレーへと突入した。

その後は自身の初ソロ・シングルとなった映画『SPACE BATTLESHIPヤマト』の主題曲"LOVE LIVES"を一緒に書き、今回のバンドのギターを務めているマーティ・フレデリクソンを紹介し、コラボレーターとしての仲を説明してから、"LOVE LIVES"をマーティのギターとともにひとくさり披露。そしそれからやはりマーティと書き、00年代に入ってからのエアロスミスの代表曲のひとつになっている"Jaded"に雪崩れ込む展開となった。

実はソングライターやプロデューサーとして売れっ子でもあるマーティはナッシュビルで活動するさまざまなソングライターを招集し、ザ・ラヴィング・メアリ・バンドというバンドを結成しており、スティーヴンのバンドを今回務めているのもそのバンドだ。
もともとソングライター集団なのだが、プレイヤーとしても全員強靭で、しかもドラムとベース、ギターとマルチ・インストゥルメンタルを担当する4人はすべて女子。エアロスミスはもちろん、レッド・ツェッペリンまで完璧にこなしていくそのパフォーマンスは豪快にして痛快そのものだった。


"Jaded"の後は、エアロスミスのナンバーを織り交ぜながら新作の楽曲を次々と披露していく展開になったが、最も聴き応えがあったのはジャニス・ジョプリンのカバーで有名な"Piece of My Heart"、そしてソロ・アルバムのタイトル曲"We’re All Somebody From Somewhere"だった。
特に"We’re All Somebody From Somewhere"はカントリー・ロックとして始まりながらコーラスでファンクへと豹変するのがとてもスティーヴンらしい素晴らしい展開で、そのコーラスでさらにスライ&ザ・ファミリー・ストーンの"Thank You"を放り込んできたところがまた素晴らしかった。
しかも曲のエンディングではビジョン用のカメラに顔をくっつけて「愛をくれえええ!」と雄叫びを上げて暗転するという、とても69歳とは思えないパフォーマンスにどこまでも感動した。


終盤は名曲"Home Tonight"をピアノで披露しつつ、エアロスミス結成前から書いてあった"Dream On"を歌い上げ、本編の締めは最高潮に興奮した"Train Kept A Rollin’"となった。

アンコールではソロ・バージョンでより物語性を強く打ち出した"Janie’s Got a Gun"、新作からカントリーというよりはハードなロック・バラードといえる"Only Heaven"、そしてその後はお決まりの"Walk This Way"となった。その先にさらにツェッペリンの"Whole Lotta Love"を叩きつけてきたことで、こうしてブルースとロックへと回帰していくのかと、ぐうの音も出ないほどの説得力をみせつけた。

今後はエアロスミスとしてヨーロッパ・ツアーに乗り出すため、もうこうしたソロの機会はなかなかないだろうし、貴重なパフォーマンスを目撃できてとてもありがたかった。
(高見展)
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