メジャー・デビュー後の楽曲群に突入するところで、現Seagulloopのキーボード・プレイヤー、津田直彦がステージ上のラインナップに加わる。『ヒロシゲブルー』期の曲は相変わらずパンキッシュでありながら、よりウェルメイドな、厚みを増したサウンドになったということが、そのまま再現されるのだった。“空”ではフロア一面に掌がかざされ、“春風”は終盤の歌メロがオーディエンスに丸投げされてしまう。この頃には既に確固たる支持基盤を獲得していた、ということの証明でもあるだろう。「今日、MC少ないですよね。こうでもしないとやりたい曲が消化できないんですよ」と田中が語り、『ソーダ』期の曲群へと向かう。ここでも田中が語っていたように、“水に似た感情”は当時かなり思い切った新機軸だった。空間系のギター・サウンドの質感や美しい鍵盤の音色が、明らかにそれまでの音と趣を異にしている。この日、スロースターターかと思われていたhozzyの歌は、この辺りで本領を発揮し始めた。“ウズラ”などのスピードや爆音に頼ることのできないポップな曲では、彼の歌メロがしっかり立っているとものすごい安心感がある。いい感じだ。
「(開演前にスクリーンに映し出されていた、過去の藍坊主のビデオ映像を)編集していて驚いたのは、なんつってもhozzyの髪型の変化だよね。俺なんか高校のときからこのまんまだもん」と田中が語ると、ベース・藤森が「俺に言わせりゃ、保育園のときから変わってないよね」とツッコむ。バンド結成以前の長い歴史まで語り出すつもりか。そんな冗談を交えながらも演奏の熱量は更に跳ね上がり、“0”“ジムノペディック”と畳み掛けた『ハナミドリ』期の曲は、通常のライブならハイライトと呼んでも差し支えのない興奮を生み出してくれた。青い苦悩を抱えたまま、藍坊主はパンクに捕われないエキサイティングな青春群像楽団として現在のステージに立っている。『フォレストーン』の曲を経て辿り着いた最新シングル“マザー”は、フォーク調に歌われる優しい言葉とリード・ベースとも呼ぶべき藤森の凄まじいプレイが交錯し、今現在の藍坊主印ロックを誇らしげに、高々と掲げていたようだった。
アンコールに応えて“オセロ”と“スプーン”が披露されたのだが、更なる要求で三たびhozzyが登場。なんと今朝方完成したばかりの新曲を披露してくれるという。メンバーにも聴かせてないという超レアな、hozzy自身も歌詞を読みながらじゃないと歌えないという弾き語りセットだ。そしてその新曲というのが、個人への愛と人類愛のバランスに戸惑い、ジョン・レノンに語りかけるというエピックな大作。弾き語りを逆手に取って目一杯自由に、エモーショナルに歌うhozzyも素晴らしかった。ラストにまたバンドで一曲プレイして本当の幕となったのだが、この新曲によってバンドの歴史を振り返るという趣旨のライブが最終的に未来までをも指し示す、という形を完成させることになった。思い出話の宴ではなくて、新しい毎日へと向かうための表現として、この一本のライブ自体が意味付けられたのである。先に結婚披露宴のスライド・ショーみたい、と書いたけれど、表現者と呼ばれる人種は過去の自分を肯定して曝け出すことが苦手な場合も多い。過去の自分を否定することで新しい地平に到達することが、アートの本質でもあるからだ。だが、藍坊主はクソ真面目に自分たちの辿った道を曝け出し、そしてその先の未来へと矢印を書き込むようなライブをしてみせた。もちろん自身の成長への自負もあるからだろう。だがそれだけではなくて、例えば結婚披露宴のスライド・ショーのように、藍坊主と関わるすべての人との信頼や絆、共に明日へと踏み出す意志を確認するような、そういう印象の濃いステージであった。(小池宏和)
1.プリティパンクミュージック
2.セミのぬけがら
3.未知の道の道
4.夏草
5.鞄の中、心の中
6.サンデーモーニング
7.空
8.春風
9.水に似た感情
10.瞼の裏には
11.ウズラ
12.ロボハートストーリー
13.ハニービースマイル
14.桜の足あと
15.0
16.ジムノペディック
17.ハローグッバイ
18.コイントス
19.空を作りたくなかった
20.言葉の森
21.マザー
アンコール
22.オセロ
23.スプーン
24.(新曲)
24.僕らしさ 君らしさ