ジミー・イート・ワールド @ 恵比寿リキッドルーム

ソールドアウトとなった東京単独公演は、ジミー・イート・ワールドの来日を長らく待ちわびたファンで満員御礼、開演前から大変な熱気に包まれていた。客電が落ち、いよいよ“Bleed American”でドッカーン!とスタート……したのだが、いきなり「あれ?」と感じてしまったのは、ずいぶん音量が控えめだったせい。

しかし、幾つもあるキラー・チューンのうちでもとびきりの1曲に、フロアはお構いなしで大沸騰。
続く2曲目、最新アルバム『インテグリティ・ブルース』収録の“Get Right”以降は徐々にベースの音が押し出されてきて、PAも最終的にはいい感じのバランスにまとまっていった。


気がつけば、舞台上にはアンプの類が見当たらず、各楽器の音は直接入力されているようだ。このセッティングは、おそらくレコードでジム・アドキンスが実践してきたサウンド・プロダクション面のトライアルを、ライブでも形にしたいと考えた結果なのではないだろうか。

他にもそういうことを実感する場面はあり、例えば中盤のジム1人で弾き語りを披露するコーナーなど、何度かアコギに持ち替えた時も、生楽器のサラサラした感触ではなく、強めにエフェクトをかけた音を鳴らしていたのが印象深い。


去年リリースした新作についてのインタビューで、ジムは「進化というものには終わりがない、だから常に挑戦し続けねばならない」ということを強調していた。その気持ちを反映した『インテグリティ・ブルース』は十分な成果をあげた傑作だと断言できるし、そうした姿勢を最新のライブからも感じ取ることができたのは嬉しい限りだ。

逆に6年前のフジロックは、フェス仕様というか、わりとあっさりしていた記憶があって、そこではサポート・メンバーなしの4人体制でやっていたことも関係あるのかもしれない。


今回の公演でキーボードその他を担当したのは、最新アルバムにも参加しているロビン・ヴァイニング。そのヒゲメガネなルックスは、過去にサポートを務めてきたレイチェル・ヘイデンやコートニー・マリー・アンドリュースとはかなり違い、オジさんが1人まぎれ込んでしまったようだ。

だが実際には、9年ぶりだというのにメンバーのたたずまいが相変わらずなために錯覚しているだけで、ショウの終盤、トム・リントンの持ち曲“Blister”前のMCで、ジムが「このバンドやって、もう23年になるよー」と話した通り、彼らも着実に齢を重ねてきている。その地道な成長と深化こそ、ジミー・イート・ワールドが持つ最大の特徴にして偉大なところだ。


それにしても、代表作『ブリード・アメリカン』にポイントを 置きながら、キャリア全体からのナンバーをうまく混ぜこんだセットリストに沿って次々と披露される名曲の数々は、いずれも「いい曲だな〜っ」と、つくづく味わい深い。

やはりここ日本でも、近作をライブで体感してもらう機会がもっと頻繁にあれば、このバンドの存在感はさらに大きくなったはずと、ちょっぴり悔しい気持ちもする。まだまだ他にも生で聴きたい隠れ良曲はたくさんあるし、今からでも毎年のように来て失われた9年をとり戻してほしい。


アンコールは、新作のリード・シングル“ Sure and Certain”、そして“Sweetness”に“The Middle”という必殺コンボで大団円。客電が点いて終了アナウンスが流れてからも、最前に詰めかけた熱心なオーディエンスが「おーおーおおおー」と名残を惜しむ合唱を続ける姿を見て、さらに強くそう思った。(鈴木喜之)

〈SETLIST〉
1. Bleed American
2. Get Right
3. Get It Faster
4. I Will Steal You Back
5. It Matters
6. Lucky Denver Mint
7. Always Be
8. If You Don't, Don't
9. Integrity Blues
10. Hear You Me
11. Big Casino
12. A Praise Chorus
13. The Authority Song
14. You Are Free
15. Futures
16. Blister
17. Work
18. Pain

Encore
19. Sure and Certain
20. Sweetness
21. The Middle