松任谷由実/東京国際フォーラム ホールA

松任谷由実/東京国際フォーラム ホールA - All photo by 菊地英二All photo by 菊地英二
●セットリスト
1. 宇宙図書館
2. あなたに会う旅
3. 影になって
4. AVALON
5. BABYLON
6. 夢の中で〜We are not alone, forever
7. ひこうき雲
8. Midnight Scarecrow
9. リフレインが叫んでる
10. 月までひとっ飛び
11. ルージュの伝言
12. 何もきかないで
13. Smile for me
14. 残火
15. 満月のフォーチュン
16. 破れた恋の繕し方教えます
17. 真夏の夜の夢
18. ダンスのように抱き寄せたい
19. 気づかず過ぎた初恋
20. GREY

(アンコール)
EN1. 星になったふたり
EN2. メドレー

(ダブルアンコール)
DEN1. 青いエアメイル

(トリプルアンコール)
TEN1. 卒業写真



松任谷由実の38作目となるオリジナルアルバム『宇宙図書館』。そのコンセプチュアルなアルバムの世界をライブで表現する「松任谷由実コンサートツアー 宇宙図書館 2016-2017」は、昨年11月からスタートしたもの。全国42都市、全80公演にも及ぶ、自身のキャリアの中でも最長を更新したこのロングツアーが、9月22日、東京国際フォーラム ホールAで千秋楽を迎えた。最新アルバム『宇宙図書館』はもちろん、これまでユーミンが変わらず描いてきたのは「愛」だったということに改めて気づかされたステージだった。この世に生まれ、誰かと出会い、別れ、また出会ったり、あるいは、もう二度と会えなくなったりする中で、目を閉じればその人たちは今も自分の中に生き続けていて、かつて受け取った大切な言葉や愛は、自分の中の図書館にずっと残っている──。そんなメッセージが明確に伝わる感動的で圧倒的に濃密なライブだった。

松任谷由実/東京国際フォーラム ホールA
「『後ろを振り向いてはいけない』という人がいるけれど、それは嘘だと思う。私を私たらしめているもの。それは日々に埋もれて忘れがちなのだけれど、忘れたくない。忘れてはいけない。ときどき心の中の図書館に足を運んで、棚の隅に静かに佇んでいる本のページを、そっと開きたい。」。
これは公式サイトに掲載されている、ユーミン自身が “宇宙図書館”について解説をしたコメント。まさに、この言葉通りのステージだったのだ。ユーミンの楽曲が時間も空間も飛び越えた幻想的な宇宙旅行へと私たちを誘って、それぞれが自分自身の中にある図書館を発見する。そしてその図書館の中で、これまで出会ってきた人や物や知識や様々な感情を思い出しながら、「あの頃」より少し強くなった自分を発見し、また「今」を生きていく──。そんな勇気をもらえたような気がした。

『宇宙図書館』のアルバムジャケットを再現した、ファンタジックな図書館のステージセット。幻想的なサウンドが時空の扉を開くような“宇宙図書館”でライブはスタート。「図書館発、宇宙行き最終便。終着駅は、皆さんが決めてください」というユーミンの言葉を合図に、アコースティックギターの美しいイントロが響くと、同じく最新アルバムから“あなたに会う旅”が始まる。ここからはもう、過去も現在も自在に行き来するノンストップのタイムトラベルの世界へ。美しいシルエットのトレンチコート姿のユーミンが旅の始まりを告げると、ステージ上の図書館は、いつしか大きく開かれて、曲ごとにさまざまな景色を見せ始める。“夢の中で〜We are not alone, forever”では男女のダンサーが、愛する人との出会いやすれ違いをシアトリカルに表現し、ユーミンは《もしも夢の世界で/あなたがちがう人になってても探しだせる》と歌う。約20年前にリリースされたこの曲もまた、いつか出会い、別れてしまった人への愛を綴った歌だ。

松任谷由実/東京国際フォーラム ホールA
中盤にはローズレッドのキュートな50’sドレスに着替えたユーミンが、ロマンチックな古い映画のキスシーンを映すスクリーンとジャジーなサウンドをバックに“月までひとっ飛び”を歌う。その姿の可憐さに、ユーミンは本当に時空を超える魔法が使えるんじゃないかとさえ思う。そして、この衣装に着替えたならきっとあの曲も、と予想したとおり、そのままドラムが8ビートの軽快なリズムを刻んで“ルージュの伝言”へ。弾けるような50’sサウンドにみんな思わず踊りだす。さらに、当時その“ルージュの伝言”のB面に収録されていた“何もきかないで”へと続く。ギターの音色も切ないミドルバラードがノスタルジーをくすぐって、胸が甘く締め付けられるようだった。誰もがその感動をユーミンに伝えたくて、歌い終わった後の拍手がずっとずっと鳴り止まない。ユーミンが「すごいな。東京でこんなの初めてだよ」なんて言うから、ますます拍手は大きくなって歓声も大きくなる。「だってユーミンだもん!」とおどけて飛び跳ねてみせる姿にキュンときてしまった。45年もの間、「ユーミン」であり続けるということに、どれほどの心の強さが必要だっただろう。その度ごとに、彼女の心を照らした誰かの言葉や強い絆があって、それをずっと大切な宝物として自分の図書館に残しているからこそ、『宇宙図書館』はできあがったのだし、今回の超ロングツアーを走りきることもできたのだろう。私たちは今、その誇らしいアーカイブを共有している──。

松任谷由実/東京国際フォーラム ホールA
後半、「会えなくなった人への愛」が綴られた、『宇宙図書館』の中でもとびきりエモーショナルな“残火”を、アラビアの女王のような神々しい衣装を纏ったユーミンが激しく切なく歌い、舞台は黄昏色の異国の景色を映し出していく。ドラマチックな“満月のフォーチュン”、命を燃やし尽くすようなダンスと幻想的なダンサーたちのワイヤーアクションが圧巻の“破れた恋の繕し方教えます”と続いた後、とびきりエキゾチックなサウンドアレンジで演奏された“真夏の夜の夢”には驚いた。オーケストラル・ヒットの強いアタック感をアクセントに、プリミティブなリズムが圧倒的なグルーヴを生む。ラスサビではもともと《カリビアン・ナイト》と歌われるラテン調のこの曲が、《アラビアン・ナイト》と歌詞を変え、この曲自体が時空を旅してしまったかのように幻惑と官能の音像を魅せる。

その余韻を引きずりながらも、またトレンチコート姿に戻ったユーミンが、旅の終わりが近づいたことを知らせるように、図書館の書棚の前に立つ。ゆるやかに現実へと戻っていくみたいに“ダンスのように抱き寄せたい”を歌うと、“気づかず過ぎた初恋”では客席も薄明かりに照らされて、最後はオルゴールが私たちをやさしく眠りから覚ますように“GREY”を静かに歌い、幻想的な宇宙旅行は幕を閉じた。

松任谷由実/東京国際フォーラム ホールA
アンコールでは、『宇宙図書館』から“星になったふたり”を披露。若さゆえに続かなかった青い恋のことを歌った曲が、思い切り2017年のサウンドで描かれる、素晴らしく洗練された4つ打ちのダンスチューン。この革新性こそが、いつまでもユーミンが愛される理由のひとつだ。めちゃめちゃ気持ち良い。そして過去の名曲の贅沢なメドレーへ。“守ってあげたい”、“埠頭を渡る風”、“カンナ8号線”、“DESTINY”など、思わず口ずさんでしまう名曲ばかり。この日はダブルアンコールにも応えて登場し、長いツアーを完走した感慨から、思わず涙を見せたユーミン。「これからもなるべく、時の流れに負けないように走っていきます」と力強く語ると、“青いエアメイル”を歌い上げた。この日は千秋楽ということもあり、約1年に及ぶツアーのステージを共に作り上げてきたスタッフ全員をステージに呼びこみ、「今日セットをバラしてトラックに積み込んだら、またそれぞれの仕事に散っていきます。寂しいけど、みんな元気でね」と労う姿にまた胸が熱くなる。

客電が点いても感動の波は収まらず、アンコールを求める拍手は止むことがなかった。その思いに応え、まさかのトリプルアンコールに登場したユーミン。ピアノ伴奏で歌ってくれた“卒業写真”は、過去と現在とを巡る旅の余韻のようにやさしく響いた。(杉浦美恵)

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