最新アルバム『Defying Gravity』を携え、まさに現在3年ぶりのジャパン・ツアーを開催中のMR.BIG。日本武道館単独公演&大阪追加公演を含め、前回と同じく8都市・トータル9公演に及ぶ規模でのツアーは、ここ日本における彼らへの熱く根強いファンベースをリアルに物語っている。
その中でも最大キャパの会場であり、これまでにも数々の名演を繰り広げてきた武道館でのライブは、その唯一無二の音楽が発揮し続けるダイナミズムと、日本のリスナーとの絆を改めて明快に伝えるものだった。
パーキンソン病により100%のパフォーマンスが困難なパット・トーピー(Dr)に代わり、前回来日と同様マット・スターをサポートドラムに迎えてのライブは、開演早々“Daddy, Brother, Lover, Little Boy”で沸点越えの大歓声とシンガロングを巻き起こしていく。
57歳間近とは思えない熱唱を突き上げつつ、うやうやしく電気ドリルを差し出すエリック・マーティン(Vo)。そのドリルを受け取り、およそギター離れした音色の超絶ソロを響かせていくポール・ギルバート(G)。そして、ベースという楽器の概念を鮮やかに超越した変幻自在なプレイでバンドアンサンブルを痛快にドライブさせていく最年長・64歳のビリー・シーン(B)――。
それこそ激烈テクニカルなメタルでもフュージョンでも、どんな音楽性だって実現可能な才能の持ち主が集まってハードロックど真ん中を切り開き、圧倒的なポピュラリティを獲得してきたバンドの歴史が、続けざまに披露した“American Beauty”“Undertow”といったアグレッシブなMR.BIGアンセムの数々からもくっきりと浮かび上がってくる。
刻一刻と熱く沸き返る会場を見回して「すごく楽しい! でも……何か忘れてない?」と語りかけるエリックの言葉とともに、パットが舞台に登場! 割れんばかりに巻き起こった歓声と拍手が、“Alive And Kickin'”でポールが見せた歯でのソロ激奏でさらに高まっていく。
パットはコーラスパートを歌いながらタンバリンを鳴らし、時にはパーカッションセットを叩き、“Just Take My Heart”1曲のみながらドラムも披露。約2時間半に及ぶアクトのほとんどの楽曲でプレイに参加していた。
デビューからもうすぐ30年に及ぼうとするキャリアの粋を凝縮しきったようなセットリストでこの日の武道館に臨んでいたMR.BIG。“Never Say Never”“CDFF-Lucky This Time”“Mr.Gone”とメドレーで畳み掛けたミディアムスロウのナンバーに続けてひときわ力強く轟いた“Open Your Eyes”や“Forever And Back”など、最新作『Defying Gravity』の楽曲もしっかり盛り込まれていて、今回のセットが「“今”も含めての最新&最強型MR.BIG」であることが十分に窺えた。
“Price You Gotta Pay”でブルースハープを吹くビリーの後ろからエリックが二人羽織風にベースを操ったり、“Around The World”の疾走するビートにポール&ビリーの凄腕ユニゾンタッピングがさらなる加速感を与えていたり……といった瞬間の数々は、解散&再始動も困難も乗り越えて前進するメンバーの連帯感に裏打ちされていて、思わず胸が躍った。
本編後半、アリーナ中央のセンターステージからエリック/ポール/ビリー/パットが(マットはメインステージからドラム参加)キャット・スティーヴンスのカバー“Wild World”から“Promise Her The Moon”、さらに新作曲“Damn I'm In Love Again”までアコースティック編成で演奏、観客が高らかな大合唱で応えてみせたシーンは、バンドの人気を支えてきた日本のファンのエモーションが結晶した名場面だった。ライブ中に幾度も「サイコー!」と呼びかけるエリックのコールが、そんな熱気にさらに拍車をかけていく。
そして終盤、パットのドラマー人生を振り返るアニメーション映像(しかもパットのナレーションつき)が舞台後方のスクリーンに映し出される。子供時代のドラムとの出会い。お金がなくて電気を止められても練習をやめなかった少年時代。どんなすごいドラマーを見ても「自分にもできる!」とあきらめずに腕を磨いたこと。ドラムにおいてもそれ以外においても「決してあきらめない」が彼のモットーであり、その信条をもって現在もパーキンソン病と向き合っていること――。
客席から次から次へとあふれ返る拍手と歓声に、パットの瞳に涙が光る。エリック/ポール/ビリーも、こみ上げる感情を堪えきれない様子だった。そんなムードを自ら振り切るようにパットが「...Let's play!」と呼びかけて流れ込んだのは、名曲“To Be With You”。メンバー同士が、バンドと客席が、お互いかけがえのない「You」へ向けて歌声を響かせていく。どこまでも感動的なひとときだった。
本編ラストは“Colorado Bulldog”から、新作からのナンバー“1992”――“To Be With You”で全米シングルチャートを制した1992年の思い出を綴った楽曲を、昔の映像とともに鳴り渡らせていく。4人+マットのコーラスとともに広がったこの曲は、アメリカのロックファンよりも先にその魅力を支持した日本への福音そのものだった。
アンコールでは5人がパートチェンジ(Vo:パット、Dr:ポール、G:ビリー&マット、B:エリック)、グランド・ファンク・レイルロードの“We're American Band”をパットが熱く歌い上げてみせる姿に、惜しみない拍手喝采が湧き起こった。定位置に戻った5人、最後は新作タイトル曲“Defying Gravity”を(象のバルーンと戯れながら)披露して大団円! 「大事な夜になったよ。We love you all!」と感謝を伝えるビリーの言葉が、最高の余韻とともに胸に残った。ツアーは残すところ仙台/大阪×2/福岡/広島の5本、次回公演は9/29・仙台サンプラザホール!(高橋智樹)
〈SET LIST〉
01.Daddy, Brother, Lover, Little Boy
02.American Beauty
03.Undertow
04.Alive And Kickin'
05.Temperamental
06.Just Take My Heart
07.Take Cover
08.Green-Tinted Sixties Mind
09.Everybody Needs a Little Trouble
10.Price You Gotta Pay
[Guitar Solo(Paul Gilbert)]
[Medley:Never Say Never 〜 CDFF-Lucky This Time 〜 Mr.Gone]
11.Open Your Eyes
12.Forever And Back
13.Wild World 〜 Promise Her The Moon 〜 Damn I'm In Love Again(Acoustic)
14.Rock & Roll Over
15.Around The World
[Bass Solo(Billy Sheehan)]
16.Addicted To That Rush
17.To Be With You
18.Colorado Bulldog
19.1992
(Encore)
En1.We're American Band(Grand Funk Railroadカバー)
En2.Defying Gravity