レキシ/日本武道館

レキシ/日本武道館 - All photo by 田中聖太郎All photo by 田中聖太郎


●セットリスト
1. KATOKU
2. 大奥~ラビリンス~
3. KMTR645
4. 飛脚記念日なぅ (メドレー)
5. SHIKIBU
6. Takeda’ w/ U-zhaan
7. salt & stone w/ U-zhaan
8. 最後の将軍
9. キャッチミー岡っ引きさん
10. アケチノキモチ
11. 憲法セブンティーン
12. 年貢 for you
13. きらきら武士
(アンコール)
EN1. 狩りから稲作へ



レキシ、3度目の武道館公演は「不思議の国の武道館と大きな稲穂の妖精たち」と題され、初の2Days公演となった。その初日である「稲穂の日」(2日目は「キャッツの日」)に足を運んだ。今回に限ったことではないが、あれほど笑って、歌って、文句なしに楽しいと思えるライブはレキシのほかにないと思う。池田貴史はもちろん、サポートするアーティストたちのプレイヤビリティーの高さ、そして改めて言うまでもなく、楽曲が持つグルーヴと細部にまで行きわたるエンターテインメント性があってこその幸福なステージ。何しろ、ほぼ3時間半にわたるショー。なのに、一瞬たりとも飽きることがないなんて、改めてすごいと思う。

レキシ/日本武道館
今回は、「不思議の国の」とタイトルにあるように、端的に言えばタイムスリップ、あるいは、魔法の国のテーマパーク的な世界観が全体のテーマとなっていた。オープニングVTRで、若君(池田貴史)に、父上(いとうせいこう)と母上(みうらじゅん)が、「家督を譲る」と言って、レキシ家の家宝を渡すところから始まる。代々伝わるという「決して開けてはならぬ」と言われるオルゴールを、ひとりでこっそり開けてしまう若君。すると、オルゴールは“KATOKU”のメロディを奏で始め、若君は現代の武道館へとタイムスリップしてしまうという導入。すでにステージではバンドメンバーがスタンバイ。舞台上の巨大なハコから「ここは、そうか! 武道館!」と叫んで池ちゃんが登場すると、客席は大歓声で迎える。
レキシ/日本武道館
“KATOKU”のゆるやかなグルーヴに、満員の客席で一斉に腕が上がる。「拳を高く! もっとダサく!」の声に応え、躊躇なく突き上げられる拳たち。続く“大奥~ラビリンス~”では早くもミラーボールがまわり、ファンキーなディスコサウンドと池ちゃんのファルセットがめちゃめちゃ気持ち良い。元気出せ!遣唐使(渡 和久 from 風味堂)とのハーモニーの素晴らしさに聴き入っていると、さっそくネタ曲がはさみこまれていき、いつの間にかみんなでシンガロングしているという、レキシのライブの真骨頂とも言える展開が早くも繰り出される。

これも今日に始まったことではないのだが、レキシのライブのセットリストは曲数だけを見ると、とても少ない。今回も全14曲ということになっている。しかし、その曲中で数々の脱線を繰り返し、時には1曲が30分以上になることもある。次の“KMTR645”でも、《キュッキュッキュ》とみんなで楽しく歌っていると、いつの間にか別の曲が始まっていたりする。おそらく、このレポートですべてのネタ曲を解説していこうとすると、ライブの脱線そのままに、恐ろしい文字数になってしまうことだろう。

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「あらためまして、みなさん、ケビン・コスナーでーす!」という挨拶に、客席から「ケビ〜ン!」とたくさんの声。すかさず「うるさい!」と一喝するあたり、客席とのやりとりも含めてレキシのライブであることを実感する。そして、「いつも曲少ねえってディスられますから、画期的な方法を見つけました!」と言うものの、何のことはない「メドレー」で曲数を稼ぐというだけのことであった。しかしこのメドレーが出色の出来で、“飛脚記念日なぅ”と題され、“妹子なぅ”、“真田記念日”、“RUN飛脚RUN”を、メドレーというよりもミックスして新たに構築してしまうようなアレンジで聴かせてくれた。「もう何の曲かわからんやろ?」と言う池ちゃんはとても楽しそうだし、ここでも「人の曲やる?」と、アドリブなのか仕込みネタなのかわからないくらい、様々なネタ曲を素早い展開でつなげていく。いつにも増して、対応するバンドメンバーの演奏力が素晴らしすぎる。脱線しまくりの果てに、ちゃんとまた“真田記念日”に戻ってくるのだから思わず唸ってしまった。

レキシ/日本武道館
いつも武道館ライブにはスペシャルゲストが用意されているのだが、この日はついにニセレキシ(U-zhaan)が登場。「さあ来ましたよ! ニセレキシが来たということは?」と言って“Takeda’”が披露されたのだ。「武道館でやることじゃない」と自虐的に言っていた池ちゃんだが、ニセレキシのタブラとレキシのラップが徐々に呼吸を合わせていく様子を笑顔で見守る客席。「意外とうまくいったね。正直、これ何が面白いのかわからなかったけど、今日で“Takeda’”は浄化されたな」と言っていたのも印象的。「せっかくだからもう1曲」と、今度はバンドも一緒に“salt & stone”を。蹴鞠Chang(玉田豊夢)の繰り出すドラムにニセレキシのタブラが重なって、反復しながら上り詰めていくようなリズムがとにかくかっこいい。トライバルなリズムに、健介さん格さん(奥田健介 from NONA REEVES)の炸裂ギターと、池ちゃんのハイパーなキーボードも乗って、御恩と奉公と正人(鈴木正人 from LITTLE CREATURES)のベースは極上のグルーヴを生み出す。TAKE島流し(武嶋 聡)と元妹子(村上 基 from 在日ファンク)のホーン隊の奏でる音もシャープにアグレッシブにビートを後押しする。かっこよすぎてため息が出るほど。レキシ最高。“salt & stone”最強。

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終盤「レキシもおかげさまで10周年を迎えることができました」と語りかけ、「これもひとえに、あなた、あなた、あなた――」と、客席の1人1人を指差しながら、「これを1万回やりたいくらいです。ありがとうございます」と、会場に足を運んだすべての人へ感謝の気持ちを伝えた。そしていよいよ本編ラストは “きらきら武士”。金銀のテープキャノンも飛び出し、コール&レスポンスの声も最高潮に。アウトロでは再びキーボードを弾き倒し、サングラスも吹き飛ぶほどの熱演を見せてくれた。

アンコール前のVTRでは、稲穂の妖精(岡井千聖)と、キャッツの妖精(やついいちろう)が登場し、不思議の国に迷い込んだ若君を「元の世界に帰してあげる」と言う。そして再びステージの巨大なハコが開くと、中から現れたのは、自身も稲穂の妖精に変身した池田貴史。バンドのメンバーも、同じく頭に稲穂が揺れるお揃いの妖精ルックで登場。もちろん“狩りから稲作へ”へとつながる流れだ。でも待って、今日「キャッツ」やってない――。そこに登場したのは、巨大な稲穂の妖精「大稲穂様」(ジャンボマックスみたい、とか言うと年がバレますね)と、先ほどの映像にも登場したキャッツの妖精ことやついいちろう。ひとしきりトークで盛り上げた後に、「高床式」からの「キャッツ」というオーソドックスなスタイルで、完璧な大団円を迎えた。そして若君は「そろそろおうちに帰らなきゃ」と去っていく。「俺が一番楽しかった。ありがとう」という言葉が温かい。とにかく笑いに笑った最高の3時間半だった。稲穂を手に手に地下鉄に乗る人たちの笑顔がまた、それを物語っていた。(杉浦美恵)
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