Nulbarich/新木場STUDIO COAST

Nulbarich/新木場STUDIO COAST - All photo by 山川 哲矢All photo by 山川 哲矢
セカンドアルバム『H.O.T』を携え、3月14日の大阪・なんばHatchからスタートしたワンマンツアー「ain’t on the map yet」。東京での追加公演を含めると全8公演がスケジュールされ、2018年11月2日(金)には初の武道館公演も決定していることが報じられた。新作『H.O.T』の素晴らしさといい、最初にスケジュールされたツアー7公演が瞬く間にソールドアウトしたことといい、Nulbarichは正面から人々の期待に応え、驚くべき勢いで活動を充実させている。

ツアー3公演目にして、みっちりフルハウスで迎えた東京・新木場スタジオコーストの2日目。セットリストは割愛するが、以下のレポートでは幾つか演奏曲に触れるので、今後の各公演を楽しみにしている方は閲覧にご注意を。総勢8名のバンドメンバーが居並び、浮遊感に満ちたシンセサウンドとなびくギターフレーズの中、フロントマンのJQは「ここにいる皆さんのおかげで、『ain’t on the map yet』というツアーが出来ました。本当にありがとうございます」と思いを投げかける。『H.O.T』とそのツアーは、そんなふうに感謝の思いから新しい関係と物語を紡ぐ、Nulbarichの最新フェーズだ。

Nulbarich/新木場STUDIO COAST
ギタリスト×2、キーボード奏者×2、曲によってはベーシストも×2という編成で鳴らされるサウンドは、キャッチーなディスコファンクからアシッドジャズ、ネオソウルと、自在に表情を変えてステージを彩ってゆく。例えば2本のギターはどちらがリードギターということもなく、スリリングに押し引きの見せ場を作りながら高揚感のバトンを繋いでいる。カラフルなシンセ音とジャジーなピアノ、ソウルフルなオルガンが適材適所で編み込まれ、スウィングするウッドベースの脇では語るように雄弁なエレクトリックのリードベースが聴こえていたりもする。メンバーの高度な演奏スキルを背景にした「遊び」の音像が、オーディエンスを際限なく受容するNulbarichの磁場を育んでいるのである。

JQは、そんなふうに人それぞれの生きる道を肯定しながらも、優れたポップソングをデザインすることで、バラバラな人々が一瞬でも同じ方を向く瞬間を作り上げてしまう。“Follow Me”はまさにそんな歌だ。ピンスポを浴びてソウルフルに歌い出したJQが、いつしか視界いっぱいのハンドウェーブの光景を生み出している。

Nulbarich/新木場STUDIO COAST
アップテンポでキャッチーな楽曲の威力もさることながら、ライブ中盤のロングセッションを挟む形で披露された“Handcuffed”や“Supernova”、さらに昨年のEPからも濃厚なグルーヴの楽曲を並べ立てる時間帯は凄かった。あたかもファンカデリックのようにコンビネーションの中で爆発的に展開し荒ぶるギターサウンド、そしてディアンジェロ・アンド・ザ・ヴァンガードのようにズレたリズムをそのまま快感として沁み渡らせる呪術的なヴァイブが、今回のライブの計り知れない高揚感・充実感を担っていたのだ。

ここで興味深いのは、JQが「J-POPをやっている」という意識を持ってNulbarichの濃密な音楽体験をデザインしているということだ。興味のある方はぜひ『ROCKIN’ ON JAPAN』2018年4月号に掲載のインタビュー記事をご一読願いたいのだが、豊かなバックグラウンドを持つ自由な音楽を鳴らしながら、Nulbarichの目指すものは「ポップミュージックでなければならない」、「ポップミュージックであるべき」なのである。

Nulbarich/新木場STUDIO COAST
《With you 思うがままに/thats all I need/離さないで hang on tight》。内に秘めた情熱が見事にダンスドラマ化されたMVを持つ“ain’t on the map yet”では、『H.O.T』というアルバムタイトルに込められたもうひとつの意味《hang on tight》が、目一杯狂おしく弾けていた。そして、優しいメッセージが次第に豪快なコズミックファンクと化し、未知の可能性にタッチさせてくれる“In Your Pocket”の名演である。素晴らしくドラマティックなアレンジが施されていた。

「俺たちは、みんなのためにやっていくって決めてるから。また遊びに来て。彼女作って、子供ができて、そんなんでいいよ。その頃にはシワくちゃかもしれないけど、それでもカッコいいって、言ってください」。ライブ中はほぼ全編で飄々と、ジョークも交えながら語っていたJQ(“Zero Gravity”でギターソロのタイミングに思い切りシンガロングを呼びかけてしまったのはご愛嬌)だが、最後にはそんなふうに告げていた。ユルいところはユルいし、ふざけたりもする。しかしJQの、そしてNulbarichの強靭な芯の部分を見誤ってはいけない。音に触れるほどに、信頼感が増すステージであった。(小池宏和)
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