「尾崎世界観の日 特別篇」2019/日比谷野外大音楽堂

All photo by 冨田味我

●セットリスト
01.自分の事ばかりで情けなくなるよ
02.ヒッカキキズ
03.ボーイズENDガールズ
04.二十九、三十
05.大丈夫
06.イノチミジカシコイセヨオトメ
07.笑えよ乙女(コレサワ
08.燃えるごみの日(尾崎世界観 ✕ コレサワ)
09.あたしを彼女にしたいなら(尾崎世界観 ✕ コレサワ)
10.商店街、手紙、天気予報
11.風邪をひく日
12.百日紅
13.ハロー
14.週刊誌(椎木知仁)
15.一生のお願い(尾崎世界観 ✕ 椎木知仁)
16.優しさの行方(尾崎世界観 ✕ 椎木知仁)
17.さっちゃん
18.タイトル未定
19.exダーリン
20.傷つける


ダボッとしたグレーのTシャツにジーンズ、足元はビーサンというラフな出で立ちでひとりふらっとステージに現れた尾崎世界観が、自分の席に向かおうとしているお客さんに「早く席に着きなさいよ!」と声をかける。そんな普段着過ぎるシーンから幕を開けた「『尾崎世界観の日 特別篇』 2019」。そんなユルさ、もとい、リラックスした雰囲気が、この日のライブを通して日比谷野外大音楽堂を覆っていた。

「尾崎世界観の日」は尾崎自身が共演したい人を呼んで行うイベント。「特別篇」は2017年に上野恩賜公園野外ステージで開催されて以来となる。そのときはお笑い芸人や浪曲師、それにクリープハイプのベーシストである長谷川カオナシが登場して盛り上がった。出演者は当日まで明かされないので、どうなるのかと思っていたら、なんと今回はワンマン。自分のペースでギターをかき鳴らし、“自分の事ばかりで情けなくなるよ”を歌い始める。尾崎の弾き語りはいつもそうだが、ともすればクリープハイプ以上にクリープハイプっぽいところがいい。まずは曲があって、それを歌う尾崎世界観という人がいて、そこにメンバーが集まってきて――というクリープハイプの成り立ちを、彼がひとりで歌う曲たちは改めて思い起こさせてくれる。“ボーイズENDガールズ”では「痰が絡んだ」そうでときおり咳き込んだりもしたが、それもなんだか生々しくていい。

ワンマンとはいえ、「ずっとひとりでやり続けるのも寂しいので」(尾崎)ということでこの日はふたりのゲストが登場。まずはコレサワ。あまり他の人のライブに行かない尾崎がよくライブに行っているというアーティストだ。まずは1曲、コレサワが自身の曲“笑えよ乙女”を歌う。直前に演奏されていた“イノチミジカシコイセヨオトメ”とのリンクも粋だ。続いてふたりでクリープハイプの“燃えるごみの日”とコレサワの“あたしを彼女にしたいなら”を披露。コレサワがピアニカを演奏してふたりで美しいハーモニーを響かせた“燃えるごみの日”もよかったが、尾崎がタンバリンを叩いてコーラスをつけるという珍しい光景が見られた“あたしを〜”が最高だった。尾崎がこういうふうに、自分の声を道具として使いこなしているのを見るのは初めてかもしれない。


その後、“商店街、手紙、天気予報”、“風邪をひく日”とレアな曲を連発し(“商店街〜”はCD未収録、“風邪をひく日”は尾崎がつくった雑誌『SHABEL』の付録CDに中嶋イッキュウとのデュエットで収録)、さらにYUKIに提供した“百日紅”、SMAPに提供した“ハロー”とセルフカバーを立て続けに披露したあと、もうひとりのゲストが呼び込まれた。予定より1曲早かったので準備ができておらず、慌てて登場したのはMy Hair is Badの椎木知仁。椎木によるクリープハイプ“週刊誌”のカバーに続き、ふたりでクリープハイプの“一生のお願い”とマイヘアの“優しさの行方”を演奏。コードをミスったりして若干とっちらかりながらも、お互いのリスペクトが感じられるセッションを繰り広げた。「あれなんだって、関係性がいいとされてるんだって。たいして近くもないんだけど」という尾崎の言葉に「近くもないことないでしょ。これ以上近づくんだったらキスしかない」と応える椎木。何をいちゃついてるんだと思うが、そういうときの尾崎は心底楽しそうである。


椎木が去り、いよいよ終盤。“さっちゃん”とまたしても古い曲を披露すると、尾崎は「同じような曲ばっかりでしょう。でも、これしかないしな」と言った。昔、メンバーがいなくなった時期にひとりで作り歌っていた曲を、現メンバーで10年という節目を迎えるタイミングでまたひとりで歌うことができるという喜び。「こうやってひとりで舞台に立って過去の自分と向き合う時間というのは、すごく大切な時間でした」という言葉が、今年このイベントを開催した意味を物語っていた。であればこそ、尾崎が終始楽しげで優しげだったのもわかる気がする。最後に“exダーリン”と“傷つける”を披露して、深々とお辞儀をした尾崎。「あんまり言うことはないね。ちゃんと出せた気がする」と話すその表情はとても満足げに見えた。(小川智宏)