スキマスイッチ/NHKホール

スキマスイッチ/NHKホール - Photo by ATSUKIIWASA   岩佐 篤樹Photo by ATSUKIIWASA 岩佐 篤樹
※以下のテキストでは、演奏曲のタイトル及びセットリストを表記しています。ご了承の上、お読みください。

現在「スキマスイッチTOUR 2019-2020 POPMAN'S CARNIVAL vol.2」を開催中のスキマスイッチ。このツアーは2016年に開催されたツアー「POPMAN’S CARNIVAL」の第2弾にあたる位置づけだ。「POPMAN’S CARNIVAL」は、「新しい作品がなくてもライブがやりたいときにできるツアー」というコンセプトで立ち上げられたもの。新作のリリースに伴って行われるレコ発ツアーとは違い、選曲における制限がないため、大橋卓弥(Vo・G・Harmonica)と常田真太郎(Piano・Cho)が2人で話し合い、その時やりたい曲を演奏しているそうだ。そのため、普段のライブではなかなか披露されないレア曲も多い。

「POPMAN'S CARNIVAL」シリーズの大きな特徴は、リアレンジ曲が多いこと。スキマスイッチは元々ライブアレンジが大胆なタイプのアーティストだが、今回のツアーではその傾向が特に強い。例えば、“小さな手”は原曲がボーカル+ピアノの二重奏によるバラードであるのに対し、この日はネオソウル調のアレンジ。ベースとドラムのセッションから始まる“キレイだ”は、ギターのカッティングが鳴った時に初めてこの曲だと気づいた人も多い様子だった。“スフィアの羽根”も南国のビートとブラスのサウンドによってガラッと雰囲気が変わっている。MCでは今回のツアーのことを「予習がほとんど役に立たないツアー」と言っていたが、そんなコンセプトも何だかスキマらしい。知っている曲をやってくれた嬉しさではなく、今まで知らなかった感動に出会ってしまった興奮によって、その日のライブが忘れがたい経験になることだってある。音楽の楽しさを伝えたいという一心でステージや制作に向かい続けた彼らが、そういった角度からライブの面白さを提案するツアーを立ち上げたのはごく自然な流れだったのかもしれない。

この日のサポートメンバーは、石成正人(G)、種子田健(B)、村石雅行(Dr)、浦清英(Key)、松本智也(Per)、田中充(Tp)、宮崎隆睦(Sax)。大橋、常田を含めた計9名の手練れのミュージシャンたちが、そのテクニックと表現力を大いに振るうことによって豊潤なアンサンブルが生まれていく。しかも誰かがアドリブを入れれば、他の人がそれに反応し、その連鎖によってバンド全体のアンサンブルが予想外の方向に転がったりもするため、観ていて本当に楽しい。最初の数曲を終えたあと、大橋はジョークの一環として「メロディはあって無いようなもんだから歌詞は変えないようにしたいと思います」と言っていたが、あれは強ち冗談でもない。1曲目からメロディをアレンジして歌っていた彼のみならず、9名全員が感情の赴くままに楽器を鳴らしているのだ。

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そういう意味で特に印象的だったのが“星のうつわ”。アウトロの尺を延ばして行われた全身全霊のセッションは、吹き荒ぶ嵐のようであり、あちこちで火花が弾けているようでもあり、ただただ圧倒された。「ライブは生き物」って、きっとこういうことを言う。ステージ中央の大橋は歌っていない間、その場でジャンプしたり、突然マイクから離れて両手をギュッと結んだりしている。常田の打鍵も強く重くなっていく。その動作に衝動が――バンドの演奏に対する感情の昂りが表れているようだった。

NHKホールといえば『NHK紅白歌合戦』ということで、MCの話題は、『紅白』初出演時の裏エピソード、生放送で大橋が緊張してしまう理由、今日は渋谷に2人のタクヤがいる(※代々木第一体育館で木村拓哉がライブをしていた)という話など。「僕らのヒット曲はあの曲とあの曲ぐらい」などと自虐を交えながら喋る大橋は常田から「楽しそうだね(笑)」と言われるほどテンションが高く、しまいには「何か分からんけど、すっごいおなかすいてきた!」と飾り気のない発言までし始めるほど。この日のMCはおよそ20分。ライブ盤にMC集のCDが付いているくらいだし、今日もとりとめのない話が続くとみんな分かっているのだろう、MCに入ると観客もサポートメンバーもスッと着席をする。

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ライブの終盤に達してもなおバンドの勢いは衰えず、むしろみずみずしさを増していくばかり。大橋の歌声もよく伸びている。観客も特大のシンガロングや手拍子をし、場内の幸福感がどんどん膨れ上がっていった。「めちゃめちゃ声出てるね!」と観客を讃えるのは大橋。穏やかな表情で客席を見渡しうんうんと頷くのは常田。本編最後の曲では大橋が客席に下り、通路を練り歩いたり、上階の観客に手を振ったりしながら歌う。大橋が締めるまで曲が終わらないため、アウトロが長いこと続くが、その間ステージ上では、バンドメンバーが笑い合いながら有機的なセッションを繰り広げていた。

アンコールでは、映画『2分の1の魔法』の吹替声優を務める志尊淳、城田優が登場。2人とともに同映画の日本版エンドソング=“全力少年”を演奏するサプライズがあった。ゲストが去ったあと、大橋は「全部(2人に)持っていかれた感じする(笑)」と言っていたが、次の曲の冒頭、ドラムのリズムのみであの曲だと察した人たちの上げた大歓声が「いやいや、そんなことないぞ」というみんなの気持ちを物語っていたように思う。そんなふうに、それぞれの曲の愛され具合、ステージと客席を結ぶ信頼関係の太さを感じられる場面がこの日たくさんあったのだ。

スキマスイッチ/NHKホール - ©2020 Disney/Pixar. All Rights Reserved.©2020 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
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自らの曲をアップデートさせながら音楽の楽しさを伝えること。飾らず偽らずにステージに立つということ。それらの姿勢に基づいた観客との温かな関係性。「POPMAN’S CARNIVAL」とは、そういったスキマスイッチのライブの魅力を高濃度で堪能できる場所である。まだツアーも終わっていないのに気が早いかもしれないが、vol.3の開催も楽しみなところ。「もう終盤戦ですけど、ツアーがずっと続けばいいのにって思いますね」(大橋)という言葉からもこのツアーの手応え、そしてスキマスイッチの今現在の充実感を読み取ることができた。(蜂須賀ちなみ)


●セットリスト
0.POPMAN'S CARNIVALのテーマ2
1.ふれて未来を
2.ユリーカ
3.Revival
4.アイスクリーム シンドローム
5.時間の止め方
6.青春
7.雨待ち風
8.東京
9.小さな手
10.きみがいいなら
11.星のうつわ
12.キレイだ
13.スフィアの羽根
14.パーリー!パーリー!
15.全力少年
16.Ah Yeah!!
(アンコール)
EN1.全力少年
EN2.パラボラヴァ
EN3.未来花(ミライカ) for Anniversary


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