サザンオールスターズ/無観客リモートライブ「Keep Smilin’ 〜皆さん、ありがとうございます!!〜」@横浜アリーナ

All Photo by 岸田哲平

●セットリスト
01. YOU
02. ミス・ブランニュー・デイ(MISS BRAND-NEW DAY)
03. 希望の轍
04. Big Star Blues (ビッグスターの悲劇)
05. フリフリ'65
06. 朝方ムーンライト
07. タバコ・ロードにセクシーばあちゃん
08. 海
09. 夕日に別れを告げて〜メリーゴーランド
10. シャ・ラ・ラ
11. 天井棧敷の怪人
12. 愛と欲望の日々
13. Bye Bye My Love (U are the one)
14. 真夏の果実
15. 東京VICTORY
16. 匂艶(にじいろ) THE NIGHT CLUB
17. エロティカ・セブン EROTICA SEVEN
18. マンピーのG★SPOT
19. 勝手にシンドバッド

(アンコール)
EN01. 太陽は罪な奴
EN02. ロックンロール・スーパーマン〜Rock'n Roll Superman〜
EN03. みんなのうた


ライブ・エンターテインメントの開催が困難な時期に、「いつもどおりの圧倒的サザン」をやってのけるという、にわかには信じがたいスペクタクルがそこには広がっていた。なぜ、サザンオールスターズはこんなライブを行ったのだろう。インターネット回線を通じて津々浦々から多くの人々が見つめ、熱狂したはずの「サザンオールスターズ 特別ライブ 2020『Keep Smilin’ 〜皆さん、ありがとうございます!!〜』」。デビュー42周年記念日となる6月25日、場所は音楽の聖地・横浜アリーナである。

首筋にキスマーク(のシール)を付けて登場した桑田佳祐(Vo・G)をはじめ、関口和之(B)、松田弘(Dr)、原由子(Key・Vo)、野沢秀行(Percussion)、サポートに斎藤誠(G)、片山敦夫(Key)、山本拓夫(Sax)、吉田治(Sax)、菅坡雅彦(Tp)、小田原 ODY 友洋(Cho)、TIGER(Cho)という総勢12名のバンドで、恐ろしくリッチなサウンドとポップの奥行きを見せつけるアルバム曲“YOU”から、パフォーマンスが始まる。

紅の照明に染まり、拳を突き上げる“ミス・ブランニュー・デイ(MISS BRAND-NEW DAY)”はリリース日からちょうど36年。続いて「大変な毎日をご苦労様 今日は楽しく行きましょう」と歌詞を変えて歌われる“希望の轍”へ。序盤から演奏のBPMも速い。桑田は「スタンドー! アリーナー! センター! そして画面越しの皆さまーっ!!」と力強く呼びかけ、最前線で新型コロナウイルスと闘う医療従事者や行政に感謝の思いを伝える。念入りに歓声のSE(時折ブーイングも)が仕込まれた演出はご愛敬だが、「みんなが見えるもん。みんなの心が。気持ちが。魂が」という言葉は偽らざる本音だろう。

往年のヒットシングルを研ぎ澄まされたアレンジとパワフルなバンドグルーヴで放つ一方、“朝方ムーンライト”や“タバコ・ロードにセクシーばあちゃん”、“海”といったカップリング曲/アルバム曲の濃厚な歌心が咲き乱れる一幕では、トランペットやピアノの饒舌なサウンドに焚き付けられるように、桑田の歌声も艶を増していった。桑田と原のデュエットが冴え渡り、客席にはあたかも一面のオーディエンスがいるかのようにリストバンド型ライトが煌めく“シャ・ラ・ラ”は、紛れもなくライブ前半のハイライトだったろう。

ところが、メンバー紹介を交えたソロリレーの後には、さらに驚くべき光景が待ち構えていた。ダンサーチームのシアトリカルなパフォーマンスが目を引く“天井棧敷の怪人”。ミラーボールとシャンデリアの下で、大奥というよりも昔の遊郭を連想させる艶やかな視覚演出が繰り広げられた“愛と欲望の日々”。サザンの豊穣なミクスチャーサウンドが、真にアリーナ規模の巨大かつダイナミックなビジュアルと共に迫ってくるのである。脳が痺れるような情報量のライブに思わず呆けていると、両手でマイクを握り締めた桑田による“真夏の果実”の熱唱が注ぎ込まれたりもする。

聖火台に炎が灯され、気高いチャントから始まる“東京VICTORY”では、会場内のスタッフたちも拳を振りかざしていた。桑田が足を高く蹴り上げ、ソウルシャウターぶりを見せつける“匂艶(にじいろ) THE NIGHT CLUB”以降、ステージ上のサザンは猥雑さも込みの生命力の塊と化す。“エロティカ・セブン EROTICA SEVEN”ではアメコミヒロイン風ダンサーがセクシーに舞い、“マンピーのG★SPOT”での桑田のバニー耳のカツラには、アマビエと「疫病退散」の文字が乗せられていた。

「それでは我々の、42年前のデビュー曲を、謹んで、お聴きくださーい!!」と放たれた“勝手にシンドバッド”が、アリーナ内にダンサーたちの踊りまくる狂騒と化したのは言うまでもないだろう。桑田は2コーラス目の歌詞を「いつになればコロナが 終息するのかな!?お互いにそれまでは グッと我慢の暮らし続けましょう!!」と変えて歌った。病魔やストレスに立ち向かうための生命力を引き出すエネルギーが、そこには確かに渦巻いていたのである。

メンバーがライブTシャツに着替え、リリース日から24周年を迎えた“太陽は罪な奴”で始まったアンコール。全22曲のセットリストの最後に置かれたのは、こちらもリリース32周年記念日となる“みんなのうた”であった。原が奏でるドラマティックなライブ用イントロに導かれ、桑田は感謝と思いやりに満ちた特別な歌詞を歌い出す。そして手にした水鉄砲を乱射し、バイタリティ全開のまま駆け抜ける歓喜のフィナーレだ。

《いつの日か この場所で/逢えるなら やり直そう/忘れかけた真夏の恋人は You》。何度聴いたか知れない歌詞が、まるでこの日のために生まれてきたかのような響き方をしていた。サザンは、このライブをやらなければならなかったのだ。こうして、“みんなのうた”は我々の新しい約束の歌になり、横浜アリーナは新たな約束の地となったのである。(小池宏和)