入場と同時に、ソ連共産党風にデザインされたマークの入った怒髪天の手旗が1人1人に配られる。「マラソンとかで使う新聞社の手旗と同じ業者の人に作ってもらったんですよ」と、レコード会社の人もニヤリと笑う。過去最大規模のキャパのワンマン・ライブだが、フロアはぎっちぎちの満員。そして18:00オンタイムに場内暗転、白シャツに真っ赤な腕章をつけた増子、上原子、清水、坂詰の4人が登場! と同時に、オーディエンスが拳を突き上げる代わりに一斉に旗を振る! そのまま1曲目の“労働CALLING”で、フロアいっぱいに集まった実にさまざまな世代の「観客という名の労働者たち」の魂をウンガラガッタと揺さぶっていく。そこに追い打ちをかける増子兄ぃの「闘えー!」の絶叫!
この日は“サスパズレ”も、最近よくやっている新曲“マン・イズ・ヘヴィ”もなしで、悲哀のロックンロール“社会人ファイター”にしろ、爆裂スウィング・ナンバー“喰うために働いて、生きるために唄え!”にしろ、1曲ごとに労働者の悲哀と逆ギレ感が無限大増幅していくようなセットリストだ。さらには、プロテスト・ソングの元祖(?)・岡林信康の“山谷ブルース”で、この日のAXの「労働者集会」っぷりはいっそうエスカレートしていく。
「もはや景気は最悪、切られるものはもはや己の腕しかない! 定額給付金12000円はいつくれるんでしょうか! 早くしてくれ! 毎月くれ! かと思えば、ミサイルだか人工衛星だかまで飛んでくる始末。人んちの上に勝手なものを飛ばさないでいただきたい!」と、さらにEXILEのメンバー倍増から水嶋ヒロの結婚までネタにした増子兄ぃのMCは今日も絶好調。そして、「この不況の中、本当の歌は労働歌だ!」というコールに、フロアのキッズや元キッズたちからひときわ力強い歓声が! 逆ギレ・ポルカ“ビール・オア・ダイ”の大合唱も、兄ぃの珠玉のコサックダンスも、すべてが最高だ。
今年で結成から実に25年、今の4人のラインナップになってからでも20年。だが、「今回ね、最高動員記録ですよ!」と兄ぃが言う通り、今や怒髪天を取り巻く状況は徐々に右肩上がりを描きつつある。それもひとえに、時代の重圧に虐げられた労働者=リスナーの心をストレートに撃ち抜く視線のシビアさと、その重圧の悪ノリ&逆ギレ満載のメッセージへの鮮やかな転化っぷりゆえだろう。「君たちは実にいい顔をしている。ある基準は満たしておる! というか、ある意味逆に満たしてない。完全にダメな顔です! そんなダメなやつが1500人、1600人集まってる! これはちょっとした暴動ですよ!」という兄ぃの顔も、感極まりまくってもう真っ赤だ。
増子「ほんと最近、ロクな歌が流れてない! 知らないやつの恋愛観きいて『明日から頑張ろう』って思えるか?」、清水「いや、別に平気」、増子「……ぶち殺すぞ!」といった凸凹MCがあったり、増子と同じ店でバイトした経験を持つギター=上原子が「一緒にバンドはしたいけど、一緒に仕事はしたくない」と兄ぃのダメ人間ぶりを斬って捨てたり、「こいつ(清水)を加入させる時に、『うーん』って首かしげたやつがいるんだよ!(と上原子の顔を見る)。25周年だから言うけどさ! でも、もっとひどいのは、入ったのを知らないやつがいたんだよ!(とドラム・坂詰を見る)。スタジオ入って『このおっさん誰?』だって。ひどい話だよな(笑)」とプチ暴露してみたり……という4人の、全員ボケの漫才みたいなMCも相俟って、なんだかこっちまで一緒にガード下で呑んだくれてクダ巻いてる気分になってくる。兄ぃのMCは全部が名台詞と言ってもいい冴えっぷりだっだのだが、全部書いてるとキリがないのでそろそろ割愛。
≪生きてるだけでOK!≫という力ずくの人生凱歌“全人類肯定曲”に続き、ラスト3曲“ドンマイ・ビート”“NO MUSIC, NO LIFE”“酒燃料爆進曲”を渾身の力で畳み掛け、本編終了。アンコールで再び登場した兄ぃはMAXに感極まった様子。「……後半ちょっとまた、≪客席見れない病≫になっちゃってますけど。グッときちゃって……ありがとう!」の声に、うおおおおという雄叫びのような歓声が! 「そのうち武道館とかでやるようになったら、全員駐車場代をタダにします!」という、規模が大きいんだか小さいんだかわからない宣誓を挟みつつ、“はじまりのブーツ”“好き嫌イズム”“NCT”をドロップ。ダブル・アンコールで4人を迎えるオーディエンスのさらなる熱気に、再び兄ぃは「逆にもう、ワンマンやりたくないわ! グッときすぎるわ!」。そして最後はAX一丸となっての“ヘベレ・ケレレ・ヨー”大合唱! 最高のフィナーレでもって、2時間弱の労働者たちの宴は幕を閉じた。
4月22日の1年半ぶりのアルバム『プロレタリアン・ラリアット』発売に加え、6月28日の赤坂BLITZワンマンも決定。怒髪天25周年イヤーの勢いはまだまだ止まりそうにない。あと、『プロレタリアン・ラリアット』に関する増子兄ぃの舌鋒鋭いロング・インタビューが、4月20日発売の『ロッキング・オン・ジャパン』に掲載されるので、そちらもぜひ。(高橋智樹)
1.労働CALLING
2.社会人ファイター
3.喰うために働いて、生きるために唄え!
4.山谷ブルース
5.ビール・オア・ダイ
6.無職透明
7.宿六小唄
8.俺達は明日を撃つ!
9.よりみち
10.全人類肯定曲
11.ドンマイ・ビート
12.NO MUSIC, NO LIFE
13.酒燃料爆進曲
アンコール
14.はじまりのブーツ
15.好き嫌イズム
16.NCT
アンコール2
17.ヘベレ・ケレレ・ヨー