鶴 @ 赤坂BLITZ

鶴 @ 赤坂BLITZ
鶴 @ 赤坂BLITZ
鶴 @ 赤坂BLITZ
鶴 @ 赤坂BLITZ - pic by 森 久pic by 森 久
ニュー・アルバム『情熱CD』のリリース・ツアー、ワンマンでは過去最大の赤坂BLITZ。ソールド・アウトではなかったが、95%くらいがっちり埋まっていた。デビューから1年しか経っていないバンドの、メジャーからの1stアルバムのツアー、として考えると、このハコがここまで埋まれば明らかに大成功。そんな晴れ舞台を前に、鶴が一体どうなっていたか、というと。明らかに、様子がおかしくなっていました。

歌とギターの秋野温、なんだか一回目のMCから、既に感極まって泣きそう(に見えた。なお、後半のMCで「頭の中が真っ白」って言っていた)。どんくん(ds)も、終始顔が「うほっ」て言いそうな感じで上気しているというか、ほころんでいるというか、そういう状態。3人の中で、まだ最も平常心に近かったのはベース神田で、MCとかで妙なムードになったりしたら、すかさずツッコミ入れたりフォローしたりして、場の空気を戻す役割を担っていた。
要は、うれしくて、楽しくて、幸せで、舞い上がってしまったのだとお見受けした。あと、すんごいテンパってもいたが、それには「ああ、なるほどぉ」と思った。

つまり。例えば数年前、カウントダウン・ジャパンに初登場した時の鶴は、すべての出演者の中であからさまに最も無名であり、ステージに上がった時点ではフロアはガラガラだった。しかし、いきなり「ごはん食べてる人、鶴が始まるよー!」とかシャウトし、「なんだなんだ」と観に来た人は一様に最後までその場を離れず、終わる頃には満員になっていた。その積み重ねによって、昨年夏やこないだの年末には、登場の段階で既に満員、ということになっていた。そんなふうに、数々のフェスや対バンで、その場をかっさらって動員を伸ばしてきた、アウェイであればあるほど勝ってきた、言わば対バン・キラーな鶴であるがゆえに、「こんなに大勢の人が最初から自分たちだけを観に来ている」「そしてステージに出てきただけで既に熱狂している」という事実に、とまどってしまったというか、どうしていいかわからなくなってしまったのだと思う。

で。どうなったかというと、秋野、妙に真面目になっていました。なんだかMCが多く、しかもそのたびに、シリアスで熱くてまじめなことを口にしていた。そんなに語らなくていいよ、わざわざ説明しなくてもわかってくれるよ、鶴のファンはいいファンだから(ほんとにそう思う。ひやかしや勘違いな空気がほんっとにフロアにない)、と思ったが、まあ今回は、そういう特別な日だったってことで。

あと、2時間半という尺は、正直、このくらいのキャリアの新人バンドのライブとしては、長すぎるとも思った。1時間半くらいでサクッと終わって「ええっもう?」って思わせたほうが次につながるのに、とか、業界オヤジくさいことをちょっと思ってしまいました。

なんかさっきから厳しいことを書いているが、なんで平気でこんなことを書けるかというと、演奏そのもの、パフォーマンスそのものが、本当にすばらしかったからだ。なんていい曲なんだろう。なんていい演奏なんだろう。なんていいバンドなんだろう。こんなに自分が観慣れているし聴き慣れているバンドなのに、そう言いたくなった瞬間が、何度も何度もあった。
山下達郎や大瀧詠一に通ずるような、ソウル/R&Bを日本語解釈でやるという方法論。しかも3ピースで、ギター・サウンドでやってしまうという無謀さと素敵さ。どんなにくだらないパフォーマンスをやってもどんなにおもしろおかしいことを言っても、ひとたび歌えば怒涛のような切なさが場を支配する、メロディ・メーカーとしての&ボーカリストとしての才能。
特にこの日、強く感じたのが、バンドとしてのすばらしさ。もうほんと、何かの間違いじゃないかってくらい、3人の音が合っている。1人で演奏してるみたい。この合いっぷりが何か、というと、演奏云々以前に、3人それぞれの向かっている方向や、意識していることや、見えている景色が、合っているということだ。バンドってそこがずれるから大変なんだけど、そういうストレスがこのバンドには、奇跡的なまでにない。ここまで「うわあ、合ってる」と思ったの、個人的にはサンボマスター以来です。

というわけで、いろいろ感無量だったし、観ながらいろいろ考えたライブでした。
終演後の楽屋挨拶で、神田は「うれしいのが半分と、もっとやれたのに! っていうのが半分です」みたいなことを言っていた。やっぱりこの人がキーマンみたいです。今後も楽しみ。(兵庫慎司)
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