おいしくるメロンパン/池袋harevutai

おいしくるメロンパン/池袋harevutai - All photo by木村泰之All photo by木村泰之

おいしくるメロンパンは2021年10月から、初の「アルバム再現ツアー」を大阪、名古屋、東京で行っていた。1st〜3rdのアルバムを順に再現するこのコンセプトライブは、11月の東京公演2デイズがsold outとなったことを受け、12月7日に追加公演が組まれた。池袋harevutaiで行われたこの追加公演を観ることができた。この追加公演もチケットは完売。貴重な再現ライブを見逃すまいと、期待を寄せるリスナーの多さを実感する。
不思議な感覚だった。いつもなら、アルバム曲にしてもライブ用にアレンジを加えて演奏することの多いおいしくるメロンパンだが、このツアーのテーマは「再現」。それゆえ、1st『thirsty』、2nd『indoor』、3rd『hameln』と、アルバムリリース順かつ音源収録順に全15曲を「再現」していくという明確な前提があった。けれど、音源と大きくアレンジを変えずに演奏されているはずなのに、この日のライブ演奏は当初の音源が描いていた景色を、より鮮明に色濃く映し出していくものとなった。

おいしくるメロンパン/池袋harevutai
おいしくるメロンパン/池袋harevutai
おいしくるメロンパン/池袋harevutai

この再現ライブは『リフレイン・ブルー』と名付けられた。1st〜3rdアルバムで彼ら3人がバンドサウンドと歌とで描いてきた心象風景や景色を、今一度思い返すように、その風景を追体験するように、それぞれすべての楽曲に合わせVJがステージ背面の大型LEDスクリーンに映像を映し出していく。その視覚的な演出が、音や歌が描き出す風景の輪郭や色彩を色濃く見せているのかもしれないが、それだけではない。そもそも3人のアンサンブルが格段にアップデートされているのを感じたのだ。過去の風景を1冊のアルバムに、あるいは日記にまとめるようなこのライブのコンセプトがあるのなら、その行為によってバンドがこれまで紡いできた楽曲の、その音が鳴った瞬間の鮮烈な記憶をさらに強化するような音の説得力が必要だ。そのためにはバンドはさらに研ぎ澄まされていなければならない。今のおいしくるメロンパンの音からはその自信をはっきりと感じる。

おいしくるメロンパン/池袋harevutai

SEとともに、表紙に「Refrain Blue」の文字が書かれた青いクラシカルなノートブックがスクリーンに映し出され、ページをめくるたびにそれぞれの楽曲のイメージを思い起こさせる様々な風景が浮かび上がる。まず1st『thirsty』から、「再現」はスタートした。“色水”のソリッドなギターロックサウンドからして「更新」を感じさせる。再現なのに何かが確実に違うのだ。それはきっとバンドのアンサンブルに潜む絶妙なタイム感。ナカシマ(Vo・G)がどれだけフリーキーにギターソロを弾こうとも、峯岸翔雪(B・Cho)のベースも、原駿太郎(Dr・Cho)のドラムも、ぶつかることなく、それでいて遠慮することもなく、飄々と当たり前にように気持ちの良いアンサンブルを生み出していく。続く“シュガーサーフ”での疾走感も、今の3人だからこそのスピード感で、楽曲のアグレッシブさをより際立たせるように、強烈にドライブしていった。背後のスクリーンにスローで映し出される、海岸に向かって押し寄せるビッグウェーブの映像と、切れ味鋭い高速のバンドアンサンブルが面白い対比を生み出していた。“紫陽花”でのスリリングなバンドサウンドでも、スクリーンいっぱいに映し出された青色が、いつしか赤色と混ざり合って儚く綺麗な紫色へと変化していく様子とシンクロするように、3人それぞれの音が美しく混ざり合う様を見せた。

おいしくるメロンパン/池袋harevutai
おいしくるメロンパン/池袋harevutai

2nd『indoor』は“桜の木の下には”で始まる。ナカシマのギターアルペジオが響いて、スクリーンには桜の木と舞い散る花吹雪の映像。原のドラムが口火を切るように大きく響いて、3人のアンサンブルが再び躍動を始める。文学的な歌詞で綴られるダークファンタジーは、ナカシマのボーカルと峯岸と原のコーラスが織りなすハーモニーが素晴らしく、その風景がまた美しくビビッドに塗り替えられていく。続く“look at the sea”。峯岸のベースがAメロを牽引し、サビの豊かなアンサンブル、そしてベースとギターが同時にソロを弾いて絡み合うような間奏、Cメロのエモーショナルな歌へと続く展開──。それぞれの音はなめらかだけれど尖っている。尖っているけれどひとつにまとまる。そのアンサンブルの妙に、客席フロアからは自然にハンドクラップが沸き起こる。アウトロで激しくなる3ピースの音。そしてギターリフの余韻。こんなに完璧な構成だったのかと、あらためて感じ入った。 “caramel city”のリラックスしたジャジーなアレンジも、今はライブ演奏でも余裕すら感じさせて、これもまた絶妙なグルーヴを生み出していた。

おいしくるメロンパン/池袋harevutai
おいしくるメロンパン/池袋harevutai

3rd『hameln』の再現はもちろん“水葬”から。水辺にたたずむ少女のアニメーション。深い水の中へと誘われるかのような音像は、引き摺り込まれるような不穏さとたゆたうような心地好さを同時に感じさせる、とても豊かな音の空間を生み出していた。“蜂蜜”では、ナカシマがエレアコに持ち替え、峯岸もエレアコベースに、そして原はスティックをブラシに変えて、音源に忠実なオーガニックなバンドサウンドを紡いでいく。そのグルーヴにも豊かな丸みが感じられて、アンサンブルのアップデートを大いに感じさせた。本編ラストとなる“nazca”の緻密なサウンドアレンジは、このライブ演奏ではさらに繊細に、けれど青さを失うことなく響き渡り、彼らの音楽への飽くなき衝動を感じさせた。全15曲を「再現」し終えると、スクリーンに映る「Refrain Blue」は静かに閉じられた。この15の風景たちはまた記憶のなかで生き続けながら、これからも繰り返し繰り返し、思い出されていくのだろう。

おいしくるメロンパン/池袋harevutai
おいしくるメロンパン/池袋harevutai

この日のMCでナカシマは「急速に変化していく時代では、思い出や過去の記憶が押し流されていってしまうような感覚がある。でもそういう時代性とは関係なく、おいしくるメロンパンが描いてきた風景は、古びたものになることはない。だからこそ今また『リフレイン・ブルー』として新たに表現したいと思える」というようなことを語っていた。やはりそうだ。このライブはいつか描いた風景を、いつまでも消えることのない記憶として刻みつけるものだったのだろう。おいしくるメロンパンの楽曲が持つ不思議な時間軸というか、タイムレスな物語性は、彼らの演奏の成熟によって、さらに強化されていくものであることを証明するかのようなライブだった。

おいしくるメロンパン/池袋harevutai

アンコールでは4thアルバム『flask』から“epilogue”と、5thアルバム『theory』から“斜陽”をプレイした。いつかこの2作のアルバムもすべて、この日のように美しく「再現」してみせてほしいと思った。しかしナカシマは「来年は振り返らず、前を向いて進んでいけたらいいなと思っています」と言って、「最後に新曲を」と、“トロイメライ”という楽曲を披露した。この季節にぴったりな、厳かながらあたたかい雰囲気をまとうメロディ。3人の歌のハーモニーがその気分を煽る。美しい音色で鳴るアルペジオが、混迷の時代を癒すように響いた。(杉浦美恵)


●セットリスト
01.色水
02.シュガーサーフ
03.5月の呪い
04.砂と少女
05.紫陽花
06.桜の木の下には
07.look at the sea
08.caramel city
09.泡と魔女
10.あの秋とスクールデイズ
11.水葬
12.命日
13.dry flower
14.蜂蜜
15.nazca
(アンコール)
EN1.epilogue
EN2.斜陽
EN3.トロイメライ(新曲)
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