おいしくるメロンパン/恵比寿LIQUIDROOM

おいしくるメロンパン/恵比寿LIQUIDROOM - all photo by 郡元菜摘all photo by 郡元菜摘

今年5月、最新ミニアルバム『cubism』をリリースしたおいしくるメロンパンは、翌月からこの新作を引っ提げた全国ツアーを展開した。『cubism』はオリコンのデイリーランキングで1位を記録するなどリスナーからの期待も評価も高く、この「おいしくるメロンパン cubism tour -サンセット・フィルムショー-」のチケットも各地で軒並みソールドアウト。東京・恵比寿LIQUIDROOMを皮切りに、全6箇所を巡るツアーは、7月23日、大阪・梅田CLUB QUATTROで無事にファイナルを迎えた。足を運んだ人なら明確に実感したことと思うが、これほどポップでまぶしい3ピースのバンドサウンドを体感することになるとは、嬉しい驚きだったのではないだろうか。『cubism』からの新曲だけがそうなのではない。その新作のまばゆい音像や開放感が過去曲にもさらなる光を当てるように、彼らが紡ぎ出すアンサンブルは、面白いくらいに鮮やかな色彩を帯びていたのだ。

おいしくるメロンパン/恵比寿LIQUIDROOM

足を運んだのは、初日の恵比寿LIQUIDROOMでのライブ。ツアーの初日ともなれば、滑り出しには緊張が伴うものだと思うが、この日のおいしくるメロンパンは、いつもの少し内向きな、内省的なイメージを覆すように、オープニングからその音楽は完全に外側、つまりフロアの観客に向けて放たれていた。それがたとえば、新曲でのスタートだったならば、その理由は明白だろう。『cubism』の楽曲は、これまでの彼らのものと比べても、強くポップさやキャッチーさを全面に押し出したものだったから。その楽曲が「外向き」だと感じるのは当然のことかもしれない。けれど、彼らがオープニングで繰りだしたのは、前作『theory』からの“透明造花”、さらに前々作『flask』からの“epilogue”。もちろんこれらの楽曲も、おいしくるメロンパンの楽曲のなかでは明るく爽やかなテイストのものだといえる。けれど、過去のライブでも何度も演奏されてきたこの楽曲が、この日ことさらポップにキラキラとまぶしい音像となって耳に飛び込んでくるとは、一体どういうことなのだろう。“look at the sea”もそう、“色水”もそう。そもそもがおいしくるメロンパンのライブではハイライト的に、ぐっと盛り上がる曲ではあったが、この日ほど序盤から観客の腕が自然に上がったり、フロア中が揺れたりすることはなかったはずだ。そう、この日は『cubism』ツアーであるにもかかわらず、まず頭の4曲は過去曲でつなぎ、見事にバンドのポジティブな変容を魅せたのだった。

おいしくるメロンパン/恵比寿LIQUIDROOM - ナカシマ(Vo・G)ナカシマ(Vo・G)

あとになって振り返れば、今回のセットリストはかなり練られていたことがよくわかる。新作『cubism』の楽曲をどこに置き、その前後にどの楽曲をつなげるのか。さらにはMCにも変化が見てとれた。いちばんの変化はナカシマ(Vo・G)の発する言葉。「今回の『cubism』は今まで以上にたくさんの人に届けたいという想いで作った」こと。そして「過去曲も、ひとつの世界観のなかにあってつながっているものなので、その世界のなかで新しい5曲がどのような彩りを添えるのかを感じてほしい」ということを、明確にフロアに向けて伝えた。その言葉がすべてを物語る。そのあとに披露された、『cubsm』を象徴する楽曲“Utopia”の歌い出しに、これまでの殻を破るような力強さを感じ、そして、序盤に演奏された過去曲も、この明るい光へとつながっていたことを悟る。まるで『cubism』を作り得たことによって、おいしくるメロンパンというひとつの大きな「作品」の全貌が、その本質が、ようやく鮮やかに姿を現したかのような心持ちだった。1曲のなかで自在に緩急を見せる“紫陽花”も、いつもなら内へと潜っていくようなトリップ感を味わう“水葬”も、どこかあたたかく心地好いタイム感で響く。

おいしくるメロンパン/恵比寿LIQUIDROOM - 峯岸翔雪(B)峯岸翔雪(B)

そして再び新作からの“水びたしの国”では、原駿太郎(Dr)がドラムスティックをブラシに持ち替えて揺らぎのあるスネアの音を響かせ、峯岸翔雪(B)がアップライトベースであたたかみのある低音で支える。ナカシマの歌声にコーラスが寄り添ってやわらかいハーモニーを聴かせ、とても豊かなアンサンブルで魅了する。そしてそのあとは、前作『theory』に収録されていた、美しいボレロのリズムを刻む“亡き王女のための水域”へとつながり、この2曲はアルバムを横断しながらも地続きにある、というか、どちらも同じ「架空の国」を描いたものであったのかと気づかされる。おいしくるメロンパンのなかでも1、2を争うほどエキセントリックで緻密にアレンジされた“candle tower”に新作からの“灰羽”をつなげたのも見事だった。“candle tower”の、深い没入寸前のテンションを、“灰羽”の突き抜けたスケール感がふっと軽くしてくれるように、影と光のコントラストを痛快に映し出して魅せたのだ。

おいしくるメロンパン/恵比寿LIQUIDROOM - 原駿太郎(Dr)原駿太郎(Dr)

これまでのおいしくるメロンパンは、どちらかというと「ひとり一人、好きに楽しめばいい」「踊るも踊らぬも自由」というスタンスで、だからこそ、リアクションを強いられない居心地の良さがあった。けれどこの日のライブでは明らかに、観客は誰に強要されるでもなく自然に体を揺らしていた。そうできるようにとセットリストや曲間の流れ、MCでのコミュニケーションにも心が配られていた。そして何よりメンバー3人が、とても楽しそうに演奏していたのが印象的だった。後半のMCでナカシマは「こうやってみんなの反応だったり空気感を味わって、あらためてすごくいい作品(『cubism』)ができたと実感しています」と言った。その充足感を同じテンションでステージとフロアが共有しているのがよくわかる。そういうライブだった。終盤は陽のエネルギーが強い“憧景”をトリガーに、その後の2曲は新作から、爽やかな風が吹くようなポップソング“蒲公英”と、軽快なバンドサウンドとハーモニーが沁み入る“トロイメライ”を続けて演奏し本編を締めくくった。この爽やかだけれど決して軽いわけではない、不思議な清々しさは、彼らのライブで初めて味わうものだった。

おいしくるメロンパン/恵比寿LIQUIDROOM

アンコールではサプライズで、できたばかりの新曲“マテリアル”も初披露。初聴きで「名曲にして新機軸」と感じることができた。この“マテリアル”はツアー終了後の7月27日にリリースされ、あらためてライブでの予感が間違いではなかったと実感した。おいしくるメロンパン流のパワーポップ。これもまた『cubism』と近しい、とても開けたバンドサウンドに仕上がっている。さて、アンコールのラストは“5月の呪い”へ。弾むようなリズムで進行する楽曲に、メンバーそれぞれのソロを入れ込みながら、とても気持ちよく現在進行形のおいしくるメロンパンを表現してくれた。終演後の大きな大きな拍手が、この日のライブの充実を表していたと思う。

おいしくるメロンパン/恵比寿LIQUIDROOM

9月からは『cubism』ツアーの第2弾となる「トワイライト・フィルムショー」と題した全国14箇所を巡るツアーも予定されている。同じく『cubism』をフィーチャーしたライブとなるはずだが、セットリストも流れも「サンセット・フィルムショー」とはまた違ったものになるようだ。今回のツアーを経て、3人ともとても良い状態で新たなステージに臨むことができると思うし、このツアーもまた見逃せないものになりそうだ。

ちなみに『ROCKIN’ON JAPAN』9月号には、今回のツアー、そして最新曲“マテリアル”について語った、メンバー3人のインタビューが掲載されているので、そちらも合わせて楽しんでもらえたら。そのインタビュー内容からも、バンドが現在、ひとつの充実期を迎えていることを感じ取ってもらえるはず。ぜひ。(杉浦美恵)


●セットリスト
01.透明造花
02.epilogue
03.look at the sea
04.色水
05.Utopia
06.紫陽花
07.水葬
08.水びたしの国
09.亡き王女のための水域
10.シュガーサーフ
11.candle tower
12.灰羽
13.夕立と魚
14.あの秋とスクールデイズ
15.斜陽
16.憧景
17.蒲公英
18.トロイメライ
(アンコール)
EN1.マテリアル(新曲)
EN2.5月の呪い

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