luki「新古今洋歌集」/池袋harevutai

luki「新古今洋歌集」/池袋harevutai - All photo by 郡元菜摘All photo by 郡元菜摘


●セットリスト
01. フーチークーチーウーマン
02. Boom Boom
03. Creep
04. The End of the World
05. アラバマ・ソング
06. Bang Bang(My Baby Shot Me Down)
07. Move Over
08. I Can’t Quit You Baby
09. I Got My Mojo Working
10. 深淵の揺らぎ(inst.)
11. Tema d’Amore
12. Under The Bridge
13. Blue Velvet
14. 朝日のあたる家
15. The End

(アンコール)
16. A Song for You
17. Jeff's Boogie
18. Paint It Black
19. ハイエナ


昨年11月lukiは、洋楽の名曲を新たな独自の視点の日本語詞で解釈したカバー曲を配信してきた。この洋楽カバーは、実は2021年3月からイベント「CUT NIGHT」で披露し、少しずつレパートリーを増やしてきたもの。その一連の洋楽カバーを、初披露の曲も加えながら一気に披露する、lukiにとって4年ぶりのワンマンライブが4月15日に池袋・harevutaiで行われた『新古今洋歌集』だった。

luki「新古今洋歌集」/池袋harevutai

オープニングSEとして流れてきたのはエンニオ・モリコーネ“さすらいの口笛”(『荒野の用心棒』より)。ブルーの美しい照明に照らされた哀愁と幻想入り混じる空気を切り裂くように、三連のブルースのリズムを刻むハイハットのカウントから始まったのは“フーチークーチーウーマン”。ワンピースの上にジャケットを羽織った凛とした姿で、堂々たる歌、そして豪快なハープソロを繰り出し、後半の必殺フレーズ《だって世界には/7億の男があたしを待ってるから》の時には完全に会場を制圧。続くブルースの名曲“Boom Boom”のカバー”付和雷同“での激しくステップを踏みながらのハープのプレイに、いきなり会場の盛り上がりは最高潮に。《ロックでも/ブルースでも/望まれるまま/なんでもやろう》という歌詞の通り、洋楽リスナーの多いこの日の客層の心に剛速球のストレートをいきなり突き刺した。

luki「新古今洋歌集」/池袋harevutai

レディオヘッド”Creep”のように原曲から大幅にアレンジを変えた曲も、“The End of the World”のように原曲のメッセージの深さを自身の歌として昇華した曲も、より立体的でダイナミックに感じられた大きな要因は、この日はベーシストとして伊賀航が参加していたことだった。細野晴臣、星野源、曽我部恵一など数多くのアーティストのサポートでも活躍してきた彼だが、その参加によって円山天使(G)、山本哲也(Key)、張替智広(Dr)、そしてlukiが奏でる全ての音のうねりが歌となって、ダイレクトに心を鷲掴むようになった。
”アラバマ・ソング“では巨大LEDに映し出される映像や歌詞の表現もバンドの一員のように楽曲の物語性を歌い上げていて、その総合アートとしての音楽表現に一際大きな拍手が起こる。この日、lukiはMCで、音楽は時に社会通念とは違うことを描いて、感情の解放の時間を作り出して良いと思うと語っていた。それはもしかしたら今後の日本のロックやポップスが克服していくべき課題かもしれないし、彼女がやっている洋楽カバーも、1曲ずつ新しい挑戦をしながら、そんな重要なテーマに向き合うものになっているのかもしれない。このMC直後の“Bang Bang”や”Move Over“には、言葉と音楽の両サイドの力点から、常識の蓋を抉じ開けるような、彼女の音楽による闘いの流儀を感じた。

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中盤からは初披露のカバーを次々と披露。1曲目は、”I Can‘t Quit You Baby“。原曲はウィリー・ディクソンがオーティス・ラッシュに提供したブルースの名曲だが、レッド・ツェッペリンのデビュー・アルバムに収録されたヴァージョンを基調にした、見事なツェッペリン・カヴァーとして仕上がっている。しかも、それが言葉だけでなく歌のアプローチによって、女性視点のオリジナリティに溢れたパフォーマンスで表現されていて最高だった。初披露2曲目は数多くのアーティストがカバーしているブルースの定番曲”I Got My Mojo Working"。コロナ禍でいろいろなライブの楽しみ方が制限されていた空気が今、大きく変わりつつあるが、ここではlukiが客席に《mojo working》のコール・アンド・レスポンスを呼びかけ、客席はそれに熱い声援で応えて、このライブならではの熱気と一体感を象徴する時間が生まれていた。

luki「新古今洋歌集」/池袋harevutai

オリジナルのインスト曲“深淵のゆらぎ“では、紗幕を使っての光と映像の演出ごしにlukiのハープがせつなく冴え渡り映画的な世界を出現させた。かと思えば、そのままアコースティック・セットでエンニオ・モリコーネ“愛のテーマ”(『ニュー・シネマ・パラダイス』より)へ。インスト楽曲のメロディに歌詞をつけたこのカバーは、映画評論家・山田ルキ子として数多くの映画の世界も旅しながら、愛とは何か、世界の仕組みとは何かの答えを探してきた彼女だから歌える歌のように聴こえた。さらにアコースティック・セットのままレッド・ホット・チリ・ペッパーズの代表曲のひとつ“Under The Bridge”。男臭くて切ないこの曲の魅力を意外なほどストレートに表現した、これもまた見事なカバーだ。

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本編は演奏、映像、歌の三位一体の洗練度を上げながら一気にラストへ。“Blue Velvet”のロマンチシズムも、”朝日のあたる家“の荒涼感も、”The End“の絶望を超越したエネルギーも、それぞれ色合いは違うのに5人のlukiバンドと映像/照明のアンサンブルによって、抜群の解像度で、それぞれの形をした深い爪痕をオーディエンスの心に残していった。

luki「新古今洋歌集」/池袋harevutai

ジャケットを脱いで艶やかなワンピース姿で再登場したlukiがアンコール1曲目で披露した“A Song for You”は、この日のライブの原動力となっている愛のメッセージが、極めてパーソナルでありながらも無限の包容力をもって表現された、最高のクライマックスだった。しかし、そこからさらに”Jeff’s Boogie““Paint It Black”と洋楽リスナーの心をしっかり掴んだままロック・アーティストらしく盛り上げていく。アンコールラストではオリジナル曲“ハイエナ”を投下。インスト1曲を挟みながら錚々たるカヴァー曲を17曲披露したセットリストの最後で、この1曲が凶暴で鮮烈なインパクトを残したことは、この4年ぶりのワンマンが、lukiというアーティストの新しい扉を開くものだったことを何よりも証明していた。(古河晋)

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