おいしくるメロンパン/LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)


1月19日、おいしくるメロンパンが東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)にてワンマンライブを開催した。この公演は昨年4月にリリースされた7thミニアルバム『answer』のリリースツアー「おいしくるメロンパン answer tour - 結ぶリボンの方程式 -」のファイナル公演であり、おいしくるメロンパンにとって初のホールワンマンとなった。


開演前から、LINE CUBE SHIBUYAのステージは物々しい雰囲気を発していた。絶妙な距離感でセッティングされた3つの機材。ギターとベースの位置に敷かれた絨毯。ステージ上には演奏が始まる前から「3ピースバンドによる、3ピースバンドのための空間」という空気が漂っており、シンプルなセットは簡素というより、「この抑制の中にこそすべてがある」という充足感を発している。この日の公演はソールドアウトしていたが、おいしくるメロンパンはゴテゴテと何かを張り付けたり付け足したりすることで規模を大きくしてきたバンドではない。むしろ彼らは求道者のようにシンプルで洗練されたやり方を貫き通すことで支持を拡大してきたバンドであり、あくまでも「自分たちのやり方」で哲学を更新し続けることに意味を見出すバンドである。他人に与えられた答えに興味はないだろう。その美学はステージの上にも静かな迫力となって充満している。

私が会場に入った時には場内のBGMにはザ・ストロークスやブロック・パーティといった2000年代に活躍したロックバンドの曲が流れていたが、BGMは次第に、ましのみや長瀬有花のエレクトロニックなポップへと変わった。私が周囲を見渡した限りだが、会場には、学校帰りなのだろう、制服姿の若者たちが多く見受けられた。おいしくるメロンパンが奏でる、青春感溢れる……というよりは、むしろ青春への喪失感が溢れるロックは、今、鋭敏な感性を持つ若者たちから大きな支持を得ている。

ナカシマ(Vo・G)
峯岸翔雪(Ba)
原駿太郎(Dr)

《振り返らないで》と繰り返し歌う“斜陽”で幕を開けたライブ。バンドは約2時間にわたりアンコールも含めて計21曲を披露した。ミニアルバム『answer』に収録された5曲はもちろん披露されたが、2015年の結成から現時点までフルアルバムをリリースせず、ミニアルバムというフォーマットにこだわり続ける彼らにとって、作品のリリースツアーはひとつの作品のお披露目という以上に、「自分たちはここまで辿り着いた」「現在地で、自分たちが手にした答えはこれである」と、バンドの歩んできた道のりを振り返り「今」を確かめる行為なのかもしれない(コンパクトな作品を積み重ねていく活動スタイルは、断片的な物語が連なる短編映画の連作のようでもある)。しかも、この『answer』リリースツアーの最終日は、アンコールで2曲の新曲まで披露された。1曲は今ツアーの他の公演でもセットリストに入っていたという“砂の王女”、そしてもう1曲は、1月31日に配信リリースされた(このライブの時点では初お披露目の)“五つ目の季節”。このライブは、ひとつの地点で留まる気はなく、現在進行形で変化し進化していくバンドのドキュメントでもあった。


まるで波のようにうねっている――約2時間の全体を通して、そんな印象を抱かせるライブだった。激しく、熱狂的だが、作為的なカタルシスは感じない。むしろ1曲1曲の熱が連鎖していく中で、ある瞬間に砂利道を疾走していたかと思えば、ある瞬間には深海に潜っていて、ある瞬間には空中をくるくると回転し、ある瞬間には自室のベッドの中でひとり暴れている……そんな感じで、とんでもない景色がフッと現れてはまた別の景色へと移動していく、そういうライブだった。おいしくるメロンパンの楽曲は1曲の中でも展開が変わるように作り込まれているが、1本のライブの流れも、彼らは曲と同じように精緻に作り上げているのだろう。ライブが進行し、数多の景色が連鎖していく中でも……例えばライブ中盤、《波打ち際 闇に浮かべた花束》と歌い出す“亡き王女のための水域”から、『answer』を象徴する1曲“波打ち際のマーチ”へ、そして、この日の時点でリリースされていた楽曲の中では最新曲となるダイナミックかつポップな“シンメトリー”へ。さらにMCを挟み、バンドの原初的なエネルギーが爆発するフリーキーなロックソング“シュガーサーフ”、そしてバンドの代表曲のひとつと言える“look at the sea”といったバンドの初期衝動が刻まれた楽曲へとなだれ込んでいった流れは、歌詞の世界観もバンドの人生も、すべてが重なりながらひとつの物語を描いていくようなすごみがあった。

ナカシマ(Vo・G)

演奏と同じようにシャープな照明演出も素晴らしかったし、何より、バンドを構成する3人のバランスがいい。曲ごとに、鮮やかに多彩なバリエーションのビートを叩き出す原駿太郎(Dr)に、その豊かなベースプレイだけでなく、ステージ上のパフォーマスにおいても力強さと華やかさをバンドにもたらす峯岸翔雪(Ba)。彼らはそれぞれ、ユーモアや観客とのコミュニケーションという面においても大切な役割を担っていた。そして、バンドのブレーンであるナカシマ(Vo・G)は、緊張感も感じるが、何にも動じずにリラックスしているようにも感じる、彼特有の不思議な力加減でステージに立っていた。そして歌い出せば、その繊細そうな佇まいから野性的ともいえるようなエモーショナルな歌唱を響かせた。


この日、MCでナカシマは『answer』という作品を「初期から自分の内側に向かって作品を作ってきた自分たちが、ここ数年、『どうやって自分たちの音楽を受け取ってもらうか?』を考え、自分たちとお客さんの在り方を自分の中で定義したいと思った。そのひとつの『答え』」というふうに語っていた。そして、観客たちに「もっと理想に向かって3人で突き進んでいくけど、みんなを置いてけぼりにせず、一緒に進んで行けたらと思っています。着いてきてください」と告げた。そのMCの後に演奏された“dry flower”には《次の季節へ》というさりげなく歌われるフレーズがあるが、バンドがこの日アンコールで披露した新曲のタイトルが“五つ目の季節”であることを考えれば、おいしくるメロンパンというバンドは常に新しい季節を求めるバンド、ということなのかもしれない。その変化への希求こそが、彼らの中に一貫したものなのだろう。この日、5月1日に新たなミニアルバム『eyes』がリリースされることも発表された(新譜が5月リリースだから、ライブの最後は“5月の呪い”だったのだろうか……)。何はともあれ、彼らの目に映る新たな季節には、どんな花が咲きどんな風が吹くのか、一緒に感じてみたい。そんなことを思わされるライブだった。(天野史彬)



●セットリスト
01.斜陽
02.命日
03.caramel city
04.夜顔
05.マテリアル
06.水びたしの国
07.亡き王女のための水域
08.波打ち際のマーチ
09.シンメトリー
10.シュガーサーフ
11.look at the sea
12.走馬灯
13.garuda
14.Utopia
15.dry flower
16.あの秋とスクールデイズ
17.ベルベット
18.色水
(アンコール)
EN1.砂の王女(新曲)
EN2.五つ目の季節(新曲)
EN3.5月の呪い