tobaccojuice @ 渋谷クラブクアトロ

tobaccojuice @ 渋谷クラブクアトロ
tobaccojuice @ 渋谷クラブクアトロ
tobaccojuice @ 渋谷クラブクアトロ - pic by Hidenori Hashizumepic by Hidenori Hashizume
「ここはすごく自由な場所だから、さすがに全裸はマズいけど……いや、全裸でもいいや! 声をあげてもいいし、踊ってもいいし、チューしたかったら『チューしてもいい?』って訊いてからね(笑)。とにかく、この場所を最高の場所にしようね!」という松本敏将(Vo)のMCに導かれるように、フロアに満ちあふれていく幸福なヴァイブ……4月にカバー・アルバム『ゆめのうた』を発表、京都&東京で自主企画ライブ『tobaccojuice2009 若い犬の夢』を行ったばかりのブルース/ダブ魔術師4人衆=tobaccojuice。早くも東京・大阪クラブクアトロを舞台にした次なるライブ企画『バーチャル犬だよワンワンワン』敢行!

開演時間の19:00が過ぎ、まずはゲスト=東京60WATTSが登場。《人の意見や流行りの唄に流されて東京湾に辿り着くブルース》と歌う“江戸川ブルース”でいきなり渋谷クラブクアトロの空気を老舗の飲み屋のような枯れた色に塗り替えたかと思うと、アップテンポなピアノ・ソウルから「正真正銘、俺たちのブランド・ニュー・ソングを聴いてくれ!」(大川たけし/原文ママ)と紹介されたストーンズっぽいロックンロールまで自由自在に響かせていく。

「僕らも結成10周年です。って楽屋でtobaccojuiceと話してたら、『あ、俺らも10年だよぉ(軽く)』って(笑)」「一緒に闘ってきて、でも僕がずっと(対バンに)誘ってばっかりで。誘ってもらったの初めてなんですよね。やっとこれで相思相愛になれました」と軽やかに語る大川。だが、戦場へ赴いた恋人に思いを馳せる女の哀愁が滲む“ウイスキーバーブルース”や、アーバンなピアノ・ロックに乗せて死の瞬間に渦巻く感情を描き切った“昇天”、そして「いい唄作ったぜ! とりあえずやらせろ!」とバンド魂を炸裂させる“東京60WATTSのテーマ”……酒とソウルとブルースの向こう側にアーティスティックな衝動が吹き荒れているような、才気と迫力に満ちたアクトを見せつけていた。あと、この日はMUSIC ON! TVの生放送のカメラが入っていたのだが、そのカメラを大川がやたら気にして「はい、2カメお客さんナメて!」と夙川アトムの業界芸みたいなディレクションをしていたのも、演奏が終わった後「M-ON!なめんなよ! 全国放送だぞ! 1秒でも2秒でも長く映っていたい!」とのんびり牛歩退場していたのも笑えた。

そして20:09、いよいよtobaccojuice登場! “トライアングル”の緩やかなダブのリズムで、さっきまでの酔いどれホットな余韻は一転、ファンタジックな空気へと変わっていく。「遊ぼうぜ!」「リラックス、ダンス&ジャンプ!」と独特の甲高い声でふわふわとフロアに呼びかける松本。ダブとサンバが手を取り合って駆け出したような“ミラクル”や、ザ・クラッシュが隔世遺伝したようなレゲエ・パンク調でカバーしたベット・ミドラーの名曲“ザ・ローズ”をオーガニックかつアグレッシブに歌いながら、それこそジャミロクワイか昇竜拳かってくらいの鮮やかなダンスをステージ狭しとキメてみせる。

「今日、渋谷まで電車で来た人は、あそこのスクランブル交差点を通ってきたと思うんだよね。そこで空を見上げてる歌です、今日は」という不思議なMCとともに歌い始めたのは、名曲“ヘッドフォンゴースト”。センチメンタルなスロウ・ダブ・サウンド、そして《本当の家に帰りたい》という松本の包容力のある声……街の雑踏にひしめく「ヘッドフォンで自分の心を聴いている人々=ゴースト」たちを抱き締めるように、その音は高らかに響き渡っていた。

「渋谷っていう場所はあんまり好きじゃない。交差点で身体がぶつかっても、魂がぶつかる感じがしない。ここもある意味、交差点みたいなものだと思うけど、ここはあの交差点とは違う。みんなの魂がぶつかり合う交差点にしたい! 本気出せよ! 遊ぼうぜ!」。「本気出せよ!」と「遊ぼうぜ!」、そして「パーティー」と「ブルース」がせめぎ合うような……高揚感というよりは熱病に浮かされたような感覚に包まれて、“工場町”“ダイヤモンド”でオーディエンスはゆらゆらと思い思いに身体を揺らしていく。そして、“ドリームス”の心地好くうねるブルースから、一気にダブ・パーティーへ突入! クライマックスは文字通りの“パーティーブルース”! 脇山(Dr)/岡田(B)/大久保(G)が織り成す、タイトながら隙間の多い音像の中を、松本が白い鳥のように歌い踊り、その熱はやがてフロアへと伝染していった。

ほどなくアンコールで登場した4人。「今日のこの空間に捧げます」という松本の言葉とともに演奏したラスト・ナンバーは“ガーベラ”。アコギの優しい響きに合わせて歌う、《死ぬまでにあと何回この綺麗な場所へやってこれるのかい?》というメッセージ。真摯な闘争としての「遊び」、その果てから高純度な高揚感を引きずり出そうとする……そんなtobaccojuiceそのもののような優しくて強い歌が、この極上の夜を締め括っていた。(高橋智樹)
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