ハナレグミと中村佳穂によるツーマンライブ「HOW BEAUTIFLOW!!」。2022年のFUJI ROCK FESTIVAL、2023年に有楽町・I'M A SHOWで行われた「新しい聴衆・三月 #01」、2024年に福岡で開催された「Sunset Live 2024」でも素晴らしいセッションを重ねてきた両者。京都・ロームシアター京都、東京・NHKホールで行われた今回のライブでふたりは、お互いの声、旋律、言葉が有機的に結びつく、圧巻のステージを繰り広げた。
5月31日、東京の最高気温は30℃。夏を感じさせる日差しを浴びながら渋谷の街を抜け、NHKホールへと急ぐ。会場に入った瞬間に聴こえてきたのはビル・ウィザースの楽曲。心地よいざわめきとライブへの期待が入り混じった会場の空気も気持ちいい。
18時を少し過ぎた頃、ライブがスタート。いつものようにハットを被ったハナレグミこと永積崇、青のキャップを頭に乗せた中村佳穂、バンドマスターの宮川純(Key)、コーラスの植松陽介(Cho)、稲泉りん(Cho)が姿を見せ、客席から華やかな歓声が沸き起こる。オープニングに選ばれたのは、ハナレグミの“音タイム”。美しいエレピの音色に乗せ、まずはハナレグミが歌い始め、中村が声を重ねる。目を合わせて《君と僕とは 遠い昔に/出会ってたような 気がしてる》というフレーズを奏でるふたり。中村がダイナミックな歌声を響かせると、それに誘われるようにハナレグミの声量も上がっていく。楽曲の後半ではコーラスふたりを交えた4声のハーモニーが広がり、ゴスペル音楽のような雰囲気に。解放感と感動が押し寄せる、最高のオープニングだ。
スキャットと同期するように強靭なドラムが鳴り始め、“Hey日”へと移り変わっていく。前へ前へと力強く進んでいくビート、ファンクネスを感じさせるアンサンブルとともに描かれるのは《これは死ぬまでの茶番だよ/気になる扉が開いて待ってる》というライン。身体的な快楽と思考を促される感覚が一緒になった「これぞ中村佳穂!」な時間が続く。
続く“LINDY”では、このバンドの素晴らしさをたっぷりと体感できた。鋭さと透明感を併せ持った高木のギタープレイ、多彩なリズムを繰り出す越智、伊吹のコンビネーション。宮川のド派手なキーボードソロを挟み、民族的なビートへと変化したあとは中村がロングトーンを交えた独唱でまたしても客席を沸かせる。卓越した技術と独創的なアイデアが絡み合い、この瞬間にしか生まれない音楽が立ちがっていく。
家でずっとピアノを弾きながらひとり言をしゃべり続け、最初はこんなビートがいいんじゃないか?とかいろいろやり続けるんだけど、1時間半くらい経つと何も言うことがなくなって、それでも喋り続ける。それをあとで聴き返すと、時々キラッと輝くものがあって、それは私のものではなく、誰のものでもない美しいもの──。その直後に歌われたのは《「みんな同じ辛いのよ。」》というフレーズ。いつの間にかは楽曲は“忘れっぽい天使”に移っていて、観客は中村の奥深い歌声に包まれる。力強い地声、天に昇るようなファルセットが溶け合うボーカリゼーションはまさに絶品。ハモンドオルガンの荘厳な音色も、祈りにも似た彼女の歌をしっかりと際立たせていた。
そして「もう1曲やってハナレグミにバトンタッチしようと思います」という言葉から“さよならクレール”へ。曲が進むにつれて緊張感を高めていくバンドサウンド、スリリングに舞い上がるメロディと《(息が…!息が…!)》というラインが共鳴し合うシーンはこの日の最初のハイライトだった。
ここでハナレグミが呼び込まれる。「すげえぜ! 素晴らしい!」と絶賛し、「前回は京都だったんだけど、ハナレグミとしてこういうツーマン企画は初めてで。いいライブに呼んでもらったな……と思ったんだけど、俺が企画したんだった(笑)」というトークで笑いを取る。一瞬でお客さんをゆったり脱力させる、これもまたハナレグミの魅力だ。
ちょっと先の未来からメッセージを受け取るように歌を紡ぐ中村、そして、過去の出来事をノスタルジックに描くハナレグミ。ふたりを繋ぐ「今」という時間を豊かな音楽へと結びつけることこそが、このツーマンイベントの軸なんだろうな……などとぼんやり考えていると、ハナレグミがアコギを響かせ中村佳穂の楽曲“そのいのち”が始まった。「私が言いたいというより、みんなに言われたいことを書いた」(中村)というこの曲は、《生きているだけで君が好きさ》という歌詞が印象的なフォーキーなナンバー。ふたりの声に励まされるような気持ちになったのは、きっと私だけではないだろう。
「Say Yeah!」のコール&レスポンスに導かれた“Peace Tree”ではオーガニックな手触りのリズムに乗って、観客のハンドクラップが鳴り響く。大切な人との出会い、ふたりがひとつになることの喜びを歌ったこの曲はそのまま、ライブにおけるオーディエンスとの関係性に繋がっている。ピースサインを掲げて身体を揺らし《peace tree》と大合唱する観客たちからも、この瞬間を全身で楽しんでいることが伝わってきた。
個人的に最も心に残ったのは、“ハンキーパンキー”だった。答えはひとつだけじゃない、楽しいと素直に言えるだけでいい。そんな思いを刻んだ歌詞の一つひとつを手渡すように歌うハナレグミ。そう、言葉とメロディを介して感情を共有することこそが、歌うことの本質なのだ。ハモンドオルガンとコーラスだけのシンプルな編成によって、歌の本質を浮き彫りにするアレンジも素晴らしい。曲が終わったあと、「温まってますか〜?」と笑顔で語りかけ、ゆっくりと観客の心と身体を解いていく姿も印象的だった。
さらに極上のファンクチューン“か!た!!かたち!!!”へ。高木が爆発的なギターソロをかましたあと、中村佳穂が呼び込まれ、ビートに乗って自由にフロウを描き出す。「8」「10」と数字をコールして、その数と同じ「キメ」を合わせるセッションでは、「もうすぐ52歳になるから52!」(ハナレグミ)と自由すぎる展開に。最後は中村が「120!」と叫び、120回のキメを刻むと会場全体からやんややんやの大喝采が送られた。
鳴り止まない拍手と手拍子に導かれ、ハナレグミ、中村、バンドメンバーが再びステージに呼び戻される。演奏されたのは中村が大学時代に制作した“get back”。ややレイドバックしたビートを軸にしたR&Bテイストのサウンドの中で、さらに自由度を増したセッションが繰り広げられる。ハナレグミが曲の途中で最近あったショックな出来事を語り、中村は“家族の風景”のフレーズをマッシュアップ。さらにコーラスの植松と稲泉のソウルフルなフェイクも加わり、祝祭ムードが広がっていく。すべての音、すべての声が気持ちよく解き放たれ、ライブはエンディングを迎えた。
音楽の、そして歌うという行為の素晴らしさをとことん味わいつくした2時間半。終演後、客席のあちこちから「やばかった!」「今年いちばんでしょ」という声が飛び交った大充実のステージだった。ぜひ再演を期待したい。(森朋之)
●セットリスト
ハナレグミ×中村佳穂
ツーマンライブ「HOW BEAUTIFLOW!!」
2026.5.31 NHKホール
ハナレグミ&中村佳穂
01. 音タイム
中村佳穂
02. Opening something
03. きっとね!
04. Dollar Pony Rides(Mac Miller cover)
05. Hey日
06. LINDY
07. q
08. 忘れっぽい天使
09. さよならクレール
ハナレグミ&中村佳穂
10. そのいのち
ハナレグミ
11. 11DANDY
12. Quiet Light
13. Peace Tree
14. 家族の風景
15. ハンキーパンキー
16. 独自のLIFE
17. か!た!!かたち!!!
18. 光と影
ハナレグミ&中村佳穂
Encore
19. get back
●ライブ情報
ハナレグミ「faraway so close 2026 with sweet thing♡ 〜guitae&strings〜」
2026年9月26日(土)
昭和女子大学人見記念講堂
開場17:00/開演18:00
全席指定¥8.000(税込)
※未就学児童入場不可
【MENBER】
徳澤青弦カルテット
1st Vn:須原杏
2nd Vn:町田匡
Va:三品芽生
Vc:徳澤青弦
Gt:石井マサユキ
提供:SPEEDSTAR RECORDS
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部