●cutman-booche
「どーもー!」というウリョンの挨拶で登場したcutman-booche。スムーズでファンキー、ときにゴリゴリなロックを聴かせるそのアーシーな演奏は、湖畔の芝の広場というロケーションにもよく映える。ある意味「出演が決まった時点で勝ち」タイプのバンドだ。野外フェス隆盛の時代に後押しされて支持を集めていくアクトも多いが、お茶の間と野外ステージを繋ぎとめてしまうSWEET LOVE SHOWER自体が、とてもラディカルで面白いイベントであることに気付かされる。ウリョンも「音楽を通して繋がることが最高」と言っていた。「最高ついでに新曲作ってきました」と聴かせてくれたのは《立ち上がれ、立ち上がれ》という力強いメッセージのリフレインがエモーショナルな一曲である。個性を活かし切ることでイベントの趣旨を支えてしまうような、素晴らしいオープニング・アクトだった。
●フラワーカンパニーズ
初日の本編開幕ということで、スクリーン上でのカウントダウンが行われてスタートしたフラカン。こちらはロケーションで言ったらアウェイ感バリバリな、ライブハウスそのままの性急なロックンロールだ。アウェイ感をひっくり返すようなロックンロールのマジカルな力を引き出すことが出来るかどうかというのも、野外フェスの面白いところである。「おーい、起きてるかー!? 12年ぶり、2回目の出演です。20年やって1回も売れてないんだぞ! 富士山、見える?」「おじさん、見えるからいいよね?」と圭介&マエカワによるMCだ。うまいこと言わなくていい。直線的な8ビートとハウリングしまくる圭介のシャウトが、ハンド・クラップと一斉ジャンプを徐々に身近なものにしてゆく。後半の裸の文学性が炸裂する名曲“深夜高速”から祭囃子ブルース“真冬の盆踊り”にかけて、一気にオーディエンスを沸き返らせていった。大勝ちしたことはないが、苦戦しながらも奇跡の逆転サヨナラ勝ちを繰り返してきたフラカンの歴史、それそのものを描き出すようなステージであった。
●秦基博
アコギ一本で静かに、次第に沸々と沸き上がるようにスタートした秦基博。屋外に映える、美しいファルセットも聴かせる歌声とソングライティングだ。“キミ、メグル、ボク”などではイントロのコード・ストロークだけで楽曲の面白さがわかる。満を持して披露されたスペシャ開局20周年ののアニバーサリー・ソング“サークルズ”では途中ボーカル・マイクにトラブルが起こってしまうものの、オーディエンスはまるで秦の肉声を楽しむような雰囲気があった。ラストのニュー・シングル曲“Halation”まで、シンプルなステージングだからこそ伝わる秦本人の圧倒的な表現力が発揮されていた。ところでこの初日は、割とこのMt.FUJI STAGEにレイドバックして聴けるアクトが、LAKE STAGEにはアッパーに盛り立てるアクトがというふうに色分けされている感がある。Mt.FUJI STAGEに腰を下ろしていてもLAKE STAGEのサウンドは聴こえるようなので、ゆっくり過ごすのもひとつの楽しみ方かもしれない。
●LINDBERG
ビートルズの“ゲット・バック”をオープニングSEに登場したLINDBERG。懐かしい。いきなり名曲“今すぐKiss Me”を投下、自信満々で歌メロをオーディエンスに預けてしまう。さすがにメンバーは歳を取っているが、それでも元気に跳ね回りつつ歌う渡瀬マキは立派だ。スリムなボディ・ラインが昔のままなのが凄い。もともと再結成の意味が懐メロに振り切れた期間限定のものなのでそのつもりで楽しめるのだが、グルーヴィなエレクトロ・ダンス・ロック“POWER”では、川添のベースがブリブリと唸っていたりディープ・パープルの“スモーク・オン・ザ・ウォーター”のキーボード・リフが聴こえてきたりフィンガー5にメドレーで繋いだりしておもしろかっこいい。あ、そうか。山中湖畔だからジュネーブ湖畔の歌詞に引っ掛けて“スモーク・オン・ザ・ウォーター”なのだ。シャレが効いている。終盤も名曲連打だったが、オーディエンスに歌わせるのももちろんアリだけどやっぱり渡瀬の声も聴きたい、というのが観る側としての微妙な心理である。
●フジファブリック
「地元でライブが出来て嬉しいです。それに尽きる!」と志村にとっての凱旋公演にもなったフジファブリック。今夏のフェス・モードの彼らはバッキバキのダンス・ロック連打セット・リストであって、やはり今回もそういうステージになった。キラキラした金澤のキーボード・サウンドが弾け、大活躍する。でも、ダンス・ロック連打のステージというのは普通、単調な雰囲気に陥る落とし穴があるのだが、それでもフジファブリックがダンス・ロック連打を可能にしているのは、歌のフックに引っ掛けるようにしてダンス色を強める、そのソングライティングの地肩の強さと節回しのおかげなのだ。志村「10周年おめでとうございます」客「20周年だよー」志村「うそ、そんなにやってるの!」。そこ、間違えちゃだめでしょ。ラストの“Sugar!!”の歌い出しでスペシャのロゴがプリントされたタオルを広げ、フォローする志村であった。
●チャットモンチー
とりわけ今回は、リズム隊の素晴らしさがよくわかるステージだった。“とび魚のバタフライ”なんて、こんなにかっこいい曲だっけ!?みたいな、凄まじくミニマルで音の隙間にグルーヴが宿るようなプレイを聴かせていた。アルバム『告白』からの楽曲が多い現在進行形の堂々チャットモンチーで、もはやアグレッシヴでアクロバティックなコンビネーションを「楽々と」叩き付けているような印象さえあった。“染まるよ”は何度聴いてもしびれる。個人的に、この曲と“ツマサキ”は邦楽ロック至上最高峰の女子言語ロックだと思っている。MCでは、スペシャ番組「チャットモンチーのCHAT HOOD」復活編として、会場でのラップサンド=“ラップラップラップ”販売を告知していた。メンバーそれぞれ制作のラップサンド3点セットで、えっちゃん作その名も“がっつりえっちゃん”、あっこちゃん作のヘルシー系“パーフェクトボディ”、久美子ちゃん作のデザート“大人の休日”とのこと。このネーミング、的確にチャットモンチーな3者の個性とケミストリーを言い表していて素晴らしいと思う。なんでこういうのがサラッと出てくるんだろう、この人たちは。
●flumpool
今回は揃いの黒パンツにピンクのTシャツで登場したflumpool。ほんと、大舞台にも物怖じしないこの貫禄は、結成2年ちょいのバンドとは思えない。デビュー以来発表してきた楽曲の大半は爽やかでメロディアスなギター・ロック/ポップが大半だが、ステージでは力強いダンス・チューンも披露するなど、作曲能力の高さ、演奏力の確かさは既に折り紙付きと言って良いだろう。でも、正直に言うと、まだ個人的に彼らの表現の世界観というか、バンドのカラーが明確に見えていないところがあって、もちろんこれまでの作品が外部作家の提供曲を含むこともあるのだろうけれども、爽やかなポップ・バンドなのか、しかしとりわけ“MW 〜Dear Mr. & Ms. ピカレスク〜”というバンドのオリジナル曲に見られるように人の暗部に切り込んでゆくロック・バンドなのかというところが、まだいまいちよくわからないのである。どちらもflumpoolだよと言われてしまえばそれまでなのだけど、これからの活動の展開の中で明かされてゆくことかも知れない。ステージのラストはメロディアスな美曲“Over the rain”で幕となった。
●ユニコーン
白地に細いストライプの入ったツナギで登場。ちょっと阪神タイガースっぽい気もするが、真正カープ・ファンの民生を始めそんなことをするはずがない。今回は演奏はもちろんタイトに纏まっているのだが、気合バリバリという感じではなくて往年のユニコーンのなんともいえないムードを思い出させる感があった。ああ、間違いなくユニコーンだなあ、という印象。そしてそんなムードの中で更に思ったのが、“ひまわり”とか“WAO!”とか、既にクラシック化していないか?ということ。今年に入ってからリリースされた楽曲とは思えない。古くさいという意味ではなくて、やはり正しくユニコーンな楽曲群が生み出されているから馴染むのだな、と思うのである。“服部”のテッシーのギターはやはり、ヘビメタ直撃世代ならではのプレイで凄い。そして“大迷惑”での民生は、《あ・り・じ・ご・くー!》のところで、サングラス越しだからよくわからないけど、たぶん拳を振り回しながら五木ひろしの顔になっていた。
●サカナクション
富士山がそのシルエットを空に浮かび上がらせている。そして西日の陽光が湖面に反射してとても奇麗だ。“Ame(B)”のユニークなコーラス・ワークでスタートしたサカナクションは、個人的にはこの日のベスト・アクトだったかもしれない。目標到達地点を過去のあらゆるロック・サウンドのフォーミュラから突き放し、率直な感情の描写をしながら不特定多数のリスナーを興奮の渦に巻き込んでしまうサカナクションは、本当に素晴らしいロック・バンドだ。新しくてポップ、というシンプルだが実に難しい課題をクリアしている。演奏は、決してうまくはない。草刈のベースなどは意図的にドンピシャリのリズムから外しているのではなく、「外れている」という瞬間も多々あった。でも、なんというか本当にその音に確信を持って鳴らしているのだな、ということが伝わってくる。山口は終盤、「中学生の僕に言いたい。まさかユニコーンさんとフィッシュマンズさんの間でやれるとは…お母さんありがとう。」と語っていたけれど、若いうちにサカナクションのようなロック・バンドに出会えるリスナーも本当に幸せだ、と思えて仕方がなかった。
●ザ・クロマニヨンズ
クロマニヨンズのステージに前説の人が現れてオーディエンスを煽るのは、清志郎の影響なんだろうか。「今、ギターの人が、水色のギターに持ちかえて。みずいろ〜、何か特別な〜、気合いを感じる〜、新曲聴いてください!」とヒロトが告げてスタートした“グリセリン・クイーン”は、ボーカルの発声とビートがドライヴ感をリードするかっこいい曲だった。今回のヒロトは「また地味な色のギターに持ちかえました」「でもこの色がいいんだよ」と、なぜか頻繁にマーシーのギターのことを話している。“草原の輝き”は野外フェスでよく披露される曲だけど、昔のプラモデルを一旦分解して作り直すような、別にパッと見は変わらないけど良くなっているんだよ、という、ものすごく男の子心なロックンロールへの向き合い方でバンド・グルーヴを生み出していて良い。目立たないけど個人的には好きなカード。あとは大体いつもどおり。「いつもどおり」ということは、クロマニヨンズの場合「最高」と同義である。
●FISHMANS:UA
クロマニヨンズを観ないわけがないのだが、サカナクションの素晴らしいオリジナル・グルーヴに触れてちょっとだけ「このままFISHMANS:UAに繋ぐ流れも美しいな」と思った。「ふじさーん、眉毛がすてきー! 帽子か」というUAの言葉とともに演奏がスタートする。佐藤が亡くなって10年、以前から共演していたフィッシュマンズとUAだけれども、もはやフィッシュマンズの復活にUAが手を貸すというより、FISHMANS:UAというバンドになってきている気がした。新曲作ってリリースすれば良いのに。フィッシュマンズとUAの楽曲が織り交ぜてプレイされるが、“WALKING IN THE RHYTHM”ではステージがオレンジのライトに照らされて燃え上がる。かっこいい。ユニコーンの再結成もそうだけど、ドリーム・チーム感と唯一無二のアンサンブルを同時に受け止めるような不思議な感覚に陥る。ラストの“ナイトクルージング”はただただ美しかった。欣ちゃんは明後日のスカパラ出演もあるし、メンバーみんな多忙だろうけれど、またこのスペシャルなステージを見せて欲しい。
●Dragon Ash
《山中湖調子どうだ♪》と“La Bamba”の歌い出しでスタートした初日のファイナル、DA。これはもう横綱相撲と呼べる内容だった。野外フェスの光景に捧げられるような、音も言葉数は少ないけど感動的な“CALLIN’”も披露される。「日が落ちて涼しくなった、こんな夏の夜にぴったりのバラードを歌いたいと思います」とKjが告げてスタートしたのは“Fantasista”だ。嘘八百じゃねえか。曲調とオーディエンスの反応が相乗効果でヒート・アップし「ミクスチャー・ロックはさ、そんなふうに後ろの方でまったり観るもんじゃないんだ。前の方来ちゃえよ」と告げると、どどどーっとオーディエンスが押し寄せてくる。当たり前だが、普通「来い」と言われてオーディエンスが大移動するなんてことは、滅多には起こらない。ロックにおけるMCというのはそれ自体に支配力があるのではなくて、オーディエンスの高揚感を背中からポン、と押してやるだけのものなのだ。それまでの演奏で、高揚は99パーセント完成しているのだ。KjのMCというのは、高揚が99パーセント完成したというタイミングを見計らって、その自信のもとに爆発のきっかけを作ってみせるのだ。こういうところがやはり、王者の風格というものなのだろうな。(小池宏和)