ZAZEN BOYS×立川志らく @ 渋谷C.C.Lemonホール

「今日はスタート時間が早いですからね。(仕事を)サボられた方もいらっしゃるでしょうけど……ありがとうございます。みなさん律儀に座ってらっしゃいますね(笑)」というのは他でもない向井秀徳のMCなのだが、休日並みに早い「17:30開場/18:15開演(実際は18:25頃だった)」という時間に、平日の東京・渋谷C.C.Lemonホールに集まったオーディエンスの雰囲気は、いつものZAZENのライブとは明らかに違う。それもそのはず、今日のライブのテーマは『マツリセッション独演会~スペシャルゲスト 立川志らく~』。すでに今月4日には大阪・厚生年金会館芸術ホールでこのコラボは実現しているとはいえ、ZAZENと志らく師匠? ロックと落語?……と、C.C.Lemonホールに集まった観客も誰一人そのコラボレーションの内容が想像がつかないままこの日を迎えたはずだ。そして、客席にあらかじめ配られた曲順表(ご丁寧に、いかにも落語テイストな勘亭流の文字で書かれている)の最後に記された「アソビ VS 落語 立川志らく」の文字が、そんな観客一人一人の「?」をさらに増幅させていた。

なお、せっかくなので今回のレポートは、上記の曲順表にちなんで、通常は英語表記の曲もカナ&漢字表記で書くことにする。ちなみに、この日は「みなさん律儀に……」と向井が言っていた通り、観客は誰も立ち上がったり踊り出したりすることなくきっちり座ってステージを凝視していたのだが、それは「本公演はオールシッティング・ライブとなっております。心の高ぶりを抑えきれず思わず立ち上がってしまう方もいらっしゃるでしょうが、今日ばかりは座ってお楽しみください」と曲順表にわざわざ書いてあったからだ。まったくもって向井も人が悪い。

フリーキーな“マツリセッション”から“コールド・ビート”“リフマン”“ホンノウジ”と、まずは「居合抜きサイド・オブ・ZAZEN BOYS」的な展開で幕を開ける。カシオマン/吉田一郎/松下敦を思いのままに指揮し、時にフェイントで翻弄しながら、向井はまるで気功師のように、その鋭利な音像に気合いと熱量を吹き込んでいく。向井のその「メンバー操縦っぷり」は特にここ最近、ライブを重ねるごとに顕著になってきているし、それこそ「演奏に乗り遅れたら命を落とす」くらいの視線で向井のカウントを待つ3人の緊迫感も日々うなぎ上り中だ。

“ダルマ”まで続いたその「居合抜きサイド」の後、“開戦前夜”からがらりと「ニューウェーヴ&エレクトロ・サイド・オブ・ZAZEN」へと突入する。なにぶんオールシッティング・ライブなので、さすがに会場が揺れるほどの熱狂が生まれたりはしないのだが、それでもみんな椅子の上でゆらゆらと身体を揺らしている。そして……いよいよ本編最後の“アソビ VS 落語 立川志らく”へ。いつものようにクールなビートとシンセが響き、カシオマンが焼酎ボトル型マラカスを振り回す中、ステージ前方に天井から白いスクリーンが降りてくる。そして、黒子2人がその前に高座をセッティング。鳴り続けるビートの中、向井が舞台袖の「めくり」(名前が書いてある紙)をめくると、そこには「立川志らく」の文字! そして、下手から着物姿でビシッとキメた志らく師匠が登場! 高座にきっちり正座し、深々と一礼。大きな拍手! ここでZAZENの演奏はストップし、舞台は志らく師匠の独壇場に。いつもの寄席とは違う客席の空気に明らかに戸惑いつつも、師匠はいきなり「こんな状況で落語をやるなんて、ある意味バツゲームです」とか「これは向井さんの発案なんですけど、あの人はキ●ガイですからね(笑)」とか、のっけから舌鋒鋭く飛ばしまくる。

「落語とロックは、違うようですが共通するところもあるんですよ、反骨精神とかね。ロックはお客さんがトリップするんですけど、落語は話してる自分がトリップしちゃうんですけど……」という話から、ひとしきりクスリ関係の時事ネタを繰り広げた後、「向井秀徳が『いい』と思った落語をやります。これが面白いと思った人は、向井さんと感性を共有してるっていうことですけど、面白いと思わなかったら、ZAZEN BOYSのファンやめたほうがいいですよ?」と、いよいよネタへと進んでいく。この日の志らく師匠の演目は、古典落語の名作「らくだ」。フグにあたって死んだ乱暴者=らくだ。喜ぶ長屋連中や大家をよそに、らくだの兄貴分という男が訪れ、たまたま居合わせた屑屋が騒動に巻き込まれ……というストーリー。じっくり、じっくり積み重ねた笑いの伏線が、最後の最後で狂気とともに噴き上げる。まさに名人芸!

ネタが終わると、再び“アソビ”のビートが響き始める。スクリーンが上がると、そこにはこの日のために作ったらしいグッズのTシャツに着替えたZAZENの4人が! 「遊び足りない!」という向井のシャウトが高らかに響く。まさに彼の「遊び足りない」感が生んだ今回のコラボレーションは、どこまでもイビツで、それでいてかつて感じたことのない背徳的な快楽に満ちていたのは確かだ。「カンパイ!」という向井の声を残して、4人はステージを去った。そして……アンコールの声に応えて登場した4人は、なぜか1本のマイクを取り囲むように身を寄せ合って立ち、そのまま“安眠棒”を「全員ボイス・パーカッション」もしくは「エアZAZEN BOYS」とでも言うべき奇っ怪な形で披露。さっきまであんなに切れ味鋭いサウンドを叩き出していた4人が、♪ジャッジャー、ジャッジャーと口々に言いながら、酔っ払いのようにふらふらと演奏の振りをしているのである。志らく師匠が向井を「キ●ガイ」と呼んだ意味が、ちょっとわかったような気がした。最後は同じTシャツに着替えた志らく師匠とともにメンバー紹介&大団円!(高橋智樹)

1.マツリセッション
2.コールド・ビート
3.リフマン
4.ホンノウジ
5.ウィークエンド
6.ヒミツ・ガールズ・トップ・シークレット
7.ダルマ
8.開戦前夜
9.ウォーター・フロント
10.アイ・ドント・ワナ・ビー・ウィズ・ユー
11.サバク
12.ザ・シティ・ドリーミング
13.アソビ VS 落語 立川志らく

アンコール
14.安眠棒