マリリン・マンソン @ ZEPP TOKYO

週末にV-ROCK FESTIVAL ‘09出演を控えているマリリン・マンソン。それに先行して、東名阪ZEPPでのツアーが行われた。今回は最終日となる東京公演。木曜日の夜であるにも関わらず、フロアを埋め尽くしたファンの熱気が充満するZEPP TOKYOである。今回の来日公演の最大のトピックと言えば、やはりマリリン・マンソンを02年に脱退していたバンド・オリジナル・メンバー、トゥイギー・ラミレズの再加入だろう。開演前から既に、トゥイギーの名を呼ぶ声もひっきりなしに上がっていた。

まだ幕のかかったステージに稲光のような照明が走り、不穏な不協和音が奏でられ始める。個人的には随分ご無沙汰となってしまったマリリン・マンソンのステージなのだが、やはりこうした細やかな演出にはドキドキさせられる。そして爆音とともに幕が落ち、バンドは怒号のような歓声の中でアグレッシヴなインダストリアル・メタル・ナンバー“ウィアー・フロム・アメリカ”をスタートさせた。星条旗の星の部分に稲妻を模したマリリン・マンソン・ロゴが入ったバックドロップ。アメリカの暗部を映し出す鏡=マリリン・マンソンは健在である。そしてトゥイギーが、ベースではなくギターを弾いている。オーディエンスに投げキッスをして上機嫌のマンソンには、スペシャル・ゲストというふうに紹介されていたトゥイギーである。

マンソンは終始、すこぶる機嫌が良いように目に映っていた。この熱狂的なリアクションの中であればさもありなんなのだが、ライヴを観るとこのバンドの支持層の厚さ/熱さには改めて驚かされてしまうようなところがある。黒づくめのゴス風、或いはV系ファッションの人、ライダース風のいかついロッカー、文系オルタナ派と思しき人、そしてギャル系の派手なお姉ちゃんも、マンソンの一挙手一投足に夢中になって声を張り上げている。ちょっと肉がついてふくよかなシルエットになった感のあるマンソン=ブライアン・ワーナーなのだが、観る者を釘付けにしてしまうスター性にはまったく衰えを感じさせない。

“ディスポーザブル・ティーンズ”の大合唱や《ウィ・ヘイト・ラヴ! ウィ・ラヴ・ヘイト!》とお約束のコール&レスポンスから始まった“ヘイト・アンセム”など、この辺りは当然、鉄板の盛り上がりを見せるのだが、効果的にちりばめられた最新アルバム『ザ・ハイ・エンド・オブ・ロウ』からの楽曲がとてもいい。スローなヘヴィ・グルーヴを腹の底に響かせる“プリティ・アズ・ア($)”、トゥイギーの美しいギター・フレーズからドラマティックな叙情性とともに描き出される“ブランク・アンド・ホワイト”、そしてこれまたトゥイギーの華やかでいかがわしいギターが大活躍、極めて単調なのに沸々と激しい感情の昂りをもたらす“フォー・ラスティッド・ホーセズ”と、ステージの進行に抑揚をもたらす機能を感じさせた。初めて最新アルバムを聴いたときは「随分メロディアスな曲が多いな」という印象だったのだが、トゥイギーのギター・プレイを含めてライブ・パフォーマンスへと還元されるものが非常に多いアルバムであることがよく分かった。

「チ○コ」連発のご機嫌下ネタ・マンソンだったが、終盤の“ロック・イズ・デッド”から“ロックンロール・ニガー”カバーへの流れは圧巻であった。そしてマンソンはトゥイギーに向かって何度も「ファック・ユー」を浴びせかけるのだが、まるで惚気た彼女が「ばかばかばかばか」みたいな、微笑ましい距離感を感じさせるもので、ああ、やはり盟友の復帰は嬉しいのだろうな、と思わせた。アンコールにはキラキラとした紙吹雪が舞うドラマティックな“コーマ・ホワイト”、そしてラストに“ザ・ビューティフル・ピープル”の大シンガロングで終演。正味1時間半。その時間以上に短く感じさせるパフォーマンスであった。客電が点灯すると、フロアの至る所から「ええーっ!」「もう終わり?」の声が上がっていた。(小池宏和)
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